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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
戸惑いの歩み
22/91

Ⅰ-ⅩⅨ 疫病みに至れる

注意:すこしグロイ描写がはいっております、見たくない方はさけてください

 動きがあったその小屋からでてきた男、人を保っていたその姿はその時を最後にする事になった。


 その男は確かに志坂(しざか)と呼ばれた男だった。這いずるように出てくる様は見えるもの以外には走りつかれていたところをたたき起こされたとしか見えなかっただろうし、事実そうだった。彼が眠りについたその少し前までは。

 彼の意識がねむりという深みへ落ちたのを認めた懐の石は、近条路(きんじょうじ)の目を欺いたその抑えていた呪いを志坂の内側に向かって植物の根の様に張り巡らし、その奥まで届かせると心臓へと絡みつかせ、ゆるゆると心臓にその力を加えていった。

 決して殺さず、決して意識を奪わず、春香たちがくる数時間の間に、事は全てなされていたのだ。


 春香はその異様な気配に黒乃を通して、肌が粟立っていくのを感じた。うずくまっている志坂からそらしてはいけないほどの紫色をした霧が噴出している。それは自分たちの他に見えていないだろうと、周囲の反応を見れば分かった。渦巻く紫は志坂の懐を芯にしているように鮮やかな色合いで心臓と同じ鼓動を刻んでいる。

 隣で爪を出していた黒乃もその両翼の爪を志坂に向けて大きく伸ばし、自分の契を結んだ主を守ろうとその隣にならんだ。


『あれが、目覚めたものです』


(何がっていえないね。とてもじゃないけどあれで、あそこで立とうとしているのが信じられない)


 春香と黒乃は其処にいる志坂を同じ目で見ていた。立ち上がろうとする志坂の殻をかぶった別の何かだ、と。片膝に手をおき、ゆっくりと立ち上がった志坂は薄目を開けていたが、それが意識を持っているかどうかを春香たちが判別するには至らない。

 立屋からでで立ち上がった志坂の目線を最初に受け取ったのはその真正面にいた春香の後ろの男だった。目線が軽くあっただけであるその男は、志坂を見たとたん、その場で下を向く。

 その両肩は震え、春香と志坂の相対する姿をみながらも、穂先は春香に向けていた足軽の一人が彼を心配して声をかける。


「おい、どうした? 」


 突然に下を向き、震える男に声をかけると、返事はなく、男の声ではないすさまじい音が響いた。一瞬にして血に染まりきったのは男の下半身とその胸元。噴出したのは血を交じらせた何かの塊たち。

 吐き出した男はそのまま自分の血の上にかがみ倒れ、液体と砂利にまみれた嫌な音がそれに続く。

 

「ひぃいいいっ?! 」


 あまりの出来事に倒れた男へと声を掛けた足軽はその槍を放り出して、腰をぬかしてしまった。

 血のにおいがあっというまに周囲に広がり、男の隣にいた腰を抜かした足軽のとなりにも伝播(でんぱ)して、春香と吉郎の傍からも人が離れていく。

 その光景をさも、当たり前のように志坂が見ているのを何名かがみてとるが、彼に何が起こったかをはわからない。ざわつきが混乱をよび、それにしたがい志坂と二人から人は離れ、大きな円囲いのように人の群れが形を成した。


「ああ、ああ、あの、式使いか」


 志坂の声は反響するように鈍くぶれている。志坂がはっきりと目をあけこちらを見たときに、その姿を春香は捕らえた。あれはミテハイケナイ。


「吉郎さん、こっちを見ないで! あれは見てうつる。黒乃がいる私はともかく、あなたは保証できない」


「ふぁっ?! わ、わかった」


 吉郎を突き飛ばして男たちの方を向かせた春香の目に映ったのは、志坂の体の中心、そこに花咲いている紫の花びらだった。五つの花びらをこちらに咲かせ、その中心には女の顔がついている。

 女の顔は美しいのに、その縁取られた黒い瞳は美しさとかけ離れたグロテスクな印象をもたらしている。こちらを志坂が見ているがその瞳と女の瞳は、同じ色になっていた。黒乃を通してみている光景を自分と同じ誰が見ているだろうか、こんなにも気味の悪い代物もこの世界ではあるのか。軽い現実逃避の思考が自分に流れて、そこから頭を軽く叩いて今へ戻ってくる。

