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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
日射す竜の内
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Ⅱ-Ⅳ含み言葉に突きつけて

 最初の言葉の応酬は、いたって平凡といえば平凡だった。ただ、殿様という存在と実際にはなした事はないし、歴史で勉強した織田の大ウツケさんや、懐にぞうりのお猿さんといった有名人物がどういう態度で接したらいいかまで書いてあろうはずが無いじゃないか。

 まだ冷や汗はでてこないけれど、話すといってもどう話したらいいのかとは凄く悩んでしまう。顔にはでないようにしたいけれども。

 春香自身はそう考えているが、目の前の斡辰(あつしん)は入ってきたときから全身を探るように見てくるので、あまりいい気はしなかった。

 話し方について、さきにお願いをしたのだが横にいる男へこういっているのが聞こえる。  


「ふむ、まあそれは仕方ないだろう。門外人(かどとじ)ならばそういったこともうなづけるらしいが。どうだ?井双路(いそうじ)?」


 斡辰が真ん中だとすると、隣にいる人物がだれなのだろうかとおもっていたが、「いそうじ」さんというようだ。最初の印象でイケメンアイドル「イケドル」さんというあだ名をつけてしまっていたのは何もいわないほうがいいだろう。イケドルこと、井双路さんはこっちをみているのが斡辰と片木梨さんに比べてどちらかといえば後ろに控えている近条路(きんじょうじ)さんと雰囲気が似ているのだ。

 

「ああ、そうでしょうね。門外人以外ではあまりああいった服装といいますか、随分としっかりとした服を着ていますね斡辰様」


 にっこりとしながら話してきた自分の服装についてだが、やはりこっちの世界基準になると変な服になるのだろう。和装のような服なんて今時どうやったってお茶や華道といった文芸の類に着ていくかそれこそ結婚式とかぐらいしかイメージがわかない。ただ、春香にはそういってきた井双路のはなしかから、随分と酷い服を着ているといった風に感じられた。


「こっちの気候が今いつだか分かりませんけど、夏だったし仕方ないじゃない」


「聞こえんように呟くならもう少し声をおとさないとね。次は言わないけど俺らが話しているときにぶつぶつ呟くのは無し」


 独り言なのに井双路の耳にはしっかりと聞こえたらしく、穏やかな話し方をした中に釘がしっかりと刺されている。春香が小さくはいと、答えるとにっこりとルクスのつきそうな笑顔を返された。


「季節はどうでもいいけれどね。いや、門外人はどんな人物が来るかわからないし、君みたいな人物が来るのも納得済みといえば納得している事なんだけれどもね」


 井双路の説明中にでてきている門外人という単語に、内容は詳しくは分からないが恐らく自分のような異世界転移者のことだろうか、ということを春香は考えていた。

 この世界にある単語は漢字の使用普及が一般的なのだろうけれど、どういう漢字を使っているのか分からない以上に安易に内容を決め付けると痛い目というか、大恥をかきそうだと感じたからだ。

 井双路の言葉のあとで続く言葉が無いのですみませんといいつつ、春香はその意味を聞くために質問をした。


「真に申し訳ないのですが、そういったこちらでの言葉で説明されても分かりかねるので、その意味も話していただかないとわからないのですけれど、説明をいただけないでしょうか」


 あまり敬語を使ったためしはないがこれくらいでいいだろうか?と春香が尋ねると、イケドルさんいや、井双路さんはニコニコとしていた表情を変えて自分の足元を眺めた。何か虫でもいるのだろうか?と自分も目線を下にしても、足元には雑草がはえているだけだ。


「ははぁ、君の式は、岩の約束をひたすら守ってくれてるみたいだね」


「え?」


「おい」


「いや、岩っていうのはこの怖い顔している俺の従兄弟なんだが。こいつ、式に余計な事を話でもしたら式使い諸共に叩ききるぞっておどしたらしいんだよね」


 岩という人物が、片木梨(かたぎり)さんだと聞かされて驚きはしなかったが、岩とよばれた本人はあまりよくなかったらしく、短く井双路に注意をする。式との約束云々のくだりは知らなかった事実だが、余計な事をしたらたたき斬るとは何とも物騒な言い分である。参謀と以前は考えたけど脳筋というほうがどちらかといえばあっているかもと、春香は頭の片隅で思った。この片木梨という人は思っているよりも武闘派らしいし、脳筋にちかいのだと感想を訂正しておき、井双路さんの言葉へと続ける。


