かぐや姫とちょっと会う
「お待たせー、伊奈」
「遅いよ、咲乃」
「え? 五分遅れただけじゃない」
「私は三十分前に来てるんだよ」
「ふーん、そんなに早く私に会いたかったってか? あ、アイスティーで」
「そんなんじゃないし。だいたい一ヶ月前にも会ってるじゃない」
「まぁそうだけど。なんか、見るたびに派手になってくよね、伊奈。そんなピアス持ってたっけ?」
「先週、いつも言ってる先輩に引っ張られてお店行ったんだよ。あの人にはホント参るわ」
「でも友達じゃない。よかったよ、伊奈、大学でボッチ生活送らなくて」
「ボッチとか言うな。咲乃の言うとおり、頑張ってサークル入ってよかったよ」
「プー、クスクス」
「何その笑い?」
「いやいや、超絶人見知りの乗倉さんが、独りでサークルの門を叩いた一大冒険譚。何回思い出しても笑えるよ」
「うるさいなぁ、こっちは命がけだっての」
「なんで漫画研究会に入るだけで命がけになる必要があるの?」
「そういう性分なんだから仕方ないじゃない、知ってるでしょ? で? 咲乃は相変らずアメフト部で筋肉ハァハァしてると」
「失礼だね。ちゃんと選手のフィジカル・トレーニングのトレーナーしてるんだから」
「それって単に筋肉好きが筋肉作りの手伝いしてるってことでしょ? 性癖の延長じゃないの」
「性癖とか言わないでよ。これでも真面目にそっち方面勉強してるんだから」
「仕事もそっち方面?」
「できれば」
「咲乃にとっちゃパラダイスだよね。まぁ、相手に手を出してセクハラで訴えられそうだけど」
「その辺はプロとしてやってくし」
「いや実際、今回も選手に手を出したじゃない」
「そういう言い方しないでよ。ちゃんとした恋愛だし。あ、分かった嫉妬だ」
「何それ?」
「私が取られたみたいに思って嫉妬してるんだ」
「いや、そんなこと考えたもことないし」
「もーう、彼氏ができても親友は伊奈だけだよー」
「あーもーくっついてくるな。お店でそういうことするな」
「照れ屋さん」
「咲乃こそ私が恋しくて仕方ないんじゃないの?」
「まぁ、そうだよ。すぐ横に伊奈がいない生活なんて信じられなかったよ。何回か講義中に泣いちゃった」
「私もさみしいけどね。でもこれでいいんだよ。私たちは大人になっていくんだし、それは変わっていくってことなんだよ」
「うん、分かってるんだけどね。でもバイトまで辞めなくてもよかったかも」
「未練だよ、咲乃。会おうと思ったら、こうしていつでも会えるんだし。メールだって電話だってしょっちゅうしてるじゃない」
「そうだよね。それで新しい出会いがあるわけだ。伊奈に出会いがあるかは正直心配だったけど」
「私もだよ。でもそうやって咲乃に心配かけたくないから頑張ったんじゃない」
「膝ガクガクさせて部室前で一時間突っ立ってたんだけどね。プー、クスクス」
「まぁ、でもあの時声かけてくれた先輩にかわいがられて、こうしてアクセサリーやら服やらが増殖していって……あれ? これっていい出会いなのかな?」
「いい出会いじゃない。今度その先輩も紹介してね」
「いいけど。でも絶対にウマは合わないよ。同属嫌悪」
「伊奈を巡って戦争だ」
「向こうも同じこと言ってたし。男のくせにやたら嫉妬深いんだよ」
「え! 男なの?」
「そうだよ。あれ? 言ってなかったっけ」
「聞いてない聞いてない。え? 嘘。伊奈が男子と一緒に行動してるの?」
「まぁ、オネエっぽい人なんだけど。自分は女物の服が似合わないから、私を着せ替え人形にしてるんだよ」
「え? 付き合ってたり?」
「それはないよ。オネエとか好みじゃないし」
「いやいやいや、そんなの分からないって。仲良くやってるうちにくっついちゃうってよくある話じゃない。いや、そんなの許さない」
「はぁ? 嫉妬ですか?」
「そうだよ、嫉妬だよ。阻止してやる。伊奈の純血は私が守る!」
「純血とか大きい声で言わないでよ。さっきの話思い出してよ。お互い自立しなきゃ」
「それはそれ。これはこれ」
「もういいよ、好きにしなよ。で? 私に抜け駆けして作ったあんたの彼氏さんはいつ来るの?」
「もうすぐ来るよ。私たちの二時間後の時間言っておいたし」
「まだ一時間あるじゃない」
「あいつ、待ち合わせの一時間前に来る奴だから」
「はぁ、変わった人だね。どんな人か楽しみだよ」
「はー、なんかドキドキしてきた。親に会わせた時より緊張するよ」
「変なの、私たちただの親友じゃない」
「あ、来た! あいつだよ」
「筋肉すごいね。予想通りだ」