第87話
「今にしてみれば、来る日も来る日も苦難の連続で、よく私たちは生き残ることが出来ていましたわよね。」
「だよねぇ。アタイも狐姫様からの依頼で同行することになったのが懐かしいよ。」
イズミたちは今、次の地域に向かうための準備を整えています。ただ、その中でリョウお姉ちゃんたちはこの9年ちょっとのことを思い返しています。
「でももうすぐ。イチコさんと連絡が取れるようになるんですよねぇ。」
「ええ、クロキリの話ではそういうことでしたわ。ただ、連絡が取れても私たちが迎えに行くのは変わりませんけど。」
「どんな人なのか楽しみネ。」
相変わらず皆はイチコ姉ちゃんのことを見知らぬ他人のように話している。本当に会ったことのないウネお姉ちゃん以外は親しい間柄だったはずなのに。
「イズミ?どうしましたの?」
「何でも…無い…。」
でも、喋るわけにはいかない。そのイズミたちの記憶に何かをしたナニカに気づかれないためにも。
と、こちらに近づいてくる人の気配がする。
「誰か…来た…。」
「誰が…?と、うちの団員ですわね。何かありましたの?」
「ああ、丁度よかった。リョウ姐さん。少し頼みたいことがあるんですがいいですかい?」
近づいてきたのは年若い『霧の傭兵団』の団員の一人だった。
走ってきたからなのか少し息を切らしている。
「用件によりますわ。言ってみなさい。」
「ういっす。」
リョウお姉ちゃんが話を促して、団員さんが話しだす。
「先ほど、うちの荷物を馬車に詰め込んで門の外に出したんですけど、その時にスラムの連中がリョウ姐さんのことを知っていたのか治療を頼みこんできたんですよ。で、治療をしてくれないならここは通さないぞ!って道を塞いでいるんす。」
「はあ。また面倒な。ちなみに求められている治療の具体的な内容は?」
「大部分はただの骨折や切り傷です。ただあの感じだと自然治癒にはそれなりの時間がかかりますね。後は病気の人間が何人か。」
リョウお姉ちゃんは報告を受けてどうすればいいかを考えます。それとこの間にイズミたちは荷物をまとめきっちゃいます。
「この街の行政はなぜ治療をしないのですか?」
「貧乏人でこの街の住民でもない奴に貴重な治癒能力者を回してやる余裕はない。だそうですよ。まあ早い話が独占すね。酷い話っすよ。」
確かに酷い話だと思う。でもイズミたちはこれ以上に酷い話をこの9年ちょっとで見たり聞いたりしてるからそこまで酷いとは感じない。治癒能力者が貴重なのは事実だから。
「一応聞きますが、そのスラムは街の外なのですわね。」
「そすね。色々と騒ぐ奴はいるでしょうが、スラムは外の扱いです。」
「それならば軽度のものは他の者に任せて重傷者は私が見ます。ただ、病気は私には治せませんし、一日に使えるスキルの回数にも限界がありますから、ある程度の人数を治した時点で出発。その際に妨害をするようなら実力で押し通らせてもらいましょう。」
リョウお姉ちゃんはそう言うと門の外に向かい、そこで怪我人の治療の≪指揮≫を執り、そして、ある程度の人数を治したところで、物理的心理的問わずに押し留めようとする手を撥ね退けて街を出発しました。
ただ、この時の治療の対価として多少の収入があってちょっとだけイズミたちの懐は暖かくなりました。
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数日後
街道を行くイズミたち『霧の傭兵団』は一人の女の子を保護していました。
その少女は道の真ん中で倒れていたのを発見されて、それから少女の名前などを確認したうえで、傭兵団の中で小間使いをすることを条件に次の街まで連れていく。という契約を結びました。
少女の名前は真能守シガンと言い。歳は14~15程。いつも目深にフードを被っていますが容姿は比較的整っていて、綺麗な茶髪をしています。胸は…イズミと同じくらい?
ステータスの方はレベル1でスキルは≪自動脱出≫と言って、危険が差し迫った時に自動的に転移して逃げれるスキルだそうです。そしてそのスキルのために何故街道の真ん中で倒れていたのかについては本人も分からないとのことです。
ただ、スキルの効果から察するに寝ている間に危険な何かがあって逃げてきたのは何となくわかります。
さて、シガンなのですが、小間使いとしての才能があるのかイズミたちの生活を的確にサポートしてくれます。また、顔はめったに見えませんが、その笑い方や整った容姿から数日で既に『霧の傭兵団』に違和感なく混じっています。
でも、イズミは何となくシガンからよくないものを感じていました。でもその感覚には根拠も何もありません。ただ漠然と嫌な感じがする。ただそれだけです。
だからイズミはそんな感覚は自分の勘違いだと思い、他の人たちと変わらずにシガンと接することにしていました。
そしてシガンが加わってから数日後。クロキリ兄ちゃんから連絡がありました。
真能守…マノカミ…魔のk…




