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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
1:魔王降誕

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第56話

今回は少々長めです。

「ふむ。中々の美味ですわね。」

 私たちは『銀雪の森』近くの拠点に戻り、剥ぎ取ったスノーベアと雪ヒグマの肉を食べています。

 ただ、スパイスのような調味料はほとんどないためにただ焼いただけ。という料理になっています。

 それでも普通の熊肉と違って肉が柔らかく、風味も肉のいい風味が出ています。尤も私の好みとしてはもう少しさっぱりとしたものの方が好きなのですが。


「喜んでいただきありがとうございます。ただ、本音を言えばもう少しスパイスの様な香辛料も欲しかったですし、火力ももう少し欲しいですね。」

 そう言ってこの料理を作ったホウキは近くの民家から拝借してきた物が殆ど入っていない鞄とほとんど消えている焚火に目を向けます。


「でも、火属性なんて僕たちは誰も使えないからね。火力に関してはしょうがないんじゃない?」

「そうですね。スパイスにしても『胡椒が同じ重さの金と交換された。』という時代ほどではありませんが、やはりそれ相応の値段になっているようです。」

 ホウキの料理に舌鼓を打っていたチリトとアリアが少し残念ながらも諦めたように言葉を紡ぎます。


「そういう事ならその内南の方にも行きましょうか。そうすればきっとそういう物も生産しているはずです。」

 私は少々遠い目をしつつそんな事を呟きます。


「と。お嬢様。どうやら敵のようです。囲まれていますね。」

 不意にホウキがそんな事を言います。


「本当だね。姉さん。数は4かな?」

 続けてチリトも感知したようです。


「それでは腹ごなしの戦闘と行きましょうか。」

 そこから私の言葉を受けて、真っ先にホウキとチリトが外に飛び出して短剣を構えます。それに続けてとアリアがかまくらの外に出て、スキルを発動するための態勢を整えます。


 そして外に出た私たちが見たのは≪凍銀鎧≫を身に着けた3人の雪人と雪ヒグマでした。



■■■■■



「貴様らが霧王の犬だな。我らが同朋の仇を討たせてもらおう。」

 先頭の雪人がリョウたちに剣の先を向けつつ問いかける。


「お断りですわ。狩られるのが嫌ならダンジョンの中に引き籠っていればよろしいのですわ。」

 それに対してリョウも短剣の切っ先を相手に向けつつ言い返す。


「ならば…」「そういう訳ですので…」

「死ね!」「返り討ちにしてあげますわ!」

 そして、二人の口上が終わった瞬間。雪人側からは雪ヒグマが、リョウの側からはホウキが先陣を切って走り出し、その爪と短剣が打ち合わされて辺りに金属同士がこすれ合う音が響く。


「GURURURU…」

「くっ…。」

 が、さすがに筋力差が有り過ぎるためかホウキは徐々に押し込まれる。そのため≪切り払い≫を使って少々の手傷を負わせつつ後退する。


「チリト!」

 リョウが叫ぶ。


「分かってるよ!敵は雪人3に雪ヒグマ1!雪人は遠距離魔法型1に近接物理型2!さっき此方に剣を向けてた奴は他と違って称号≪雪翁の騎士≫を持っているよ!気を付けて!」

