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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
戸惑いの歩み
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Ⅰ-ⅩⅡ弱さと思いを決める夜-2

 鳥のなく声に警戒をしながら、春香は黒乃へはなしを進ませた。

 

(身柱の条件を変える?生贄(いけにえ)になっているのが変わらないのに、どこを変えるって言うのよ)


『身柱自身が、どういう扱いに置かれるのかがわかっていないようですな。御方(おんかた)、あなたは身柱が単純に生贄となりつつ私どもを扱うとお考えでしたら、それはまったく違います』


(ん?生贄に他の役割があるっていうのか?大体はお前に食われることを想定して、戦いそうな気がするけれど)


 生贄になる人間というのに、式がつくということはそういうことなのではないだろうか?こちら側の世界に呼ばれるということは、取りも直さずに軍として力を得るのだから当たり前に其処の国に属して戦うことになるのでは?

 不思議そうな顔をしている自分に黒乃は再度畳んでいた翼を広げると、其処に大きく息を吹き付けた。色が雨が降るように抜け落ちていくと、一人の人間と思しき図が現れ、其処に翼がついたこれまた精緻な描写の黒乃が描かれている。関係ないのに、とても美的センスが高いのと、自分の絵が棒人間一歩手前のあつかいなのには若干不快感を覚えざる得なかったが。


『御方、此処に式である私と、御方の図を示しまする。御方が身柱というものを単純に私に食べられる事と、対国同士の兵器として考えていらっしゃるのは間違いではありませぬが、それほどに思考の自由になる身の上では身柱はないのです。そも、召された時には招いた者が身柱の存在を束縛、そして即座に自分の配下、まぁ生き人形の如くに仕立てられるでしょうな』


(な、?!)


 こげるような音がして焦げたような絵は自分の真上に何かを羽織った別の人物の絵が描かれると、自分に直結するように線が引かれ、それがぐるりと黒乃と春香の絵をおおい、上の人間に対しひざまずく絵へと書き換えられる。


『生き人形と申しましたのは、まったく間違いではないでしょう 。私の知る限りでは、召喚、契による憑き、そこからの転移完了後僅かで、上位契約を何も知らず結ばせられるのです。私は御方に使えるが、御方は意志も掴み取られまともに自己という存在を認識する事さえかないますまい』


 続くようにつげられた発言に呆気にとられるが、黒乃はそんな春香を気にとめる様子もなくさらに続けていく。傾いた月が見えているのか、斜め上を見上げるその眼差しはどこか遠くを見つめているようだった。


『身柱がそういったモノだとお分かりいただけたようで。ですが、御方。貴方は本来そうなるべきはずの身柱ではなく、今は式陣士でもございません』


(生贄どころか、もっと酷いあつかいだってわかったけれど、私が誰でもないみたいな言い方されてもわからないんだってば)


『身柱が最初に行う契を結んだ後の従契(じゅうけい)、意思を縛るほどの拘束の契約を結んでない貴方は、その従契がないため、式陣士ではありませんが、同時に貴方の意志で契を結ぶ事で式陣士として覚醒できる。自由に貴方の主君を定めることが出来るという立ち位置にいるのです』


奴隷の意思が自由になっただけがどうだというのだろうか?いかに式という存在を操ろうとも、その強さが常人の倍であるといわれても、春香には響かなかった。

 村で起こされたあの暴力と悲惨な略奪がある世界、自分が生きていた世界でもそう言ったことがなかったわけではない。遠い地で起こっている関わりのない事柄や、海外ドラマ、そういった現実にあっても決して交わることはない物語だったのだ。放り込まれてまだ一日も経っていないこの世界で、自分が何をすべきか、また、自分に何を求められているのか?

 黒乃がいう通りであるならば、自分は対国兵器として呼び出され、終れば待つのは生贄という末路だけだ。可能性として自由に主君を決められたからといって、その生贄という末路が(くつがえ)されはしない。


(自由に主君だのなんだのを決めたところでどうなるって言うのか逆に聞きたい。そもそも、お前だって自由になりたい身の上なのに、わざわざ契約して意思を奪われつつ国同士の戦いにいくという考えは納得できないね。私が不自由になるというか、自由に動けなくなる不利益をこうむってまでする理由がない。ついでにいえば、仕えないという算段をして気ままにくらす方がいくらもマシって事になる)


『御方、それが出来るなら私も其れを勧めたいですが、御方は身柱に関わってないとはいえ、少々この契の事を甘く見すぎておいでです。御方は二十二歳とお聞きしておりますが、あと三年しか寿命がないといわれてもそういった態度をおとりになることは出来ますか? 』


