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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
2:10年

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第79話

 ミバコが『白霧と黒沼の森』に来てから数日後。


ブーーーーーーーーーーー!!


 突然、俺の部屋にアラームが鳴り響く。


「さて、今回の侵入者は…こいつが狐姫の言ってた奴か。」

 俺はアラームと同時に開かれたモニターを見て第2階層に入ってきた侵入者を確認する。

 男は18歳ぐらいで鉄製と思しき槍を右手に持ち、皮鎧を身に着けている。

 顔立ちはそれなりで外目では特に問題は感じない。だがよく見れば不気味な雰囲気を纏っている。


『ブモ?ブモオオオォォォ!!』

 侵入者である男を発見した牛頭霧がその手に持った斧を振りかぶりつつ男に襲い掛かる。だが、


『邪魔を…するなあああぁぁぁ!!』

 男の全身が突然輝きだし、右手に持った槍を勢いよく突き出す。その槍は牛頭霧の斧と正面からぶつかり、あろうことか斧を破壊した上にそのまま牛頭霧の頭を貫いて即死させる。


『ふふふふふ…ミバコォ…待ってろよぉ…今俺がお前を助けてやるからなぁ…』

 男は牛頭霧の死体には目もくれずに第2階層の奥へと突き進む。


「ああ、なるほど。これは狐姫が自分の所で処理したくねえわけだな。リスクが大きすぎる。」

 俺は男の攻撃力と反応スピードを見てそんな事を言う。だがまあ、これならば…


「チリト。」

「何ですか?」

 俺に呼ばれてチリトが近づいてくる。ちなみにミバコとの仲は良好なようで、二人一緒に居ると見ていて砂糖を吐きたくなる程度に甘い雰囲気を醸し出している。


 リア充爆発しろ。


 と、それどころじゃなかったな。


「コイツのスキルとか諸々暴いて、お前が戦え。」

「なっ!」

 俺はチリトに命令を出す。


「ミバコにいい所を見せてやりたいとは思わないのかねぇ?」

「それは…思いますけど。」

 チリトは悩んでいる。


「なら頑張れ。戦闘場所は第2階層と第1階層の間。黒沼の滝だ。必要なものがあれば言え。用意しておいてやるよ。」

 そう言って俺はチリトを残してその場を離れた。

 ちなみに実を言えば助けなんて必要ないと俺は思っている。



■■■■■



 僕は今、黒沼の滝で今回の為に特設されたリングの上に居る。どこから見ているかは分からないけどミバコとクロキリさんが多分何処からか見ている。

 さっき見た男の能力を思い出す。


 男は人間で職業は追跡者だった。装備は普通のものだしレベルも4しかない。けれどスキルが問題だった。

 男の持っているスキルは≪指定追跡≫≪追跡習熟Ⅰ≫≪邪魔もの潰し≫≪全力突き≫の四つ。明らかにミバコを追い、追跡を邪魔する者を排除することに特化したスキル構成。

 このうち特に問題なのは≪邪魔もの潰し≫。これは追跡中に追跡の邪魔をされるとステータスが邪魔なものの強さに応じて上がるスキル。これをどうにかしないと中々に厳しいものがあると思う。


 というかこの人の称号に≪追跡者≫だけじゃなくて≪妄執者≫≪執拗な恋≫とかあるんだよね。他にもいろいろあるけど。それにさっきのモニター内での様子を合わせて見ると…

 うん。負けられない。


「ここは…滝?」

 と、男が来たみたいだね。


「悪いけど、ミバコのためにもこの先には通せない。君にはここで死んでもらうよ。」

 僕は男の方に短剣を向けて宣言する。


「ああ?ミバコのため?何でお前が…いやいい。誰だろうが俺とミバコの恋を邪魔をするなら…ぶっ殺すだけだあああぁぁぁ!!」

 男が≪邪魔もの潰し≫を発動して光を放ちながら突っ込んでくる。

 でも、


「ふっ!」

「なっ!」

 戦い方もステータスも分かっているならいくらでも予測はできる!

 僕は男の槍を弾き、手を叩いて槍を落とし、そこからさらに腹を蹴る。


「ガアッ!」

 最近の体術訓練の成果に加えて霧人と人間のステータス差からか大きく吹き飛ばされる。

 ついでに僕は槍を拾って滝壺に投げ入れておく。


「てめぇ…人の恋路を邪魔するってのがどういう事か分かってんのか…」

「人の恋路…ね。君のそれは恋なんて呼べるものじゃないよ。ただの醜い独占欲だ!」

「んだと!」

 そう。この男がミバコに抱いているのはただの独占欲だ。


 僕はこの数日間の間にミバコから聞いたことを男に話す。


 僕はミバコにどうして狐人になったのか。

 それはミバコと男は元々他の友人たちと一緒に狐姫のダンジョンに潜る仲だったらしいが、ダンジョン探索中に他の探索者とのイザコザでミバコたちは窮地に陥り、その際に狐姫に助けてもらう代わりにミバコが眷属になったらしい。

