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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
戸惑いの歩み
19/91

Ⅰ-ⅩⅥー②陣の内に三つ首の竜

 酒盃を傍らに置いたままの斡辰(あつしん)の三つ首竜の主は、近条地(きんじょうじ)や隣にいる片木梨(かたぎり)井双路(いそうじ)を軽く見まわすと、気だるげに言葉をはいた。

式使い、もしそうだとするならば誰かが荒神の封を開き、式陣士を作ろうとしたということは疑いも無い。だが、式陣士に至らぬ式使いというのが納得がいかないのは俺もだ」


「恐れながら、私の考えをお伝えしてもよろしいですか? 」


「構わない、近条地(きんじょうじ)話せ」


 酒盃を傍らに置いたままの斡辰(あつしん)の三つ首竜の主は、近条地(きんじょうじ)や隣にいる片木梨(かたぎり)井双路(いそうじ)を軽く見まわすと、気だるげに言葉をはいた。


「式使い、もしそうだとするならば誰かが荒神(あらがみ)の封を開き、式陣士を作ろうとしたということは疑いも無い。だが、式陣士に至らぬ式使いというのが納得がいかないのは俺もだ」


 深くかけている畳将棋(たたみしょうぎ)の上で身じろぎもしない斡辰の瞳が、在りえないといっている。荒神の封印を解くということだけでも他国に対して一軍をうごかすに等しい動機を作る。居並ぶ二名もその考えに至っており斡辰と同様に、伝聞を直にはなしに来た男へ向けるまなざしは疑いをもっていた。


「恐れながら、私の考えをお伝えしてもよろしいですか? 」


「構わない、近条地(きんじょうじ)話せ」


「式陣士ではありますまいというの、は術眼もちの私からしても気配が薄い事、ついで志坂(しざか)を逃がした事、もう一つは志坂めが式使いと確たる様子で話したことでございます」


「ふむ、続けろ」


 文字通りそうだと、近条路は思っている。志坂はもともと術の力が強くは無く、歩兵を統括するという点でのみ位を上げた者だ。実力は術力以外の武術という点だけだが、それでも一つの組を任せる程度には力があった。

 そして、志坂が式陣を見たというのに非を唱える主君たちの考えも分かる。術眼(じゅつがん)もちの近条路のように式の気配を見ることが出来る能力など持ち合わせておらず、ついで術か式なのかと言い切るほどの見力も持ち合わせてはいなかった志坂は、術の力に驚いて逃げ帰ってきたのではないかと言いたいのだ。

 近条路の言葉に井双路もその考えにふむと、目を細め聞き入っている。背後の空気に水の香りが強くうつり、松明よりも薄らと周囲の闇が払われていく。夜が終っていくのだ。


「確たる様子で志坂が話せる。つまりは式の姿を見たのではないかと思いまして。本来式となりし荒神の姿は見えぬもの、特に式陣については妄言を話せば安くは無い罰則がございます。それをおしてまでの事を志坂はする男ではございません。

 式陣士としてつかう式との何がしが違うとは私も存じませぬが、志坂は荒神、式の攻撃を受けたらしい傷跡を持っておりました。もし、その傷を負った際に姿を見たとすれば」


「傷が式でついたのならば属性はわかったか? 」


 続けるように言っていた斡辰の言葉には、まだ幾分かけだるさが含まれていたが、その目は意識の置くから頭をあげた竜の瞳になっていた。


「黒い影のものといえば、闇か影かといったところかと」


「式となりし荒神から受けたために、式の姿が見えるようになったと? あまりそういう(たぐい)の話は聴かぬが闇の類の荒神か……」


 斡辰は影をまとう闇の類の荒神についての話しを聞いたことは無かった。事実、闇を司るという荒神は自国にあった神礼記(じんれいき)の神話にも加わっていなかったと思われる。

 さりとて式陣がでていないという考えは、水守宗の中にはもうない。

 術眼もちである近条路の様に水守宗も術眼持ち、ついて術を扱うものとして自陣に戻ってきた志坂の気配に何かしらのモノがついてきている事は察していた。例えるなら、其れは黒い帯。志坂にすがるように伸びてくる何かの腕のようなもの。術眼もちであるが斡辰ほどではない片木梨や井双路も察知できる、それははっきりとした気配だった。

 既にきまった決断をあとは口に出すだけだとは思っていたが、斡辰の術眼にはその式陣がつけたであろう傷以外に禍々しい気配が出始めていることに気づき、口を緩く結んだ。


「だとしたら断を下だすには早いかと思っていたが……、奴の姓をはずす事にする。こたびの事だけじゃなく志坂の姓をとる事は俺から決めた事だ。式使いの正誤はいまだ確かとは言い難い。ただ、妄言のようであるならば、近条路、志坂を斬れ。不明なものやお前の目に映る不振な影があるようならば報告を追加しろ」


