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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
1:魔王降誕

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第46話

今回は一応三人称視点です。

「ハアアアァァァ!!」

 リョウが気合を込めつつ右手に握った短剣で手近な雪人に切りかかる。

 もちろんただの短剣で重装鎧に切りかかったところで鎧の隙間でも狙わない限りは傷一つ付けられないだろう。が、リョウの持つ短剣はただの短剣ではない。クロキリが自らの作ったダンジョン『白霧と黒沼の森』に生息するクエレブレの鱗から作った魔法の短剣であり、折れない限りは刃こぼれしても自動修復し、その度に切れ味を増す力を秘めている。そして、元々の切れ味も鉄板程度なら容易に切り裂くほどである。

 しかし、


キン!


「なっ!」

「ハッ!そんな短剣がこの≪凍銀鎧≫に通用するかよ!」

 甲高い音とリョウの驚きの声と共に雪人の男が纏った銀の鎧はクエレブレの鱗製短剣を見事に弾く。

 ≪凍銀鎧≫、それは雪人に与えられるスキルの名であり、リョウ達には知る由は無いが至近距離でのライフル弾を用いた銃撃すら防ぐ強度と布製の服並の軽さ(ただし可動域は普通の全身鎧と同じ)を併せ持つ鎧を生み出すスキルである。


「今度はこっちから行くぜえ!≪簡易氷武器生成≫!」

「くっ!」

 雪人の男の手に氷で作られた剣が生成され、それがそのまま武器を弾かれ動きが止まったリョウに向かって勢いよく振られる。

「させるか!≪小盾障壁≫!」

 が、立壁が二人の間に割り込んで手に発生させた障壁で氷剣を防ぎ、拮抗状態に持ち込む。


「チッ!」「ふん!」

 そして、立壁と雪人の男は同時に離れる。

「ハア!」「ヤアァ!」

 と、同時にホウキとチリトがリョウのと同じクエレブレ製の短剣で切りかかる。ただし、最初のリョウの一撃と違い狙いは鎧の関節部。構造上覆えない部分を狙う。


「そんなのが…グッ!」

「よしっ!」

 二人の攻撃の内ホウキの攻撃は避けられるが、チリトの攻撃が肘の部分を浅くだが切る。


「舐めるな!≪簡易氷武器生成≫!」

 しかしその攻撃に雪人の男は怒り、両手に氷で作られた剣を持って二人に切りかかる。


「わっ、わっ!」「っつ、はっ!」

 チリトは慌てつつも、ホウキは落ち着いてその攻撃を捌く。が、全ては捌ききれないのか僅かづつだが傷を負い、押される。が、立壁が時折援護に入る事で再び拮抗状態になる。


 っつ、予想以上にあの鎧は厄介ですわね。何か打ち破る方法は…


 リョウはその状況を見て考える。どうすればあの鎧の防御力を突破することが出来るのかを、


 ≪治癒≫で回復しつつクエレブレ製短剣の力を生かして気長に攻める…ダメですわね。そんな悠長に戦っていられる状況ではありませんもの。必要なのは火力ですわ。あの異様に固い鎧を容易に打ち破れるだけの火力。そう言えばアリアは何を…


 そこまで考えが至った所でリョウはアリアの方を向く。そこにあったのは一人で二人の雪人を翻弄し戦うアリアの姿であった。



----------------------



 アリアは雪人たちのスキルを交えた攻撃を避けながら隙をうかがう。彼らと戦闘状態に入ったのはリョウたちが飛び出した直後で、人目に付かないところから前線を突破しようとするのを見つけたため、足止めとして接敵したのである。

 当然、数の差がある以上アリアとしては足止めが出来ればそれで十分だと考えていた。が、


「その程度ですか。≪霧爆≫。」

「んだ…!」「舐めるな化け…!」


ボンッ!


「「ギャアアアアアアアアア!!」」

 アリアのスキル宣言と共に雪人の二人は吹き飛ばされる。

 正直なところ生まれながらに人を狩る魔性として生み出されたアリアにとって彼らの実力は拍子抜けもいいところだった。ダンジョン外補正と属性相性の悪ささえなければ既にアリアの勝利で戦いが終わっていてもおかしくないだろう。

 さて、なぜライフル弾を防ぐほどの鎧がアリアの攻撃には効果を示さないのか。実を言うならば答えはとても簡単で≪凍銀鎧≫は物理的な防御力は高くても魔法的な防御力は低いどころか全く無いのである。


「ふう。さて、格下をいたぶる趣味は私にはないのでそろそろ終わりにしましょうか。≪霧の矢≫」

 アリアは≪霧爆≫のダメージで未だに動けない二人に向かって≪霧の矢≫を放つ。そして矢が二人の頭に刺さってその動きが止まる。



------------------



 リョウはアリアが二人を仕留めたことで気づく。彼らの鎧をどうすれば打ち破れるのかを、そしてそれに気づいてから雪人達を見れば分かる。現在こちらを押している雪人は決して攻撃に傾倒しておらず、一部の攻撃は明らかに避けていることに。

 そう、もしも雪人がどんな攻撃でも弾けるなら避ける必要はないはずなのにだ。


 それなら…!


 リョウは短剣をしまいつつ走りだし、立壁たち三人が抑えている雪人に少しだけできた間隙を縫って近づく。


「リョウお嬢様!?」「リョウお姉ちゃん!?」「何をする気だ!?」

「ハッ、何をする気かは知らねえが相手をしてやるよ!」

「行きますわよ!」

 三人と雪人が声を上げるのを尻目にリョウは腰を落とし、右手を引く。その手は掌底の形になっており手の平には霧が集められている。

 そして、リョウは全身のバネを一斉に伸ばすように掌底を雪人の腹に向かって放つ。


「≪霧平手≫!」

「そんなの…ガア!!」

 その一撃で雪人は全身の鎧を砕かれながら大きく吹き飛び、吹き飛んだところで別の人間によって喉と胸を刺されて確実な死が与えられる。

 そしてリョウは戦場全体に女性特有の高い声を生かして一つの情報を伝える。


「全員魔力を利用する攻撃を用いりなさい!彼らの鎧に魔法を防ぐ力はありません!」


「そういう事か!」「よし!」

「なっ!」「くそっ!」

 リョウの伝えた情報の効果は劇的であった。

 聡い雪人はリョウが自分たちの鎧の欠点を指摘した時点で逃げ出し、鎧の力を過信する者は一人ずつ確実に討ち取られることとなったからだ。

 尤も聡い雪人たちも逃げ出そうとしただけで逃げられたわけではない。なぜなら、


「『斉射用意!撃て!』」

 トンネルの入り口近くには予め大多知マモルの指揮する部隊が伏兵として存在し、彼の指示による射撃系スキルを用いた飽和火力に出迎えられることになったからである。


 そして、北の魔王側が雪人を初めて用いた戦いは防衛前線側の勝利で幕を閉じ、ホウキ、チリト、立壁、リョウの四人はそれぞれレベルを1上げた。

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