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誰が許した異世界転移  作者: カノ ハル
戸惑いの歩み
10/91

Ⅰ-9 何処の国かや

斡辰の部下をしりぞけたのはいいけれど?

第一村に到着したのはいいけれど、一番のボスは逃げて残されたのは……

戦う 形になったら明らかに自分が不利になるだろう対決だったのに、こちらを驚愕した顔でみつめていたボス。恐れをなしたように毛の長い馬のような生き物に乗って、あっという間に山の中に走り去っていった。

あまりの早さに、村人達の正面に立つ形となって春香は駈け去った志坂(しざか)を見送ることしか出来なかった。

風のように駈け去っていった志坂(しざか)がいなくなり、いきなり現われた人物だけが残される。残り風 には火花が散る音が不釣り合いに軽かった。

惨状の原因が逃亡したことで、固まった村人と春香が、残されたお互いを見るのはしごく当然だった。だが、


「…………」

「…………」


 返し合う沈黙に言葉の先は続かない。何を言うべきなのか、そもそも味方なのか。助ける気で一応来た春香としては気が抜けてしまったが、村人にはそうではない。

何もない(夜幕皮(やまくひ)で隠れていたのを解除しただけだが)場所から出てきた妖怪と間違われかねない登場、よくて必殺仕事人? いや、人間って考えられるのだろうか。私だったら警戒するし、普通だったら誰でもそうする。

もう一度、熱風が山上からの風に吹かれて、半身が熱を感じる。同じ熱に、村人達もみじろぎする。


 パチィ……バチン

「ひっ……――」


大きなたき火が爆ぜる音が空間の時も、はじけさせた。驚いた女性の悲鳴に私の目はそちらを追っていた。

 ボスの隣で酌をしていた女性が座っていた場所から尻から後ずさっている。春香からすれば敵意はないが、近くにいた女性にとっては、一番近い脅威。視線を合わせたらゴザからはみ出るほどに座ったままでズリ逃げる。

 こわくないですよ、と声を掛けても無理そうな気配に、「さて、どうしたものか」と思えば、此方を見ている視線の中に、他より集中して見ている誰かを感じた。

(? 誰だろ。)

 女性から視線をあげて、暗がりのほうにいる何人かに目検討をつければ、あるお爺さんとカチリと目が合った。視線をすぐに逸らさずに此方を見ていたので、彼で間違いは無い。

眼前の人に比べて比較的まだ落ち着いている空気で、春香の見立てなら、おびえよりも何かを知ろうとしている。そんな風に彼のことは見えた。

なにより、ちらほらいる老人の中で彼が一番前に来ており、その周囲に人が集まったような形をしていた。

 怪我をしている老人は、春香と会った視線を逸らさず、しっかりとした足腰で立ち上がる。

 少しよろけて隣にいた老婆がその老人の手を取ったが、ふらつくのも構わずに、この村で初めて言葉をかけてきた。


「あなたは、どちら様、でしょうか」

「私は、……」


 かすれながらも春香に尋ねてきた声は見た目よりも年を取っていない声音だ。春香は僅かに言いよどんで、思い出す。

(『練士とすれば、良いでしょう』)と。そうだ、私は練士としてこの世界にいるという設定をつけていたじゃないか。どこまで通じるか分からないけれど、言わぬよりは良いはずだ。


「練士、をしているセイといいます」

「は? ……」

「練士、です。突然に現われて驚かれたかと思いますが」


老人の顔が緊張感でなく、驚いたように固まった。逡巡するかのように顔が緩んで、眉が下がる。となりで支えている老婆までその言葉に驚いたように声を漏らしていた。

老人の驚く様に声が聞こえた村人がざわついた。

固まっていた空気に比べれば幾分かやりやすい雰囲気に、手応えを引き寄せた。空気が変わっている内に、ここで畳みかけておこう。


「その、山中より突然の来訪ですみません。

再度言いますが、私は練士をしているセイと申します」

「れ、れんしさま。ですか? 偽りなく? では、いまの術式も貴方が使われた……」

「ええ、山を渡っていこうとする最中で、ふいに走る子供をみまして。聞けば悪漢に追われていると」

「こども、ですか……姿は? 名前は……」


 子供という言葉にお爺さんが食付いた。よし、いい感じだ。


「腕を怪我していましたが、名前をタエと、しっかり教えてくれました。そのすぐ後から三名の追手もやってきていましたね。」

「では、ではあの子は?! タエは何処に」

「危ないのでこちらには、ですが大きな朽ち切り株のそばにいるはずです」

「お、おお…………みな、(*)コフナベ様がひと糸を垂らしてくださったぞ! 練士様、ありがとうございます! ああ、我らにも運があったとは」


 老人の言葉に、ざわついていた村人の余所余所しさと、不信感の冷たい視線が温んだ。誰とも無く、「おお……」という声を皮切りに、人質のようになっていた人々がさざめいていく。

