第76話
現在より6年前
「見つけたぞ!≪霧の傭兵団・団長≫那須リョウ!」
街中で一人昼食を摂っていた私にフード付きの西洋鎧を身に着け、剣を持った男が声をかけてきます。
その眼は明らかな殺意を放っています。
「こちらは食事中なのですが、何の用ですの?」
私は腰の短剣の位置を確かめていつでも抜けるように握っておきます。
「用だと?そんなものは決まっている…」
男は剣を抜きます。
男の持つ剣は骸骨の装飾や妙な文字が刀身に刻まれているのが見えます。それに何かしらの特殊な魔性を素材にしたのか妙な気配を纏っています。どうやら所謂魔剣に属する剣のようです。
「全ての魔性に死を!人を裏切りし者たちに死を!それが正人間教会の教えだ!!」
男が勢いよく切りかかってきます。どうやらこの男は正人間教会の過激派のようです。
ですがただの過激派ではなく実力のある人間のようで、その太刀筋は正確に私の頭を狙ってきています。
まあ、
ガキン!
どうせ狙うなら声を掛けずに暗殺を狙え。と内心思いつつも短剣で男の剣を受け止めます。
「なっ…防いだだと!?」
「まったく。甘く見られたものですね。」
私は座っていた椅子を飛ばしながら、敵の剣を鍔迫り合いから弾き返します。
そして、その際に相手の顔を確認します。
「ああ、貴方の顔はどこかで見た覚えがあると思えば勇者様でしたか。」
私を襲った男の正体。それは3年前に魔王『魄込める呪の道士』を討伐した人間の一人で、その功績から勇者と称えられた男でした。たしかあの時は顔を合わせる前に討伐した人間たちが正人間教会の人間だと判明して顔だけ確認してとっとと逃げたのでしたわね。
「ふん。知っていたか。」
「ええ。でも周囲の人間への迷惑も顧みず、人間の味方をする眷属にも手を出すなんて相当頭が固いようですわね。」
周囲の人間たちは私たちが互いに抜剣したタイミングで既に逃げ出し、喧騒が広がっています。
後、耳を澄ませば別の場所でも似たような騒ぎが起こっている気配がしますので、恐らくホウキたちもこの勇者の仲間に絡まれているのでしょうね。
「黙れ!全ての魔性は俺がこの『魄込める呪の道士』の骨から作った『魄剣』で切り殺してやる!」
男の目と剣に妙な光が宿ります。まるでそう、自分のやっていることは全て正しいと“信じ込まされている”目です。
というか魔王素材の剣ですか。確か『魄込める呪の道士』はアンデット系だった気がしますから属性的には闇ですね。しかも恐らくは『魄込める呪の道士』の怨念が宿っていますわね。生ある者全てに破滅をもたらしたいと言わんばかりの怨念が。
「はあ。詰まる所は剣に乗っ取られ、自分の信じる教義と合わさって、この事態ですか。」
「何をいってい…いいいiiiぃい伊イいるるRuル留…?」
ああ、ダメですわね。これはもう助けられないと思います。完全に乗っ取られていますし。目も焦点が合ってないです。
「とToトにかク…死ねええエえeえぇぇぇぇぇ!!」
男が剣を振り上げて勢いよく切りかかってきます。今度は先程のように短剣で防御するのは危険でしょう。なので、私は男の剣を右にステップして避けます。
そして男の剣が私の横を通り過ぎて地面に当たった瞬間、
剣が触れた場所を始点に地面が一気に腐り落ちました。
そして、変化はそれだけではなく腐った地面は徐々にその姿を変えていき、やがて人型を形成します。インスタントゾンビ。と言ったところでしょうか。尤も出切った瞬間に日の光を浴びて元の土に戻ってしまうという意味のないものでしたが。
しかし、万が一体にあれが当たっていたらと思うと恐ろしいですね。恐らくはかすり傷一つでもそこから全身が腐敗して死に至る事になるのでしょうから。