 その一件の後、男はミバコが狐人になって自分を助けたのは自分の事が好きだからだ。と勘違いをし、狐姫を倒せばミバコを人間に戻せると思い、以前にも増して意欲的にダンジョン攻略をするようになったらしい。実際には魔王が死んでも眷属が人間に戻るようなことは無いのにだ。(これは大陸の方に居るリョウお姉ちゃんたちの報告から既に判明済みで公表もしてる。)

 でも、ここまでは問題ない。問題はこの後。

 男は次第にダンジョン内外問わずに終始ミバコに付きまとうようになり、周りにいるもの全てを敵と見なすようになったそうだ。しかも守ってやっているのだからと様々な事をミバコに要求し始めた。挙句にミバコが付きまといを止めて欲しいと言ったら、逆上しミバコを死なない程度に痛めつけて監禁しようとしたらしい。

 ミバコは恐ろしかった。このままでは自分は死ぬよりもツラい目にあわされ、ミバコを助けようとする人たちにまで迷惑をかけることになる。

 そのためにミバコは狐姫と相談し、現状に至る事になったそうだ。


 勿論、これはミバコの目から見た場合の話だ。実際には色々な差異があると思う。ただそれでも、


「もう一度言わせてもらうよ。君のそれはただの独占欲だ。だから、ミバコのためにも君には死んでもらう。」

「黙れええええええええ!!」

 男が無手のまま突っ込んでくる。その勢いは先程とは比較にならないし右手には妙な光が宿っている。恐らくは≪邪魔もの潰し≫の効果が最大レベルで発揮されているし、≪全力突き≫も使っているんだろう。でも、


「僕の目は誤魔化せない!」

 僕の≪能力解析≫の前でステータス上昇系のスキルを使っても虚は突けない。僕の目には上がったステータスが表示されているから。

 僕の≪技能解析≫の前で今まで隠してきたスキルを使っても意味はない。僕の目にはもうそのスキルを持っていることはバレているから。

 僕の≪称号解析≫の前で戦い方を隠しても意味はない。僕の目には今までの戦い方を表した称号が見えているから。

 そして僕の≪姓名解析≫は今、男の職業が『追跡者』から『妄執に囚われし者』に代わったことを示した。

 つまり、この男の行いはスキルというシステムを作った者からも認められたのだ。恋ではなく、自分勝手なただの欲望だと。


「ハッ!」

「ギャッ!」

 僕は男のスピードを見極め、攻撃を紙一重で避け、クロスカウンター気味に攻撃を繰り出して男を転がし倒す。

 そして、倒れて動けなくなっている男に近寄り、


「ま、待て…」

「待たないよ。」

 止めを刺した。



■■■■■



 2週間後

 俺とチリトのレベルがあの時に1上がり、第5階層の作成などが一段落ついたころ。


「クロキリさん。ちょっといいですか?」

「何の用だ?」

 チリトが俺の部屋にやってきた。

 その顔は真剣で何かを決めたような顔をしている。


「ミバコとミバコと俺の間に生まれた狐人の子供を外に出せないのは狐姫への情報流出の防止。だからですよね。」

「そうだな。それと、基本的には第1階層などにも出す気はない。こっちはミバコ自身の安全のためでもあるな。」

 俺は何を当たり前の事を?と言った表情で淡々と告げる。


「分かりました。なら今ここで宣言させてもらいます。」

「ん?」

 チリトは姿勢を正す。そして、


「僕はいつか貴方よりも強くなります。強くなって貴方の意志なんて関係なくミバコと子供たちを外に出れるようにしてあげます。」

 明確に俺に対する反逆の意志を伝えてきた。その目には一点の淀みも無い。

 うん。面白いな。それにゆっくりでも構わないから強くなるのは大歓迎だ。だから、こう返そう。


「やれるものならやってみろ。」

 と。







---------------



「ところで何で子供“たち”なんだ?俺の命令は確かにあるけど別に一人でもいいんだぞ?」

「えっ、イヤ。それは…」

「…。チリト君。魔王権限行使でお兄さんにちょっとその辺り包み隠さずに言おうか。」

「ここで魔王権限の行使!?えーと、実はですね…。」


「スキルを使ったらわかったんです…。双子だって…。しかも狐人と霧人の、」


「ああ、なるほど。当たったのがミバコの≪生命探知≫とお前の≪姓名解析≫で分かっちゃったのか。ははははは。」

「はい。そうなんです。」




「ははは。そうか。リア充爆発しろおおおぉぉぉ!!」

うっかりこの夫婦の営みを見てしまうと砂糖を吐くことになります。


05/29 表現を少し訂正

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