第66話
まずはイチコが飛ばされた直後の話からです。
「はあはあ。まさかペンギンが襲い掛かってくるとは…」
この地に飛ばされてから3日目。ひたすら歩き続けて海岸の近くまで来た私の周囲には普通のペンギンよりも大きく、腕が金属化し、剣のように鋭くなったペンギン型のモンスターと、その亡骸が大量にありました。
「ギャアギャア!」「ガアガア!」
何故、襲い掛かって来たかは分かりません。ただ、彼らは私の姿を認めると突然襲い掛かってきました。もしかしたら目についた生き物なら何でも襲うように命令されているのかもしれません。
ただ、
「一つ確かなのは、こうして彼らに見つかった以上は殲滅するしかない。という事ですね。来なさい≪形無き王の剣・弱≫」
私は周囲の地面とこのペンギン(エッジペンギンとでも言っておきましょうか。)の腕に含まれる金属をより集め、一本の剣を作り上げます。
その剣は形こそはよくある西洋剣。その中でもロングソードと言われるもので、装飾も何もない実戦重視の剣ですが、その中身は普通の剣とは比べ物にならない切れ味を有する一種の魔剣です。
「「「ガアアァァァ!」」」
「ハッ!」
「「「ピヨッ!?……ガッ……」」」
現に今、武器を生成する間を隙と捉えたエッジペンギンが何匹かこちらに突っ込んできましたが、私が生成したばかりの剣で軽く横薙ぎしただけで全員真っ二つになりました。
さて、≪形無き王の剣・弱≫ですが、これは私が半魔王化したことによって≪短距離転移≫に代わって現れたスキルです。“弱”と付いているのは私が純粋な魔王でなく、半魔王だからそれに合わせて弱体化したのでしょう。
効果としては私の周辺に存在している金属を剣に出来、私自身と持っている剣を半径25m以内の好きな場所にテレポートさせるという効果があります。
「ギャアギャア!!」
と、また一羽飛び込んできたので、私は攻撃を避けた後にそのエッジペンギンの頭と被るように剣をテレポートさせます。
「ピヨオオオォォォ!」
すると、剣がエッジペンギンの頭を両断する形で出現し、エッジペンギンは絶命します。これがこのスキルの恐ろしいところで、詳しい条件はまだ分かりませんが、どうやらテレポート先に別の物体があると、その物体を切り裂くように出現するようなのです。
「ふっ。」
そして、テレポートさせた剣を素材に私の手元に生成します。こうすればテレポートさせて私の手元から離れた剣も戻せるようです。
クロキリの霧の体も相当なチートだとは思いますが、私のこのスキルも十分チートだと思います。これでもまだ“弱”と付いているわけですし。
「「「ガアガアガア!!」」」「「「ギャアギャアギャア!!!」」」
仲間が一度に何羽も殺されたためでしょうか。周囲のエッジペンギンたちが大きく騒ぎ出します。ですが、逃げる気はないようです。
「さて、それならば、半魔王の力がどの程度のものなのか確かめさせていただきましょうか。」
私は先程倒したエッジペンギンの亡骸から二本目の剣を作り出し、左手に持ち、二刀流になります。
そして、私による正式名称も分からないモンスターたちを一方的に蹂躙する戦いが始まりました。
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死体、死体、死体。辺り一帯見渡す限りエッジペンギンの死体ばかりです。
切った数は50を超えた辺りで数えるのを止めましたが、この様子ですともしかしたら1000を超えているかもしれません。なにせ地面が1なら死体が7ぐらいですし。
まあ、また襲われても困りますし、この先の考え事は移動しつつにしましょうか。
さて、戦っていて思ったのですが、やはりこの体のスペックはステータス通りに異常なようです。ダンジョン外補正も普通の眷属と同じ程度にしか働いていないようですし。と、具体的なステータスを見せた方が早いですよね。こんな感じです。
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Name:イチコ(定まらぬ剣の刃姫)
Class:半魔王 Race:定まらぬ剣の刃姫・半霧人
Level:8
HP:1045/1045
MP:900/900
SP:945/945
Status
筋力 30
器用 45
敏捷 54
感知 54
知力 21
精神 25
幸運 10
Skill
≪形無き王の剣・弱≫≪霧の衣・薄≫≪魔性創生・下位≫≪短剣習熟Ⅰ≫≪首切り≫≪キーンエッジ≫≪ロングエッジ≫≪主は我を道に力を行使す≫≪霧魔法付与≫≪主は我が為に理を超える≫
Title
≪黒霧の王の眷族≫≪白霧の暗殺者≫≪鬼殺し≫≪霧王の依り代≫≪霧王の寵姫≫≪定まらぬ剣の刃姫≫≪魔神と遭遇せし者≫≪首切り姫≫ etc.
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確かに魔王に比べたらステータス的には弱いのかもしれませんが、ダンジョン外にでも普通に出られますから考えようによっては魔王よりもはるかに強い気がします。
それにしても名前も種族も見事に変わってしまっていますね。『定まらぬ剣の刃姫』それが今の私の種族であり、正式な名前なのですが、これはどういう意味なのでしょうね。剣や刃は固有スキルから納得もできますが、定まらぬの意味は分かりません。
と、何か建物が見えてきましたね。
私の想像通りならこの地はかなり厄介な場所なので、何かしらの便利な道具があるといいのですがね…。
私はそんな事を考えつつその建物に向かっていきました。
05/19 ちょっと文章追加