「よYo避け…たかKa禍か…なら次はHaハ…≪二連斬≫!」
っつ!この状態でもスキルは使えるのですか。
男はこちらを振り向くと同時に剣を振りかぶり、私の方に向かってスキルを行使します。
≪二連斬≫。それはスキル補正によって威力とスピードが強化された二連続攻撃。と聞くと大したことがなさそうに聞こえますが、実際には隙の少なさと応用性の高さから優秀なスキルの一つとされています。
男の≪二連斬≫の一撃目が右から左へと振われ、私はそれをしゃがむことで回避します。
さて、≪二連斬≫の恐ろしい点はここからです。ここから男には少なくても六通りの攻撃が有りえます。具体的には上、左上、左、左下、下、それに一回転からの再度右が有りえ、その何れかがもう間もなくやってきます。
そして男が選んだのは上から下への振りおろし、恐らくはしゃがんだ私に確実に当てるためでしょう。しかし、しゃがむということは膝を折り曲げるということ。つまり
「ふっ!」
「があああアa亜あ!?」
飛ぶように前に出て、攻撃を避けると同時に鎧の隙間から相手に手傷を負わせることができます。
そして、地面に着地したところで、先ほどまで私のいた場所を見ますが、そこには地面が腐り、手のようなものが生えています。やはり『魄剣』を受け止めるのは危険なようですね。
「殺すKorosuコロスころろロRo呂す…。」
男は口から泡を吐きつつこちらに振り返ります。その目には一切の正気は感じられません。
「これはもう、早々に決着をつけてあげるのが救いですわね。」
私がそう呟いて剣を構えると同時に男も剣を振り上げて構えます。
「アハ…≪隼切り≫いいいぃぃぃ!!」
「まずい!?≪霧の衣≫≪霧の帳≫!」
男が≪隼切り≫の力で目にも止まらぬスピードで突っ込んできます。≪隼切り≫は威力を捨てる代わりにスピードを大幅に高めてほぼ必中の攻撃を繰り出すスキルですが、男の持つ『魄剣』にとっては攻撃力の高い低いなど関係ありません。かすり傷一つでも付けられればそこから全身を腐敗させられる可能性があります。
だから私は≪霧の衣≫を全開にした上で≪霧の帳≫を展開。自身の回避能力を限界にまで上げたうえで身を投げ出すように横へと飛びます。
男の刃先が先ほどまで私の頭があった場所を通り過ぎていくのが分かります。そして、男は既に次のスキル≪二連斬≫の体勢に移り、私に向かって横薙ぎの攻撃を仕掛け始めています。
それに対して私は右手を地面につき、右腕の力だけで跳び上がり、空中で身を翻し、二撃目を加えるために剣を振り上げる体勢に移行している男の剣の鍔に向かって≪霧平手≫を繰り出して『魄剣』を男の手から弾き飛ばします。
そして、一瞬の事に呆けている男の首に短剣を突き刺します。
「ぐ…が…」
男が呻き声をあげますが、着地した私は構わずに短剣を捻りつつ横に振って確実に息の根を止めました。
「全く…。最悪のランチタイムでしたわね。」
私は短剣についた血を拭いつつ、弾き飛ばした『魄剣』に近づきます。
ホウキたちが駆け寄ってくるのも見えます。所々に傷が見える事を考えるとやはりアチラも襲われていたようです。イズミに至ってはほぼ全裸…、全裸…?全裸…!!
一体何があったんでしょうね…。後で聞いておきましょう。
「さて、これに関しては壊すのがやはり妥当ですわね。」
私は慌てて思考を現実に引き戻して『魄剣』の方を見ます。
そして、短剣を勢いよく『魄剣』の腹に突き立てて破壊しました。『魄剣』からどす黒い邪気のようなものが空に向かって登って行くのが見えます。これでもう大丈夫でしょう。
私は襲ってきた男に向かって軽く祈りを捧げ、『魄剣』の残骸を回収するとその場から離れました。
死してなお恐ろしき魔王の力。
05/28 誤字訂正