 バタバタと大きく翼を奮いつつ、画像を消して黒に戻した翼で春香の顎へ翼の先に着いた指をさしだす。驚かされることは多々あった、いや、ありすぎてそろそろ麻痺してくるのではないかと思っていたのだけれど、春香は一瞬呆然としたがハァ?と間抜けな声を出した。


「いやいやいやいや、ちょっとまって、寿命云々はどういうことなのよ?え?なにそれ?」


『お声がでております、御方。寿命といいますか我等を使役するにあたって適正である年齢がございまして。はい。二十五までの体でしか、私を使役する事はできないと思いますが?あと、契を強制的に結んだ時に既に決まってしまっている契約ですので、今からなかったことにする事も不可能でございます』


 とどめのダメだしはそれはもう腹にめり込んだどころか、いっそ心臓まで巻き込んで貫通させられたような強烈なものだった。こちらに呼び出された時点で全てが手遅れなんです、ご愁傷様とは一体どういうことなのか。お釈迦様だって理不尽さに怒るだろうさ。

 軽い風が虫の音に混ざって通り過ぎ、音が去った後では虫の声があるのに静かな空間が広がるという何ともいえぬ空気ばかりになっている。沈黙をどう受け取ったのかは、わからないが黒乃は畳みきった翼を緩くはためかせてこちらへ何かを言いたげにしていた。


(・・・・・・)


 繋げる言葉が出て来ないだけだったが、どういったものかも分からない。勝手に結ばれた契というものに何をしたらこれをなかったことにできるのだろうか?すると、そんな自分の心情を察したのだろうするするとこちらへと長い体を寄せて、黒乃はこう言った。


『御方? どうやってもこの契を、つながりを断ち切りたいとお望みですか?』


 (出来るなら。すぐにでも)


『ふむ、・・・・・・。ならば、御方、この言葉を覚えておいて頂きたい。(血をもって地を繋ぎ、縁をもって円と成す。これが契である)契というのの深さを語る言葉ではございますが、あなたがこの契約を断ち切りたいと望むのならば、此処に糸口がございます。まだ貴方はこれを成せる条件さえ満たしていない。故に、貴方にはその言葉を伝えることが出来ない。お分かりいただけますか? 』


 縁を円?血で地を?言葉の謎掛けにしては意味合いの広すぎる単語が多い。春香は、そう言った黒乃の言葉をゆっくりと頭の中で噛み砕いていく。断ち切れるとすればこれだけなのだとすれば、まずは意味を考える下地を作っていくべきなのだ。頭に刻みつける間、黒乃へついで質問をした。


(満たしていないって言うのは、力?それとも式陣士になっていないこと?条件をある程度理解するためにも何かが必要だって言うのならば、まずはそこから話よね?)


『おや、式陣士となることに納得されましたか?』


(納得はしていない。だけど、ならないとも言わないわ。ならなかったら死ぬだけとかのほうが冗談でも冷めるわよ。)

 

『では、条件を満たすために動くと?』


(それもちがう、貴方の言葉の意味を理解しようとして出来ないなら、私の何かが足りていない。こういうのって条件を整えても、意味が分からなければ押す扉を引っ張っていつまでも開かないのに近いと思うのよ。だからこそ、理解がいる。死なないためもあるけど、この世界というか、契についてを理解しつつ私が生きたい様に行かせてもらい、最短で契約ブチこわすっていうのを目標にしただけよ。文句ある? )


 そう、わからないなら分かればいい、できないなら出来るようになればいい。絶対にこんな理不尽なことを理解してたまるものかと思う反面、春香はどうやってもこの世界で縛っている事を弾き飛ばして、とっとと元の世界に戻るために強くなる道を選んだのだ。

 黒乃が何度も瞬きをしてこちらの正気を疑っていのだろうが、其れも知ったことではない。


『いや、・・・・・・御方。貴方は面白いといいますか、正道を行きつつ道を外れなさるという奇天烈な発想をするようで。』


(それこそ知ったことじゃないわ。どういう道だろうが決めた。とりあえず強くなって、主君だのなんだのをパーッと決めて、そっから契約について調べる。あと、これだけは外せない)


 ぐっと拳を前に突き出して春香はそこにいない、自分をこの世界につれて来た張本人の顔面に向かって右ストレートをぶつける構えをとった。


(召喚者とかいう人権を無視する奴に、鉄拳制裁どころじゃない地獄をみせてやるわ)


 既に月は落ちきり、夜はもうしばらくもすれば明けてくるだろう。かくして、式陣士となりたくないのに式陣士となり、契約が外せないならぶち壊してくれるという、思いの元、春香は自分がどれだけ苦難を選んだかも知らぬままに、目標をさだめてしまったのであった。

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