「むっ!解析系スキルの持ち主か!」

 チリトが敵の正体を看破したことに対して雪翁の騎士が唸り声を上げる。


「では、雪ヒグマは私が相手をします。リョウさんは騎士の相手を、ホウキとチリト残りの二人をお願いします。≪霧爆≫!」

「GAAAAAAAA!!」

「分かりましたわ!」「「はい!」」

 アリアがそれぞれの相手を伝えつつ≪霧爆≫を雪ヒグマに向かって放つ。

 そして、その間にリョウは騎士に接近し、ホウキとチリトは雪人と交戦を開始する。



----------------



「GAAA!」

「甘いですわ!≪霧の矢≫」

 雪ヒグマの攻撃をアリアは軽快に避けていく。そして、攻撃を避けると同時に0距離で≪霧の矢≫を雪ヒグマに撃ち込んでいく。

 もちろん、雪ヒグマもタダやられるつもりは無いため腕を右、左と豪快に振り回し、時には関節部の≪凍銀鎧≫も使って攻撃を仕掛けてくる。

 一撃当てれば勝てる雪ヒグマとその攻撃を全て避けながら的確に反撃するアリア。


 戦いは長引き撃ち込まれた≪霧の矢≫が10を超えた所で雪ヒグマの動きが鈍り始める。そしてアリアは雪ヒグマの頭を掴み、

「これでお終いです。≪霧爆≫」

「GYAAAAAAAAAAAA!!」

 ≪霧爆≫で雪ヒグマの頭を粉砕した。


「ふう。さて、他はどうなっていますかね?」

 そして、アリアは周囲に目を向ける。



-------------------



 一方、ホウキとチリトは苦戦していた。が、これはしょうがない事だろう。

 ホウキは元々隠密系スキルを中心に取得しており、チリトは解析系スキルの専門家である。二人とも直接戦うタイプでは無いのである。

 対して相手の雪人2人は片方は≪氷の矢≫を所有する遠距離型で、もう一人は≪長剣習熟Ⅰ≫を持つ近接型であり、そのバランスはとても良かった。


 そのため、


「はあはあ、これはキツいですねえ。」

「で、でも、何とかするしかないよ。」

 二人は既に息も絶え絶えで全身に細かい傷を負いながら武器を構えていた。


「ふん。降参すれば楽に殺してやるよ。」

「だね。抵抗しない方がいいよ?」

 対して二人の雪人は油断なく構える。


「さーて、姉さん。行きます!」

「分かっていますよ。」

 しかし二人は諦めずに雪人に向かって切りかかる。もちろん今までと同じように二人の攻撃は前衛の雪人に防がれる。

 が、今までと違った点が一つ。

 それはチリトの攻撃が防がれると同時にホウキが≪霧の衣≫≪隠密習熟Ⅰ≫を発動し、完全に姿をくらませ、その状態で後衛の雪人に≪切り払い≫で攻撃を仕掛けたという点。


「なっ…!ガアアッ!」

 その一撃は短剣を≪凍銀鎧≫の隙間に刺し込んだ状態で発動し、後衛雪人の腕を切り飛ばす。


「何時の間に!」

「行かせないよ!」

「くっ!」

 その光景に慌てて前衛雪人は後衛雪人の救援に向かおうとする。が、それをチリトが後ろから切りかかる事で、阻止する。


「これで…トドメ!」

「ガッ!」

 そして、チリトが前衛を抑えている間にホウキが喉元の隙間に短剣を刺し込み止めを刺す。


「きさまああああああぁぁぁぁぁ!!」

 前衛雪人が勢いよくチリトを振り払い、ホウキに切りかかろうとする。


「やらせないよ。」

「なっ…バカな…。」

 が、そこでチリトが短剣を≪凍銀鎧≫を破る形でその背中に勢いよく突き立てる。


 もちろんただの短剣では雪人の≪凍銀鎧≫は突き破れない。

 が、チリトの持つ短剣はクエレブレの鱗製であり、使えば使うほどその切れ味を増す性質を持つ。そしてチリトはこのメンバーの中では最も前に出て短剣を使っていた。そのために今この瞬間、チリトの短剣は≪凍銀鎧≫の強度を上回ったのである。


「はあはあ、何とか…」

「なったね…」

 そうして、疲労からホウキとチリトの二人は倒れる。



---------------



 そして、その頃のリョウは…圧倒的であった。


「てんで、大したことありませんでしたわね。」

「ガッ…グッ…」

 リョウは余裕の表情で雪翁の騎士を見下し、雪翁の騎士は立ち上がろうと思っても立ち上がれないような状態である。


 だが、これも当然の結果と言える。

 元々雪翁の騎士はレベルは4であり、リョウのレベルは7であった。

 続けて、雪翁の騎士はダンジョン外補正によってステータスが下がっていたが、リョウは≪霧の帳≫の力でステータスを本来のものにしていた。

 それに加えて雪翁の騎士の≪凍銀鎧≫は他の雪人の≪凍銀鎧≫よりも強固ではあったがリョウの≪霧平手≫にはほぼ意味がなかった。


 その結果が互いに牽制しつつもホウキとチリトが勝った瞬間に雪翁の騎士にできた隙を狙って放たれた≪霧の帳≫+≪霧平手≫による一撃KOである。


「さて、ホウキとチリトを回収して撤退しましょうか。」

「そうですね。」

 そうして、戦いは終わり、リョウとアリアはホウキとチリトを連れて拠点から離れて、手近な街へと向かった。

レベル7の眷属が本来のステータスでレベル4のダンジョン外補正を受けた霧人を攻撃すればどうなるのか。その結果が今回のラストです。

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