「ああ、だから黒と話しても喋らなかったわけですね」


 そう、話しかけても喋らなかったわけではなく話せなかったのかと、自分も話しかけようとしていたということを伝えておく。どちらとも取れるというより、何も話さないほうが相手に対して疑念を抱くものだから。ただ、今つかまっている状態をみるとどっちみち話そうと、話すまいと何も変わらない気もするが。話していないという事実をきいた片木梨さんも無表情のままそれを聴いていたが、斡辰のほうはそれを聴いて脇息においていた腕をかるく叩いてにやりとした。


「ほう、あの式もしゃべらなんだか。ならば、黒い奴、潜んでおらんででてこい、お前の主だけでは話が拙いそうだ。意味合いやら何やらを話す分には通じではなく、音に出すなら話すのぐらいは許可してやろう」


『お言葉ありがたく。そう言っていただけますれば』


 どういう意味で何かを納得されたのかはわからないが、かがり火の弾ける音にまぎれて、数日間は聴いていなかったというあの声が、頭に響かず眼前へ飛び出した。ずるりと自分の足元から伸び上がった黒乃が、耳のそばにある鱗を逆立てて斡辰たち三名に自分を守るようにぐるりととぐろを巻く。

 数日間あわなかっただけなのだが、なんだか少しだけ黒乃の体が大きくなったような気がして、自分の回りにまきついていくる胴体とその鱗を意識せずに見てしまった。

 後ろで見ていた近条路さんも間近で見たのは初めてなのだろう、おおという声を黒乃へ向けてかけている。


『御方、門外人は異界のモノ、すなわち御方のような式を扱うものであったり、あるいは意図せずこの世界に流れ着いたものを門の外より来しもの、門外人(とがいじ)いいまする。御方も呼び出されました故にこれに当てはまります』


 油断なくこちらへの守りを固めつつシャーと威嚇する音を出して三名へと敵意を出しっぱなしなのは、どういう考えあってのことなのだか。と、春香は頭痛がした。叩き斬られるかもしれない相手がここで出て来るのを許してくれただけでも僥倖だというのに。この式、やっぱり頭がいいのか悪いのかわからないのだ。

 三名ともそんな黒乃の威嚇も全然動じる様子が無いことから、出した時にはと考えにはあったらしい。猫に唸られたとでも言うように流してしまうと、先ほどよりも空気を重くして話しをしてくる。


「式がでた所で、まずは一つ。呼び出した人物について聞く。答えろ」

 

「呼び出されたことは私も聞きましたけど、式である黒からはなにも聴いていません。わからないと」


「そんなはずはないな。式は呼び出しに応じて世に現ずる。すなわち呼び出しに答える手順を踏まなければ封から出る事もできないはずだ。式使いのほうが知らないっつーのは、わかるかもしれねぇが」


 斡辰は即座に春香の言葉を否定した。ただ、春香に対する言葉ではなく、式であるクロノに向けられた言葉がどうもとがっているように感じるのは気のせいなのだろうか?

 黒乃もそれにはたはたとしていた翼をおりたたむと、ぐるりと春香の胸あたりでその頭部を前にぐいっと向けた状態で斡辰たち三名への守りをきめているようだ。

 ただ、そういう行動をされるということは、と、はるかの胸に不信感が沸いてきた。


「黒乃、あなた私に対して言っていないことじゃなくって、嘘をついているの? 分からないって言うのがなにに対してなのか、そういえば明確じゃなかった気がするけど」


『いえ、告げられる事だけを私は』


「告げられる事じゃない。話のすり替えはやめて。誰がわからないでも、わかっていて呼び出したのがどこの人間か、それはわかっているんじゃない?」


 有無をいわざすに春香は巻きついている黒乃へと言葉を続け、その瞳を見つめた。直接で見つめられたことでその一瞬目が左へと泳いだのを見のがすものか。特徴的なこの金目の竜は何度かの自分との攻防を経て、案外ヘタレが混ざっていることはわかっているのだ。


「ああ、目線ずらしたからそうなのね。いえるなら言って。あと、嘘つくんじゃないけどちゃんとはなした事になっていることがあるなら、あとあと拳と合わせて教えて頂戴」


 縛られていても関係ないと後ろで手のひらに力を込めて黒乃へせまれば、動けないのが分かっていても拳骨の恐ろしさが身に沁みた黒乃から答えが返された。


『も、もうしわけありません。確かに、式を呼び出した人物まではわかりませぬ。ですが、お国は、しっておりまするっ』


 慌てていた黒乃は逆立てていた鱗をおろして、一拍、斡辰の三名と春香の睨みつけに、ぽそり、と小さく言った。


『いち、一ノ白でございます』

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