 近条路はそれに短く答えると、片木梨によって幕の外へ下がるように命じられ幕を後にしていった。

 黙している井双路が近条路が下がったのを見て、斡辰へと呟く。


「水守宗様、志坂を斬るとまで仰いますか」


「分かっていた事だろ。何かしらアイツがシッポを出さないかと思っていたが、よりによって式使いがでたと話してきた上に、あの黒い気配。通じている云々の前に、どうも解せない」


「と、いいますと? アイツがつれてきたもう一つの気配ですか」


 近条路が去った後の陣の西を、井双路は見つめている。志坂が帰って来た方角のおそらく志坂がいるあたりなのだろうか、そこからはっきりとした黒い気配よりも小さいが、埋め込まれたような気味が悪い種を感じた。小さな染みのような一点が、じんわりと広がる前触れのような感覚に、井双路は自分の腰の後ろに下げている武器へ手をのばす。すると、井双路の腰の後ろに下げている二対の棍に描かれている一匹の竜の瞳が、主の不快さに反応したように短く震え、高く鳴くような音を発した。警戒を呼びかけているようだ。同様に片木梨の小太刀の竜も震えていた。それぞれの竜を模した武器が発する音に二人が顔を見合わせたのと同じく、水守宗が自分の剣を手にとる。

 水守宗がとった剣は二人の棍、小太刀のような竜の文様や図柄を用いたものではない。竜の姿をとらずとも、気配で竜を現している。その剣は輝く白銀に、すべらかな柄には金色の玉が一つ、一匹の竜を剣の形に変えたものだとも伝わる斡辰家の宝剣、白九(びゃくく)光剣(こうけん)である。その銀色に輝く刀身も共鳴するように音を発し、斡辰を継いだ水守宗へと警告を発していた。

 三名同時に鳴り響くこの武器たちに、斡辰の三首(みくび)の思いは決まった。


「水守宗様、私が行きましょう。井双路、後を頼む。術力の大きさはさほどではないが恐らく未だ姿をみせていないだけだ。本体を現してからが本番になる」


 先にじゃりっと陣幕の外へ向かって歩き出したのは片木梨だった。大太刀の位置を整える音に、続く鎧のこすれる重い音がかさなり、片木梨の歩く後姿には一筋の緊張の線が張っている。

 井双路も腰につけていた棍をはずすと、片側へ持ち直しいつでも戦える体制を整え、片木梨へわかったと告げた。


「もしもとは思わないが、術力が強すぎるようだったらすぐ伝えろよ。岩丞」


「分かっている勝光、水守宗様、では失礼します」


「油断するんじゃねぇぞ。岩丞、志坂を斬れと俺はいったが恐らくそれで収まる気配じゃないかもしねぇ」


 短くかえすとすぐさま幕をあげ、片木梨は近条路の後を追う様に足早に歩いていく。既に日の光が地平線にかかり、夜明けを告げる鳥が鳴きだした。そこかしこで休眠をとっていた部下たちが起きだし、片木梨の姿に驚き挨拶をする。


「片木梨様っ?!おはようございます」

「ああ、いい朝だな」


 片木梨に挨拶した新兵の顔もみず、彼は近条路がいるはずの場所へと早足で歩いていく。寝起きの悪い奴らはまだいいが、おくの陣までは距離がある。片木梨の足は一層に速くなり、気迫漂うその姿におきぬけの兵士たちで挨拶を出来るものはへり、片木梨が鬼気迫る表情で向かう先、近条路の陣が見え始めると、既に何がしかの囲いのようなものができており、かすかに漂う血のにおいが片木梨たちが先に感じていた予感が間違っていなかったものとしている。数十人が集まっている囲いの外側ではつぎつぎと別の兵達が中で起こっていることを覗こうとして加わっていき、壁が厚くなっているせいで中を見通す事はできそうにない。


「ええい!何を朝からやっている! さっさとどかんか! 」


 思わずはりあげた大声にざっと、人の波が別れ、そこにいた予想もしない光景に片木梨は驚かされることになる。

 血なまぐさいにおいがするのはその光景のせいだった。こぼれおちた臓腑、吐き出されたらしいそれはまだ赤黒く熱を帯びているらしく、朝の冷ややかな空気のもとで湯気を上げている。倒れている男は二人おり、その男は志坂であることは片木梨にもわかった。もう一人は近条路の兵のだれかだろう、足軽のだれかしらが志坂と同じように内側の臓腑を吐き散らして死んでいるのだ。

 陣中から此処までは僅か、あの気配が膨れ上がる気配も無かったはずなのにこの始末はどうした事だろうと片木梨は男たち二人の死体を見下ろしていたが、その死体の反対側で立っている輪の内側にいる人物へと目をとめた。

 人物が手にしている禍々しい物体に、その恨みつらみのようなおどろおどろしさを感じつつ、持っている人物にはその石の恐ろしさなど欠片も伝わっていないようだった。自分と同じように髪を後ろに結んだ小柄な人物は、石を握っている隣に黒い何かを従え、その何かの金色の瞳がこちらを捕らえる。


「貴様、何者だ」


 問うた岩丞にかえす言葉はみじかい。


「ただの式使い」 と

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