『ふふふ、練士といえば良い、そう言ったのをしっかり覚えていたようでなにより。御主様』

『我ながらにそこそこ上手い言い回しが出来たかなーとは。

 学生やってるんだからそれぐらいの頭はあるわよ』


 先ほどの緊迫した空気が大分たわんでいるし、どうやら何とかそれらしく取り繕えたらしい。村人達はそれぞれがよろよろと立ち上がり、お互い涙ながらに抱き合いだした。

 よかったなぁ、よかったなぁ。という生きている事を喜ぶ大人の声に、タエと同じ位や下の子供達は泣きながら母親にすがる。喜び合う感動シーンだがそれだけとはいかない。抱き合う者以外に、何名かは遺体の山へ伏せって嗚咽を漏らしている。

(……さっきもみたけど、やっぱりそれだけですまないよな)

 助けられた命もあるが、春香は素直に喜べなかった。

 その思いの原因が、足下で僅かにうめき声を漏らす。


「その、助かったのは喜ばしい事ですが、暴行を振るった者をまずは縛りましょう。又起きてこられても困りますので」


 その言葉に、喜び合っていた村人達の顔がハッとする。そこからは、手近な家やら納屋から荒縄を持ち寄り、転がっている大男からひげ面二名を芋虫よろしくまとめ上げていく作業になった。

 怪我のひどい人も少なくはなかったが、お婆ちゃん方や、怪我の少ない子供達がすぐに動き出して、母親達の助けをする。遺体になっているよこで縋り付いて泣く子もいたが、動ける者から次々とそれぞれに閉じ込められていた村の面々を解放していった。


「練士様、こやつら以外の者はどうなされましたか?」

「それ以外で、立て札の左先に三名。ここに来る途中の道ばたに一人倒れています。あと、立て札先の道をそれた大きい切り株の根元に先ほど伝えたタエちゃんを置いてきています」

「な んと、村外に行きました者達も倒し済みとは。

聞きしに勝るお力ですな……。おおぅい、札の先に三人、ヤヅロの腐れ切株んとこにタエがいる、いっておくれ! 」

「はい、じじ様! ミネ達と行きます。ウニ、ヌク、藤太郎、フヅ縄持っておいで」

「あい!」


 じじ様と呼ばれた白髪の多い男性の隣を数人の女と少年が腕に縄を巻いて夜の山へ走って行く。そして、そのじじ様と、支えていた老婆は何故か私に平伏していた。


「その、そんなことをしなくても」

「いいえ、いいえ幸運が我が前に垂れたとしても、練士様相手に顔を上げるなどとてもでございます」

「ただの通りすがりですし、そこまでされるほどの……」


 人命救助をしているからまぁ、土下座でお礼とかもあり得るのだろうか? おまけに彼らも何故か黒之が見えてないらしく、こちらの隣で先ほどからふよふよと頭上に浮かんでいるその姿はわからないらしい。

春香と会話をしている一番前に土下座をしている人物、「じじ様」はこの村落の仮村長をしている者だと言った。名前は、文三(ぶんぞう)と言い、大人手が村からの税を納めに行った為に引き受けた役だそうだ。


「今時分は、どうしても先上納をさせていただかなければならぬ故とはいえど、力のある村の男共がおらなんだ時にこう言った事になることは初めてでした」

「……なるほど、男手がいないところを狙われたと」

「ええ。練士様がいらっしゃなければ、この小さな村など……焼き払われておったことでしょう」

「本当に間に合って良かった」


 心の底からそう思う。聞けば聞くほど、間に合って良かったし聞き捨てならない単語が飛び出してきた。いや、既に殺人事件起きてるし、婦女暴行やら器物破損とかだけじゃなかったと。もしも私が止めに入らなかったら、大量虐殺ですか。

異世界の倫理や、法律ってどうなっているんだろうか。……少なくとも春香が見ている範囲ではこの村にそう言った国からの法律とやらが行き届いているようには見えなかった。

 文化水準とかそこいらが低いのでは? という疑問。けれども、その割にはこの村は随分しっかりとした住まいが多く見受けられる。

 土下座をするオブさんの手前も奥も十戸の木材建築の家が並んでいて、それらは日本家屋よりも頑丈そうな作りだった。目線でなぞった屋根は厚い茅葺き。けれども、その下にあるのは板塀で作ったみたいな家じゃない。ログハウスの方が近い作りをしている。雨風をしのげるし、ヘタしたら雹くらい降っても物ともしなさそうだ。

