第92話
とある場所に主が異なる4匹の魔性、霧王のフォッグ、雪翁のアイスキューブ、竜君の桜の芽、狐姫の小火狐が集う場所があった。
彼らはいずれもそれぞれのダンジョンでは最底辺に位置する魔性であり、戦闘能力と言う面では期待できない存在であり、ダンジョン外では相当な数が集まらなければ役に立たないはずである。
おまけに彼は全員所属するダンジョンが違う。それならば目が合っただけでも本来は殺し合うはずである。
が、彼らは一ヶ所に集っている。
その理由は彼らの主にある。
『霧王よ。少々話をしておきたいことがある。』
小火狐がその身にそぐわぬ威圧感を放ちながらフォッグに話しかけて来る。
「い、いまつながってないー。よぶーよぶー」
その言葉にフォッグは多少の怯えを見せつつ返答し、自らの主である霧王を呼び出す。
勿論、本来ならば最下位の魔性が主である魔王を呼び出したりは出来ない。が、この場所にいる魔性はこの場に居る理由から特別にそれが出来るようにされている。
『何の用だ?狐姫。今は夜中だぞ。』
フォッグの放つ気配が最下位の魔性のそれから魔王『蝕む黒の霧王』のそれに変わる。
『ふん。どうせお気に入りと乳繰り合っておるだけじゃろうが。』
しかし、小火狐…いや、狐姫は霧王のそんな言葉を意にも介さず悪態をつく。
『よく言うぜこのビッチ狐が。』
が、霧王も狐姫の小言を気にせずに悪態をつく。
さて、いい加減にこのような場が用意されている理由について語るべきだろう。この場の存在理由。それは、
魔王同士での直接対談を行うためである。
『本題に入ろう。』
狐姫が今までよりも真剣な顔を見せる。
そして霧王も若干姿勢を正して真剣に聞く様子を見せる。
『妾の治めるダンジョン『戦獣達の狐都』の周囲の街に滞在している霧人を名乗る者たち。そ奴らを1週間後に狩らせてもらう。』
『へえ。霧人達をねぇ。俺がそんな事を許すとでも?』
二人の魔王の間に流れる空気が一気に険悪なものになる。
『ならば退かせればよかろう?魔王と眷属は特殊な状況以外では常に繋がっておるのだから。』
『ふん。だが、お前がそんな事をするのならばこちらも同じ事をさせてもらうぞ?』
そして最下位の魔性を依り代にしているにも関わらず、二人の魔王の周りには漏れた魔力による自然現象として狐火と濃霧が生み出されている。
もしこの場に普通の人間が居れば一目散に逃げているだろう。
『やれるものならやってみるがよい。』
『ああそうだな。やらせてもらおうとしよう。』
そして二人の魔王の気配に含まれている殺意が臨界点を迎えた所で、二人同時にその気配を失せさせ、後には中から魔王が去った二匹の魔性が残された。
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「どういうつもりですか!」
俺の私室に先程までこっそり一緒に俺と狐姫の会談を聞いていたチリトの大声が響き渡る。
「うっせーなぁ。別にいいだろうが。ミバコとセンクは対象外なんだしよ。」
俺は最近眷属になったお気に入りの少女の体を弄りながらチリトの訴えに耳を傾ける。
「だからと言って許容できるものじゃありません!同族が狩られるだなんて聞いたらミバコがどんなに悲しむと!」
ふう。と、俺はため息を吐く。
「あのなぁチリトよ。そもそも狩りは一週間後だぞ?もし俺が狐姫ならその一週間のうちに狐人は対象地域外に退かせてる。」
「だからと言って……あっ、」
チリトは何かに気付いたのか口を大きく開けて驚いた表情を見せる。
「まっ、そういう事だわな。俺だって一週間も準備期間があればその間だけこっそり霧人を退かせることはできる。狐姫に同じことが出来ない理由は無いだろ?」
「はぁ。つまりはそういう事なんですね。」
「そういう事だ。」
チリトは何かを納得した顔で部屋から退出した。
実の所を言えば狐姫の話は渡りに船だったと言える。
というのもここ最近『白霧と黒沼の森』周辺の集落ではとある問題が頻発しており、その問題を解決するためには狐姫の協力はぜひとも欲しかったのである。
さて肝心の問題の内容だが、まあ単純な話だ。
『狐人』を名乗る人間たちが狐姫の名を前面に出しながら集落を襲っている。
と言うだけの話だ。
ただまあ、これは一般人にとっては中々に厄介な話でもある。なにせ語っている名の後ろに居るのが魔王であり、万が一ただの人間が魔王の逆鱗に触れたのであれば一族郎党皆殺しでも生ぬるい状況に陥る可能性があるからだ。
だが、こいつらは…魔王の名を借りて集落を襲っている奴らは理解していない。
「さあて、本物か偽物かは分からないが眷属の名を騙るならばそれ相応の覚悟をしてもらわないとなぁ…」
魔王の名とは本物だろうが偽物だろうが眷属程度の力しか持たないものが使っていいものではないという事を。
魔王と眷属の間には容易には切れない絆があるという事を。
魔王を怒らせるとはどういう事なのかを。
イチコたちが合流するまでクロキリはやっぱり暇です。
06/17 誤字訂正




