第61話
引き続きチート的表現がございますので苦手な方はご注意を。
俺の意識が埋没していき、気が付けば見知らぬ地に俺はいた。そして、俺の目の前では左腕に見知らぬ金属製の籠手を付けたイチコがフードを被った子供に頭を掴まれていた。
一目でその子供の正体は分かった。
けれど、その光景を見た瞬間。俺の頭は一気に沸点を越え、全力でクロキリノコを生み出して振り下ろしていた。
「フウゥー…。」
クロキリノコが地面に叩きつけられ、爆音と共に大量の土煙が巻き起こる。そして俺はその土煙に紛れてイチコを左腕で抱え、クロキリノコを右手だけで持つようにする。
「ほう。まさか、このタイミングで来るとはな。」
子供が俺に向かって語りかけてくる。いや、コイツは子供ではないな。コイツは…
「黙れ。この魔神が。」
「ほう。私がどういう存在なのか気が付いているのか。さすがは検体番号13だな。」
少々嬉しそうな様子を魔神は見せてくる。
それに対して俺は魔神の一挙手一投足に注意を払いつつ後退していく。一瞬の油断も隙も見せられなかった。その一瞬が命取りになるからだ。
「ふふふふふ。それにしても≪主は我が為に理を超える≫か。貴様も検体番号667もお互いの事が相当に気に入っているらしいな。」
≪主は我が為に理を超える≫か。恐らく俺がここに来れた理由のスキルだな。
俺はそんな事を考えつつ、≪幻惑の霧≫を使って、イチコの精神に干渉していく。
イチコが魔神に何をされたのかは正確には分からないが、魔王と眷属の間にある繋がりを利用すれば全く干渉できないという事は無いはずだ。
「ははははは、頑張るなぁ。検体番号13。私が検体番号667に何をしたのかをおおよそは理解しているはずだろうに。だがまあ、その努力はやはり好ましいものだな。」
魔神の嘲笑が辺りに響き渡る。
けれど、俺には諦める気など無かった。そして、
「クロ…キリ…?」
イチコが目を覚ます。
「起きたか。」
「えっ、あっ、はい。」
俺は魔神に対して最大限の注意を払いつつ、イチコに問いかけて、地面に降ろす。
「イチコ、スキルでも走ってでもいいからとにかく早く逃げろ。」
「クロキリは…」
「アレの足止めに決まっている。」
俺はクロキリノコを両手で正面に構えて魔神と相対する。
「ほう。私とやり合うつもりなのか?実力の差は理解していると思っていたが?」
「お生憎様、俺の最終目的はお前なんでね。むしろ丁度いい機会だ。」
「一合打ち合えるかどうかも怪しいのにか?」
「…。」
俺は少しづつ構えを変えつつ、魔神の様子を窺う。そして、その間にイチコは少しづつこの場から離れるために後退していく。
「ふむ。その向上心は素晴らしいし、私の予想を覆した絆は称賛に値する。アウタースキルを早々に編み出したことも褒めるべき点だな。だが、力を与えた者に対する反逆は紛れもない重罪でもある。となると『蝕む黒霧の王』にして≪霧人達の王≫である魔王クロキリ、『定まらぬ剣の刃姫』にして≪霧王の寵姫≫である半魔王イチコ、貴様等2人への罰としてはこれが相応しいな。」
魔神が顎に手を当てつつ、周囲に居る人間すべてに聞かせるように語る。
そして、魔神は少しだけ口を開き、呟く。
「≪空間転移門・開≫≪不可視の千手≫」
「キャアアアアアアアアアア……!!」
そう魔神が呟いた瞬間俺の後ろからイチコの悲鳴が上がった。
「イチコ!」
俺が驚いて後ろを振り向くとそこには、空間を切り裂くように門が現れており、門の先には明らかにこことは別の場所の光景が広がっていた。そして、その門の中にイチコが引き摺り込まれようとしている。
俺は慌ててイチコの方に駆け寄り、門から引きずり出そうとする。
だが、後一歩で手が届こうという所で、
「≪空間転移門・閉≫」
魔神の言葉と共に門は閉まり、虚空へと消え去った。
「きさまあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「はん。」
俺は激昂して魔神に切りかかる。だが、全力で振り下ろしたはずのクロキリノコは防御の体勢すらとっていない魔神を傷つけられず、その刃は押しても引いてもビクともしなくなっていた。
「クソが!何が目的だ!何で俺たちを魔王にした!何でスキルを世界中の人間に与えた!何でイチコを狙った!」
俺は脂汗を垂らしながらも感情に任せて魔神に質問をし、その間も必死にクロキリノコを動かそうとする。
だが、クロキリノコは動かず。魔神は霧であるはずの俺の頭を骨で出来た手で鷲掴みにする。まるで万力どころかパワーショベルで頭を締め付けられているような感覚だった。
「グッ…ガアッ!」
俺は思わず呻き声を上げる。
「おいおい、質問はある程度絞ってするべきだぞ?検体番号13。まあ、今日の私は機嫌もいいしな。出血大サービスだ。貴様の質問に答えてやろう。簡単に言うならばだ、」
魔神は俺の頭を掴む手にさらに力を込める。既に俺は呻き声すら上げられなくなっている。
「研究さ。」
「なん…だと…。」
俺はその答えに必死に返す。
「最初にも言っただろう?『この世界を救う。かつ、私の研究を進めるためにちょいとこの世界に対して干渉をさせてもらう。』とな。」
そう、確かに魔神はそう言っていた。
「そして、その研究で素養があったのが最初の666人。検体番号667はその後の変化で素養が認められたから今回狙った。と言ったところだな。」
「この……」
俺の全身は怒りに震えていた。けれど、現実には指先一本動かす事すらできなかった。
「まあ、貴様に邪魔されたが検体番号667の魔王化は半分程度なら出来たしな。後は世界の流れに任せて変化を見守るのもそれはそれでいい資料だろう。さて、これでここでするべき事の残りは貴様にペナルティを与えるだけだな。そうだな…」
話は終わったと言わんばかりの態度で、魔神は俺の頭を鷲掴みにしたまま悩んでいるような素振りを見せる。
俺は必死に抵抗をしようとする。だが出来ない。やはり指先一つ動かせない。
「ふむ。これで行こうか。≪繋道封鎖≫対象指定:『蝕む黒の霧王』クロキリ・『定まらぬ剣の刃姫』イチコ間 時間指定:10年」
「ガアアアアアアアアアアアアア!!」
魔神の手から火花の様なものが散り、俺の全身を電気の様なものとそれに合わせて激痛が駆け巡る。それと同時に俺の中にいくつもある門の一つが閉じていき鍵が掛けられる感覚がした。
「それじゃあ、今回はこの程度にしておくとしよう。」
「ガッ……クソッ……覚えて……いろ……」
「ふふふふふ。悔しいのなら精進を怠らず、次こそは私にせめて一太刀浴びせられる程度には成長しておくことだな。」
そうして、魔神は虚空に溶け込むように俺の前から消え去っていった。
そして、俺も≪主は我が為に理を超える≫の効果時間が終わったのか『白霧と黒沼の森』へと戻されていった。
クロキリフルボッコ\(^o^)/
今回で一区切りがついて、次回はちょっと時間が飛びます。
魔神の使ったスキルを一応紹介
≪空間転移門・開(閉)≫:任意の場所同士を繋いだ門を出現(消失)させるスキル
≪不可視の千手≫:視認できない手を無数に出現させて操るスキル。別名『透明触手』
≪繋道封鎖≫:魔王と眷属の間にある繋がりを封印する。