 春香があらためて顔をみると、なにかをその女の顔は食べているように口がゆっくりと動いていた。


『ああ、形となってようやっとわかった。荒神に近い気はあるが、呪いではない。人の落ち術か』


(落ち術?なにそれは、呪いとどう違うのよ?! )


 目線さえ合わせていたくはないが、志坂から目を外したら別の誰かにこの視線が向くかと思うと、春香は志坂からその見たくもない黒目をはずすことはできなかった。顔の噛みしだいている様をみていられないし、何を食べているのか想像がついてしまいそうで、食べられているものの悲鳴に集中しないようにした。


『落ち術、すなわち、守るための術を遠い昔だれぞが作ったものです。長の月日と、血にあてられもしたのか? あるいは何かが術を食らおうとして逆に侵されたか。この術の守るという役目を暴走させつつ、人の生気を奪うなんとも面倒な術へ変えてしまっております』


(なるほどね、神様じゃなくってもともとは呪いでもなんでもなかったのが、年月でああなったと。というか、アレを止めることが出来るかの自信が少しなくなってきたんだけど? )


 血なまぐさい臭いに、少しだけハイになっていた気持ちが押さえ込まれ、眼前の人にくっついてしまっているモノをどう引き剥がしたらいいのかと、春香はそれと目線を交わしたまま黒乃と同じように姿勢だけは決して正面からそらさないようにしている。

 女の顔はそんな春香をみているのかみていないのかわからないが、志坂は確実にこちらへと意識をむけているらしく、ちいさく口元が上になっているのだけが分かった。

 

「ああ、ああ、これは何とも………。いや、うまいのだな」


「かすれた声でいわれてもっていいたいけど、何を食べているのか聞きたくは無いわね」


「決まっている、そこの奴の生気だ。いや、はじめて術というものに触れたが、こんなこともできるのかと驚いている」


 薄く笑っている志坂は花の口が租借し終ったのと同時に意識もはっきりしたらしく、たぶん、初めてになる物の食事に満足げにしていた。術の行使とは縁遠かった体へ満たされていく生気、そして、未だ足りないという飢えが、志坂に次の標的を決めよと声高に言ってくるのだ。

 目の前にいる、その人物はうまい事この上ないだろうと。


「ああ、お前も食えるのか……。さぞうまいだろうな、そんな気を持っているなんて。考えてみたら式使いのものだからまぁ、そうなんだろう」


「勝手に人を食べるだの物騒というか、化け物みたいな思考だこと。止めろっていっても聞きたくもっていうか、聞かないつもりよね」


「んん? 止めさせる事が出来るとは、思えないが?ああ、本当に匂い立つ、ウマソウウマ、ウマソウ」


 志坂の言葉の語尾が途中からあやふやとなり、その顔にうつっていた意思ある様が一転、口の両端を一気に釣り上げ、よだれをだらだらとたらす獣じみた形相へと変わった。

 血をはき崩れた男の傍から離れた一団に追ってはいってきていた羽黒(はぐろ)も、見たこともない異様さに声を掛ける事さえできない。

 陣での騒ぎにすぐさま駆けつけてみれば一名の兵が血の海に倒れふし、志坂のいた立屋の前にいるのは見たこともない服を着ている中性的な男女?のような人物と、志坂の隊にいれさせられていた吉郎。羽黒も己の武器に手を掛けているが、どちらに向けたものだろうかとためらいから、その刀を抜けずにいた。

 

 羽黒が抜き放つことを選び、太刀を向けたその時、ガキィンと大きな硬質音がひびく。羽黒の目前には先ほどの異様な風体のモノの背中、そして、其れに向かって大きく刀を振り下ろしている志坂の喜悦の表情をした姿だった。


「ちょっと、後ろの人。悪いけど刀とか向けないで。こっちに向けられたってわかったらこの紫色が自分以外を狙うから当てづらい事になるし、守りきれる自信がない」


 少年のような声が背中を見せたままの男から掛けられた。ギリギリと中空でとめられた刀に羽黒も助けられたことだけが分かるだけだったから。

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