表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
戸惑いの歩み
16/91

Ⅰ-ⅩⅣ 低い立場同士でしょう?

 黒乃の威圧を受けて、男が最初に話した一言は


「み、御竜?いや、式、式陣士?」


 多少なりとは事情を知るらしいものの発言だった。その発言に黒乃もふむふむと頷いて男に対する認識が少し変わったように見えた。身じろぎした男は一層に顔を真っ青にしているのがわかり、心情は見る限りでは「終った」といった感情だろう。


『式陣士を知っているか、ふむ、身なりはそれほど高くなさそうな所を見るに功をあげられずに落とされた者の様だな? 』


 春香の置いてきぼりなど気にもせず、黒乃は男へとずけずけといい、男はそれに苦しそうに胸を押さえた。ああ、どうやら図星なのだろう。青くなった顔を落として一層に気持ちを落とし込んでいる。

 感情の起伏が激しい事この上ない人物だと思える。だが文三がでていったのを考えてもあまりいい事態になったとは考えがたい。黒乃たちがこちらを置いて行こうとする話しの前に、春香は割り込むように黒乃の顔をどかした。


「式陣士みたいにみえるならそれでもいい、名前をきかせてもらえない?あと、無礼者とか言うのもどうでもいいから、今の状況打開したいのは貴方もでしょう。あと、とっととこの怖いだの何だの思っているようだったら、それは置いとく」


「へ、あ? いや、法陣士様?で」


「違う。事情があるけど法陣士とかそんなのではなく、私は私。いいから名前、あと斡辰(あつしん)様とかの目的、手早く話してもらわないとこっちもどうしようもない、最悪この黒乃があんたを食べたとしてもこっちは全然困らないからね」


「ひっ!!お、おれ、いやわたしは吉為(よしため)が息子の吉朗(よしろう)という!斡辰様の命ではないが、近条地様の命で先の地の偵察と奥村の人のあるなしをみてくるように二日の刻限を頂いてし、志坂(しざか)様の隊のひとりとしてきた! 」


 食べるという言葉に、吉朗が思わず反応したのも実は無理からぬ事だった。式陣ならばその常ならぬ力を維持するために人を喰らい、主である式陣士さえも内から喰らいつくすといわれるほどに凶暴なものだと伝承にはあったからだ。一息に言った吉朗がさぁいったぞと、こちらを見返しているので、黒乃もそれに満足そうに頷いた。


『ふむ、なればお前らの部隊は命に背いてこの村の者を襲い、かつ殺したという事だな。ついでにあの(ほこら)の中のモノまで奪う愚か者だとは知らなんだが』


「し、式陣様。どういうことでしょうか?私はそれには、殺す様をみる事はしましたが、奥の祠のモノについては存知申し上げません」


「ああ、貴方は吉朗さんね、わかったよろしく。で、志坂とかいう逃げ出した男がそれをもっていたのかもしれない?少し思い出して欲しい」


 春香は吉朗に短くそういうと、黒乃へと心話(しんわ)を繋げなおした。先ほどまで祠の上でぐだぐだとしていた黒乃は祠の中の事は一言も告げていなかったではないか。何故、急に黒乃は吉朗にそんな事をいいだしたのだろうか?主の怪訝そうな表情に黒乃が心話で開口一番にこういった。


『御方、あそこにあった神体というか、この村のお守りの本尊を抜き出した男はその志坂というもので間違いないでしょう。そして、さらに急がねばならなくなりました』


「どういうこと?志坂たちが抜き出した本尊が何がまずいわけ?」


「へ、本尊? 」


 それぞれにかみ合わぬ発言が流れ、その様に黒乃が心話を逆に外し、縛られたままの吉朗と春香へと向き直るように位置を変えてとんでもないことを続けた。


『いかにも、御方が思っているといいますか、我等が考えていたよりも事は深刻になりましたな。いやはや、あの呪いを持ち出す馬鹿者が居るとは。アレはこの地にあって治まっているもの。持ち出した本人だけが呪われるならよろしいが、この村で人死にを出した事で、事は更に悪化しました。下手をすれば斡辰の部隊が何人となるかは知らぬが、その千なら二百、二千なら四百は死ぬかもしれぬ、あれはわれと同じ存在が昔に造りしノロイ。御方なれば戻せるやも知れませぬが、時間がなければ、といったところです』