それだけの技術力があるのに、村の住まいに比べて住んでいる人達の服はそれほどいい仕立てではない。


(現代よりの家っぽいのに、服装は現代よりじゃなくて、西洋の中世? いや、室町、安土桃山時代の頃だったらズボンみたいなのあったか。江戸時代くらいなら一体化の着物だったけか? )


 想像に頭が重くなっていると、文三さんが土下座している横に、まだ歩くのが難しそうな子供達が集まってきた。怪我はひどくなさそうだが、なんだろうか。


「じじ様、練士様って? こわいひとじゃないんか?」

「いやいや、術力のつかえる術式士様を目指しているお人よ。珍かなお方だが、非道はせぬ。ほんに、運が良かった」


 空気を読めない感じにも、文三さんは柔らかく応えてやった。

どうやら、大人達と違い詳しく練士について知らないらしい子供達が、文三さんが土下座をしている相手に興味をもってきたらしい。泥で汚れ、綺麗な涙の筋がついている顔は、大人達よりも私が敵意を持っていないと本能で理解しているのかもしれない。


「これ! ガン、じじ様のお話中にはいるんじゃない! 

 じじ様、れんし様、ごめんなさい。ガンは母さんのとこにいくんだよ。かかさん、扉が開いたからよんどったよ」

「ほん! あねちゃ! かっかぁ、かっかぁ!」

「フイ、ナム、オヤ、お前達もいきな。ナムは一ル《イツル》がもうすぐ出せそうだって言うからも少し待ちなな」


 集まってきた子供達を散らせるように、少しその子達より年上くらいの女の子がそう言った。まだ幼い顔つきをしているのに、子守りが得意のようだ。と、文三さんが一ル《イツル》という言葉に反応して顔をあげた。


「失礼、練士様。

 クナミ、一ル《イツル》たちの込められた処が開きそうなのかい?」

「うん、じじ様。あと少しくらいだって」


少女の言葉に、大きく重い音が幾つも重なった。ワッと言う歓声に、続いてバタバタと走り出す足音が複数重なる。音のした方向に顔をむけると、村の石小屋の様なところが突き崩されていた。

そこから出てきたのは、炭汚れの様な黒い粉に塗れになった男の子達だ。

それぞれが引っ張り出された中で、小屋周りで抱き合う人を後ろに、二人が此方へ走ってきていた。出てきた少年たちのとは一回りは違う高校生くらいの男子が此方に走り寄ってくる。その姿に、文三さんが涙をこぼした。


一ル(イツル)! ああ、良かった一ル(イツル)よぉ! すまんなぁ」

「げほっ、じじ様、無事だったか! あいつらはどうした!」

「おうおう、儂の怪我なんぞ。此度の事に比べれば。

仮役に務めておきながらこの体たらく。長には申し開きも出来ぬ」

「じじ様が身体を張ってくれたのは知ってる、三ツ太(ミツタ)も、俺も、公ノ(キミノ)も、こっちに来てねぇ奴だってそうだ。それに俺だって役立たずだったんだ。叱られるのは俺だろう」

「そんな事言うでない、伊助んとこも、木大んとこも……あったら事になったんだ。……皆の命を守る為やったろう」


話の流れから察するに、閉じ込められていたのは若い男子で、あのボス達に邪魔だと纏められていたようだ。

(家族単位で見せしめが行われたから、か。そりゃ、殺されないようにするには、だよなぁ)


春香の前でお互いの無事を確かめ合うように身体をたたき合う。煤まみれの顔や、傷ついた身体だったが生きているのだけでも本当に嬉しかったに違いない。

 と、イツルと呼ばれた男子が文三さんの前にいる私に気づいたように此方を見て、きょろきょろと周囲を見回した。


「あん? こんひと誰だい、じじ様?

あのダアコキ共どこいったんだ? あいつら弱くはなかっただろうどうやって追い払ったんだ、じじ様」

「……一ル(イツル)実はな、練士様が通り掛かって下さったのよ。

こちらの方がその練士のセイ様。

良き縁がさがってこなんだば、儂も殺されるのを待つのみよ」

「練士様が! ありがとうございます! 仮役と同じ言葉で申し訳ない。」


「あ、ああ、はい。大したことはしては」


出てきた少年も、礼をして同じ土下座をする。こうして次から次に土下座勢が増殖している。いつの間にか戻ってきていた山側からの探索の女性達も戻ってきて縛り上げられた男達をそれぞれに積み上げていった。


*ダアコキ……(日都の本(ひつのもと)の方言の一つ「駄悪放き」

我儘を言う、悪辣なことを言う、に、放つノ文字が入って、 悪辣な野郎、ふざけた愚か者

という意味あいになります。


錬士という存在は。僧侶や法師とはまったく違います。

修験者に近い存在でありますが、一般的には術を使うために修行をしているものや、術の精度を高め、仕官をするために学んでいるというのがもっぱらです。

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