第72話
村人たちが魔王から逃げるために村を捨ててから三日目の朝。
「っつ!予想以上に数が多い!」
「恐らくは道中で野生生物を襲ってゾンビにしたんだろうさ!」
村人の男たちと何人かの傭兵は懸命の抵抗を続けていた。
理由は単純。目標の場所まで後少しといった所で、敵に追いつかれ、子供や老人をはじめとした戦えないものを逃がすためである。
しかし、各人が奮戦をしても数の差から戦局は明らかに押され気味であり、殆どの者はどこかしらに傷を負っていた。
「≪渦炎≫!!」「……!!」「≪切り払い≫!」
しかし、崖上に現れたムギの≪渦炎≫が敵の集団を焼き払い、敵集団の側面に来たイズミの斧が敵を同時に何体も吹き飛ばし、敵の集団中に突如現れた(ように見える)ホウキが≪切り払い≫で敵の足を切って機動力を奪う。
「おお!来てくれたんすね!」
傭兵の一人が手にした大剣で敵を切り倒しつつムギたちに話しかける。
「悪い!別働隊の始末に少し手こずった!今からここの連中も片付ける!」
それにムギが≪火の矢≫を手近なキョンシーに放ちつつ答える。
ムギたちが今までここに居なかった理由。
それは今現在彼女たちが相手にしているのと別の集団が違うルートから先回りするように迫ってきていたからであった。その集団の平均的なレベルは明らかにこちらよりも高かったため。高レベルであるムギたちが向かうしかなかったのである。
しかし、別働隊はムギたちによって始末され、本隊に彼女たちが合流した結果大勢は決する…かと思われた。
「あれは…まさか。」
ムギはそれを見つけた時。思わず息を呑んでしまった。
ムギが見つけたそれは…1000を超えるキョンシーたち不死系魔性の集団であった。
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「クソッ!村の人間は全員急いで撤退しな!」
アタイは急いでこの場に居る村人全員に指示を出す。
「けど俺たちがここで逃げたら!」
「黙りな!あの数相手にこの数じゃ足止めにもならない!文句を言っている暇があるなら急いで非戦闘組と合流してそっちを抱えて逃げな!」
反論ももちろん出るが、それは力づくで抑える。この場での迷いは致命傷になりかねない。
そして、村人たちが全員逃げた所で、残った傭兵団の人間たちが広域に攻撃できるスキルを使って、先程まで戦っていた敵の集団を壊滅させる。
「さて…、あれを何とかできる作戦が思いつく奴はいるかい?」
「流石に思いつかねえすよ。」
「こうして見ると数は力だって思わせられますよ。」
「でも、やるしかありませんよねぇ。それが仕事ですし。」
「まあ足止めぐらいはしないといけないですか。」
ムギと傭兵たちは各々覚悟を決めて、いつでも戦いを始められるように姿勢を整える。
そして、リョウとウネが前方の非戦闘集団からムギたちのもとに来た時にそれは唐突に始まった。
「可笑しいですわね…。」
最初に気付いたのはリョウだった。
そして、その言葉を受けて他の傭兵たちも相手の異常に気付き始める。
「ガ…グ…ガ…」
そう。彼らに迫りつつあるキョンシーたちの肉体は一歩踏み出すたびに崩れ落ちていっている。そのスピードは恐ろしいものであり、瞬く間にキョンシーたちの数は少なくなっていき、そしてリョウたちの攻撃範囲に辿り着くまでにその数は十分の一以下にまで減っていた。
そして、攻撃範囲に入ったところでリョウは我に返り、
「全員。放てるだけの遠距離攻撃を放ちなさい!敵を殲滅しますわよ!」
傭兵たちに指示を出し、戦いが始まった。
戦いは拮抗していた。例え数が十分の一なったとしても100体以上いる事には変わりは無く、リョウたち高レベル組にしても一度に相手に出来る人数は限られている。
しかし、戦いが長引くにつれて敵の数はリョウたちが倒すペースよりも明らかに早く減っていく。
そして気が付けばキョンシーたちは一匹残らず全て地に還されており、
「何とか…なりましたわね。」
リョウの独り言が辺りに聞こえた。
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村人たちと合流した私たちは何故、キョンシーたちが突然崩れ去り始めたのか、その理由を知ることになりました。
どうやら、2日前に私たちの偵察が確認した人間の集団。彼らがあのダンジョンの魔王を討ちとったためにあの魔王のスキルの効果で日光下でも問題なく動けていたキョンシーたちへの保護効果がなくなり、その結果がアレだったようです。
後、気になるのはその魔王を討ちとった人間たちについてですが…まあ生きていれば数日中にはこちらに戻ってくるでしょう。
「何にしても助かった。という事で良さそうですわね。」
「そうですね。でも、例え弱体化してもあの数ですから2人ほどこちらにも死者が出てしまいました。」
私とホウキは適当な食事をとりつつ今回の仕事の収支を確認します。
報酬は村長からしっかりと貰えました。しかし、装備品や人員の消耗もやはりそれ相応にあるようです。特に痛いのはやはり死者が出てしまったことでしょうね。
「そう…ですか。」
私は亡くなった2人の死を静かに悼みます。
知り合いの死は辛いものです。しかし傭兵家業をし、レベルを上げ、この先長く生きていくなら慣れるしかないのでしょう。
ただ、どれほど慣れても何も感じなくなる。という事は無い様にしなければいけませんね。死に慣れ親しんで何も感じなくなったら、それは人として何かがおかしい気がしますから…。
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リョウたちは称号≪霧の傭兵団≫を獲得した。
傭兵団だと認められました。