「なにぃ?!」


 春香と吉朗は同時に音声で怒鳴ってしまったが、はたと向き合えば吉朗が真っ先に黒乃へ申し立てた。


「式陣様、それが真なれば一刻の猶予もないではありませぬか!! 陣営地はここからさほど遠くなきところですが、山1つこえた先になります!志坂様が逃げ出した時には、馬は!馬はどうなっておりますか!?」


『無かろうな。影を見ても馬らしいものはなかった。恐らくその志坂という御方の爪を逃れたものは馬で陣地に戻ったか。ふむ』


「そんな、それでは陣営にすぐにも届いてしまう。式陣士殿!どうにかなりませぬか!」


 悲痛な声で訴えてくる吉朗に、どうするともなく春香は顔をしかめるしかなかった。いや、そもそも斡辰の情報を引き出してそれから彼をつれて、交渉に向かうはずだったのだ。祠の中にそんな危ないものがあったなどということは、黒乃は一言も話さなかったし、なにより平然と祠の上に乗っかって講釈をしていたのにどうして重要な事を一言声をかけないのか?!

 顔をしかめる春香に、黒乃はコッソリと心話でこう話した。


『御方、まぁ心配しなくともこちらの誰かがもっているかと思ったのですが、むしろ好都合。御方、これが好機と言うことなのです。よければ斡辰との仮契の可能性も』


 黒乃自身うきうきと浮かれ立ったような話しぶりをしていたが、春香はその発言にスッと顔色をもどすと、頭にあまり効果が無かったので、黒乃が無防備にさらしているその蛇腹に向かって鈍い音を立てさせて拳を振るっていた。めり込む音に吉朗が冷や汗を噴出し、黒乃も息を噴きこぼしたが、春香は構わないような冷めた目をしていた。


「契約云々の前に、人の命かかっているのを最初から話さないのは、どっちがひどいのかしら?ね?あと、吉郎さん、もし移動手段あるなら早いほうがいいですけど馬は一頭だけですか?」


 黒乃よりも背景から黒煙を噴出していそうなほどに禍々しい気配を感じた吉朗は、思わず縄に縛られたままでも、顔を背けようとした。が、有無を言わさず今度は自分が春香に目線を合わせさせられ、逃げ出す事さえ許さぬと春香はさらに抑揚無く同じ事を聞いてくる。


「逃げる前に聞く。馬は一頭だけ?移動手段ほかにない?」


「ひ、ひぃいい、何でこ、こんな。あり、あったと思いますっ。あと少なくとも四頭はいますっ」


 この禍々しい顔から逃れるため吉朗は必死に春香の質問に答えた。その言葉に今度はげほげほと未だむせていた黒乃へ春香は質問をぶつける。


(黒乃、ついでに言えばあなた馬とか扱いかたわかる?ああ、言う事聞かせる方法だけでいいからさっさと教えて。すぐにも向かわないと間に合わないでしょ?どうなの)


『うぇほっ!くっ、おんがた、ゲホッ。音造りの場所に的確に拳を入れる技、どご、げほっ身につけたのですか?うぇぇっふ。馬の扱いはわか、っており”ますっけふっ。すぐにでも向かいたいなら、ご命令のままに、えほっ』


「式陣様、だ、大丈夫ですか?。式陣士様、少々どころじゃなくこれはやり」


「式陣士じゃない。訂正するのが面倒だから式使いでいい。様つけられるのも面倒なの、ああ、文三さんがそろそろ戻ってくるかもしれない。とりあえず、黒乃、吉郎さん、さっさと斡辰様とやらの本陣に行くために馬の場所に!」


 訂正もほどほどに、時間はどんどん押されていく。春香たちが起こった出来事に追いつくよりもはやく、坂を転がりだしてしまった事件はどんどんと速さを増していった。

 春香たちがそうこうしている間にも、志坂は山の半ばをこえていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