第93話
「い、いや……助けて……」
少女は周囲の家々から上がる悲鳴と木の弾ける音をBGMに震える手足を必死に動かして這い、家の奥へと逃げていた。
「おいおい。逃げることはねえだろうがよぉ。」
「そうだぜえ。俺たちは物を分けてもらいたいだけなんだからよぉ。」
その少女を追いかけるのは帽子を被り、イヌ科の動物の尻尾を腰に着けた男たち。
その口元にはいやらしい笑みが浮かんでおり、自らの嗜虐心を満足させるために逃げる少女をわざとゆっくり追いかける。
「あ……あっ……」
少女は必死に逃げる。
だがやがて、少女は家の最奥の部屋の片隅に追い詰められてしまう。
「誰か……お願いだから……。」
少女はこれから自分の身に対して行われる行為を思い浮かべ、必死に身を捩り縮め込ませる。
「ひっひっひ。大丈夫だぜぇ。しっかりと可愛がってやるからよう。」
男たちが舌なめずりをしながら近づいてくる。
その目はどす黒い欲望に染まり、誇りの様なものは一切感じない。
「そうそう。すぐに何も考えられないくらい気持ちよく…」
そして男の手が少女に触れようとした瞬間。
男の右手が激しく燃え上がり、一瞬にして炭と化す。
「お、俺の手があああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、何が起きやが……」
男たちは急いで周囲を見渡し、戦闘態勢を取ろうとする。
だが、
「≪魔の矢束ね≫」「≪氷の矢≫」
「ぐがっ……」
二人の少女の声が家の中に響いた瞬間、片方の男の胴体が一瞬にして凍りつき砕け散る。
「な、何が起き……」
「問います。貴方は狐人ですか?」
腕が片方消し炭になった男の前にはいつの間にか二人の少女がおり、先程した声の片方。歳にして15にも満たないような少女が男に質問をする。
「あ、ああそうだ!俺こそが『百獣纏う狐姫』の眷属である狐人だ!しかも俺はその中でも高位の狐人で、俺に手を出したら狐姫が……」
男は突然現れた二人の少女に対して恐怖し、全身を震わせながらも必死に自らが狐姫のお気に入りであることを語る。
が、
「≪真偽判断≫発動。全部嘘。お姉ちゃん。」
「≪雷の矢≫」
少女の片方がそれを嘘と断じた瞬間もう一人の少女。歳にして16,7ほどの少女がスキルを放ち、男を感電させる。
「ギ……ガ……テメェ……何者だ……こんな真似をして……」
男は全身を感電により痙攣させながら地面に倒れる。僅かに動く口で少女に話しかける。
そしてその言葉に二人の少女は答える。
「私たちは霧人。」
「霧王様の眷属。」
「なっ……」
少女たちは唖然とする男たちを無視して歌うように言葉を紡いでいく。
「私たちは奴隷。」「霧王様の犬。」
男の帽子がずれる。そこには狐の耳は無い。
「霧王様の命。」「狐人を狩る。」
男の腰にある尻尾が外れて下に落ちる。
「貴方は違う。」「でも名乗った。」
男の顔は見る見るうちに真っ青になっていく。
「「だから殺す。」」
「ま、待って……!?」
男が命乞いをする間もなく二人の少女はスキルを発動し、一瞬にして男は全身が炎に包まれて消し炭と化す。
「次は」「貴方。」
「ヒッ!」
二人の少女は部屋の隅で怯えるもう一人の少女に一拍のずれも無く同時に顔を向ける。
その動きに少女はこの二人が外見こそ人間であるが中身は自分たちとは似ても似つかぬものであることを悟り、その恐怖から完全に腰を抜かし、股間の部分には染みのようなものが広がっていく。
「問います。貴方は狐人ですか?」
まるで感情の無い機械のように霧人の少女は怯える少女に問いかける。
「ち、違……」
「≪真偽判断≫発動。本当。お姉ちゃん。」
「ええ、次に行きましょう。」
霧人の姉妹は胴体が凍って砕け散った男の頭だけを持って家の外に出ていく。
そして霧人の姉妹が家の外に出ていくのを見届けると人間の少女は自分の意識を手放した。
■■■■■
「ほいほい。狐人殲滅作戦完了っと。」
俺は私室で現場から上がってくる報告を聞き届けてそう判断する。
「まだ油断は禁物かと。それに狐人と言うよりは狐人を名乗る人間です。」
トリがそう言って俺の事をたしなめる。
「分かってるよそんな事。ただ、狐姫の奴がやってる『霧人殲滅作戦』という名称に合わせただけだ。他意は無い。」
「はぁ……それならば構いませんが。」
やれやれと言った風に語る俺に対してトリがため息を吐きながら返す。
「それにしても彼女たち『霧の影』の力は物凄いですね。これだけの手勢でこれほどの成果を上げるとは……」
そう言ってトリは今回の作戦に参加した霧人と、彼女たちの戦果について纏めた資料を見ていく。
その中にはあの村を襲っていた狐人モドキを二人で殲滅した姉妹。貫ミツコと貫タバネも載っている。
トリは知らない。かつて貫ミツコが俺の命を狙っていたことを。返り討ちにあって捕えられたことを。俺の手によって俺の命令に従う立派な奴隷にされたことを。
そして、『霧の影』の大半が貫姉妹とほぼ同じような経緯を持つことを。
「さあて、狐姫の方に無礼者は始末させてもらったと連絡をしとかねえとな。」
「妙な言質を取られないようにお気を付けを。」
「はいはいっと。」
そうして俺と狐姫は自分の領内にいる互いの眷属を名乗るものを殲滅したことと、罪状を添えてそいつらの死体の一部を晒し者にしたことを報告し合った。
最初に出た時と性格が違うって?
それだけ色々されたという事です。
06/12 誤字訂正




