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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
2:10年

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第91話

「今、この時ほど自分が食事無しでも生きていける眷属で良かったと思ったことは有りませんわ…」

「アタイもそう思うよ……。」

 凍えるほどの寒波が襲いくる砂漠の夜。

 私とムギの前には焚火代わりにと出力を抑えた≪渦炎≫を囲ってとある料理を黙々と食べている団員たちが居ます。


「いやー、満腹ネ。」

「美味しい……。」

 その料理を作った張本人であるウネとイズミはとても美味しそうに食べています。

 ですが、


「「「…………。」」」

 他の人間団員と怖いもの見たさで食べたホウキは非常に微妙な表情をして食べています。

 でも、私には彼らの表情を咎める事は出来ませんわね。私は食べていませんし、それに…


 蠍と蚯蚓の料理を食べられる気は私もしませんから。


 ええ、そうです。蠍と蚯蚓です。

 今日の昼に襲ってきた石油蠍と砂蚯蚓です。

 あの節足動物のサソリ(・・・)と土の中にいるミミズ(・・・)です。


「リョウとムギは食べないのカ?美味しいヨ?」

 ウネが私たちの方にそれを向けて一緒に食べないかと誘ってきます。ですが、


「いえ、私は体力が一切減っておりませんから…」

「アタイも遠距離組で食べる必要が無いから貴重な食料はそっちで消費しておくれ。」

 ここは全力で拒否しておきます。他の団員たちの恨みがましい目が痛いですが、無理なものは無理ですわ!



-----------------------



 そして翌日。遠くに火と煙を噴き上げている『黒い水湧かす油王』のダンジョンを望みながらも私たちは西進を続けます。


「リョウ姐さん。」

 と、索敵班が何か報告があるのか私の方に近づいてきます。


「どうしましたの?」

「遠くの空に星の城が見えました。このまま行くと1,2時間後には俺たちの上を通過しますね。どうしましょうか?」

 む…。星の城ですか。


 星の城と言うのは現在三つしか確認されていない移動型のダンジョンの一つを指す通称です。星の城は無数の浮遊島からなるダンジョンで、世界中の空を気まぐれに飛び、自分以外の空を飛ぶものを見つけると配下のモンスターに特攻させてでも落とそうとしてきます。また、時折ですが、地上にモンスターを大量投下させて下の人間を襲うこともあります。そのために星の城が上を通っている間は警戒を怠るわけにはいきません。

 そしてこの星の城に関して最も重要なのは、この城が存在するために人類は制空権を奪われた。という事実です。


 さて、本来ならば星の城が迫っているのですから陣形を組んで上空からの襲撃を警戒するか、適当な場所を探して身を隠すべきなのでしょうが、今私たちがいる場所は砂漠で、陣地の組みようも身を隠す場所もありません。おまけに近くには『黒い水湧かす油王』のダンジョンもあります。

 そして仮に星の城の魔王と『黒い水湧かす油王』のモンスターに同時に襲われた場合、いくら私たち『霧の傭兵団』でも苦戦は免れず、大変危険です。

 となれば、


「星の城の予測進路は?」

「分かってます。ほぼ真正面から来ますね。」

「それならば至急進路変更。星の城と油王のダンジョン。その両方から可能な限り離れます。仮に襲撃があった場合は無理に倒す必要はありませんから、撃退を第一にしてとにかく離れることを優先してください。」

「「「了解!!」」」

 私の指示に従って『霧の傭兵団』はその進路を大きく北に向かって曲げ、進むスピードを少し速めます。



---------------



 2時間後。多少の襲撃は上と下の両方からありましたが、同時に襲われるようなことは無く、無事に各個撃破することが出来ました。奇襲によって多少出てしまった怪我人も私の≪治癒≫で十分治せる範囲でした。


「無事に切り抜けた。ということでよろしそうですわね。」

 怪我人の治療も終わり、小さなオアシスで私たちは一息を吐きます。


「ですねぇ。ただ道を大きく外れてしまいましたから、次の目的地は多少変えるべきかもしれませんねぇ。」

 ホウキが水をコップに入れて持って来てくれます。


「ああ、やっぱりそうなったかい。」

 地図を確認していたムギがやはりと言った顔をします。


「安全には代えられませんわ。それで、最寄りの街は?」

「ここから西に行ったところにあるよ。ただ、本来のルートから外れているからかつてのエジプトに着く前にある場所の近くを通る事になりそうだね。」

 ムギの顔が苦虫を噛んだようなものになります。そしてムギのその言葉に私もホウキもそのルートの先に何があるのかを思い出しました。


聖地(・・)ですか。」

「ああそうさ。外はかつてその地を聖地と定めていた宗教の人間たちが囲み、その小競り合いから世界で最も危険な場所と言われ、中は現在最強と呼ばれる魔王『絶対平和を尊ぶ神官』が生み出したダンジョン『魔聖地』になり、世界で最も安全と言われる都市だよ。」

「どの程度ならルートの変更は可能ですの?」

「掠める程度が限界だね。ただ、あまり使われないルートだからその分危険も多くなりそうだし、遠くから望むくらいはどうしてもなりそうだ。」

「それでも聖地に行くよりはマシです。」

「まっ、そうだろうね。」

 そうして私たち『霧の傭兵団』は『魔聖地』を掠めるような進路に向かって不安を抱えつつも歩を進めることになりました。


 この先何も無ければいいのですけど。

星の城は今の世界になった原因の一つですね。なお、星の城と言うのは通称であり正式名称ではありません。

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