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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
2:10年

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第95話

クロキリ一人だけで修行しているとこんな感じです

「ふうううぅぅぅ……」

 俺は人間体になり自室で目を閉じ、呼吸を整えながら全身の力をゆっくりと、しかし確実に≪循環≫させていく。

 丹田から心臓へ、心臓から四肢と頭へ、四肢から一本一本の指に力を流しつつ、頭に流した力は目、耳、鼻と五感に関わる部位に集中させる。


 俺は目を開ける。

 全身に力が漲り、視界は大きく広がって聴覚と嗅覚も大きく強化されているのが分かる。


「いい感じだ。」

 俺はその状態で実際に体を動かして具合を確かめる。

 恐らくは≪循環≫を使ってない時に比べて身体能力は1.5~2倍程度に強化されているだろう。


 さて、何故俺がこんなことをしているかと言うともちろん修行である。

 この10年間。俺は一つ一つのスキルの使い方を根本から見直してアウタースキルを開発している。何故ならば魔神相手に生半可な力では意味がないからだ。


「じゃあ、この状態で始めますか。」

 俺は≪循環≫による強化を維持しつつ構えを取る。


「『我が身に流れるは黒き血潮。全てを蝕む黒き霧。さあ我が血よ氷嵐となりて全てを喰らい尽くせ。アウタースキル・クロキリバク』」

 俺の右手に黒い球体が生み出され、俺が右手を振ると同時に前方へと飛んでいく。そして爆音と共に通常のクロキリバクよりも多くの黒い氷と霧を撒き散らす。

 どうやら≪循環≫の力でスキルの発動効率も良くなっているらしい。

 なら次は、


「『幻想の大地より湧き立ちし黒き死の水。それは凍てついては廻り、廻りては凍てつく。為す形は剣。断つは現実。さあ見るがいい聞くがいい感じるがいい。幻想が現実に換わるその時を。アウタースキル・クロキリノ……ぐっ!』」

 俺の眼前で黒い野太刀が生み出されようとしている。が、それが形を成し、現実のものになる直前に俺の全身を強化されていた≪循環≫が激痛と共に弾け飛び、クロキリノダチも元の幻想に戻り霧散していく。


「つ……はっ……強化状態でクロキリノダチはやっぱりキツイか。」

 なぜアウタースキルが失敗したのか。その理由は分かっている。

 アウタースキルは魔神の作りだしたスキルと言うシステムの外を利用する技術だ。そこには各スキルに予め備えられているセーフティもロックもかかっていない。それ故に破壊力に際限がない代わりに力を増せば増すほど使用者に求められる能力も増大していく。

 そして能力が足りずに発動できければ今のようになるわけだ。


「さて、恐らくは足りない能力はステータスに表されるようなものじゃないな。」

 俺は冷静に先程の失敗原因を探る。

 なぜ≪循環≫を利用した強化状態でクロキリバクは使え、クロキリノダチは使えなかったのか。その差はこの二つのアウタースキルを使う上で利用しているスキルの数の差だろう。

 クロキリバクは≪蝕む黒の霧≫と≪霧爆≫の2つを、クロキリノダチはそれに加え≪循環≫、≪幻惑の霧≫、≪尖水柱≫の計5つのスキルを並列で解析・分解・再構築して生み出されている。

 つまるところは……


「キャパシティ不足か。こればっかりはな……」

 俺は思わずため息を吐く。


「まあいい。それならそれで別にやる事はあるしな。」

 再び≪循環≫による強化を行いつつ、頭の中に俺が習得しているスキルを一つ一つ思い浮かべて、それを単純化したらどう成り立っているかを考える。


 ≪蝕む黒の霧≫は自らの体を霧状にすると同時に霧に触れた相手への吸収能力がある。

 ≪循環≫は様々な流れを予め定めたとおりのものに変えるというもの。

 ≪霧爆≫は起点指定の爆発系スキルで起爆点の周囲に霧と氷を撒き散らす。

 ≪幻惑の霧≫は霧の中に視覚に影響を与える幻を作り出す。

 ≪尖水柱≫は魔力を変換し、地面から鋭い水の柱を生み出して攻撃する。


 そしてこれらを組み合わせてアウタースキルを生み出すわけだが……、まあはっきり言って発想力の問題だよな。同じスキルでもそれを主体とするか補助にするかでも変化が出るし。

 と、よくよく考えてみれば俺の使えるスキルは後2つあったことを思い出す。この2つのスキルを単純化して考えるなら……


 ≪魔性創生≫は自らの力を対価に新たな命を生み出すスキル

 ≪迷宮創生≫は自らの力を対価に特殊な物質を作り出すスキル


 と言えるだろう。

 と、なるとこの2つのスキルをアウタースキルに組み込むならどうすればいい?


「……。試してみるか。」

 俺は少しでもキャパシティを空けておくために≪循環≫による強化を止め、ミステスの目だけを作る形で≪魔性創生≫と≪蝕む黒の霧≫を並列起動する。

 ≪蝕む黒の霧≫を選んだ理由はただ、俺の根幹を成すスキルだから一番扱いやすいと言うだけだ。


「すぅーはぁー」

 一度深呼吸。


「ふん!」

 そして、俺は右手に≪魔性創生≫の陣を、左手に≪蝕む黒の霧≫の陣を出し、2つを胸の前で無理やり一つにまとめ上げていく。その際にスキルの方向性としてスキルの深奥に迫れる何かを生み出せるように念を込める。


 無茶苦茶だと思われるかもしれないが新しいアウタースキルを生み出す際に最初の実験としてやるときはいつもこんな感じだ。そして、これで上手くいけばそれをより洗練し、失敗すれば何故破綻を来たしたのかを調べる。そうやって俺はアウタースキルを作り出している。


「『我が身に流れる黒き血潮と新たな命を生み出す秘術。二つの力が集い束なり混じり、神の定めし命の形から離れて新なる生命が生み出される。アウタースキル・クロキリノシンマ』」

 俺がそんな事を考えている間に≪魔性創生≫と≪蝕む黒の霧≫が組み合わさった陣は崩壊と構築を繰り返し、やがて一つの陣となった。

 そして陣が輝いて新たなアウタースキルが効果を表した瞬間。


「ぐああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 俺の左目が潰れ、陣のあった場所には金色の虹彩を持った黒真珠の様な瞳が浮いていた。

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