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蝕む黒の霧  作者: 栗木下
1:魔王降誕
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第43話

狐姫様登場です。

 黄金色の毛並みに尖った耳と太い尾。

 ただ、そんな事は問題ではない。問題なのはこの狐が放っている圧倒的な量の力。これは間違いなく…


「魔王『百獣纏う狐姫』ですか…。」

『正解じゃ。と言っても霧王がやっていたように本体ではなく配下の魔性の口を借りているだけじゃがな。』

 それで、この威圧感ですか。恐らくはウチで言うところの乱し蜻蛉相当のモンスターですね。


『さて、今宵はお主と話をするために来たのじゃが、まずは改めて互いに自己紹介といこうか。妾の名前は『百獣纏う狐姫』。知ってのとおり迷宮『戦獣達の狐都』の魔王じゃ。』

「私は『霧人』久野イチコです。こちらの寝ているのは『霧人』茲炉イズミです。」

『うむ。了解じゃ。さてイチコよ。単刀直入に聞こう。』

 私は狐姫から放たれる威圧感に思わず背筋を正してしまう。


『主は何故に霧王の元を離れた?』


 やはりその質問ですか。ですが、魔王としては確かに気にせざる得ない部分ですよね。

 私は狐姫の様子を子細に観察し、嘘を吐いたり誤魔化しが出来るかを考えます。まあ結論は言わずもがな。狐姫には一切の油断も隙もありません。下手な嘘や誤魔化しなら言った瞬間に殺されるでしょうね。なら、正直に答えるしかありません。


「私が霧王の元を離れたのは霧王クロキリを倒せるだけの実力を身につけるためです。」

『正気か?自らの主を殺そうなど眷属が考えていい事ではないぞ?』

 狐姫の目が大きく開かれます。その眼は信じられないものを見るようです。当然の反応と言えば当然の反応ですが、だから…、


「ご安心を、私が霧王に殺意を抱いていることは霧王も知っていることです。そして霧王はそれを知っているにも関わらず私を自由にさせてくれているのです。そもそも私は身は霧王に捧げられても心まで霧王に捧げた覚えはありませんから。」

 私は自分の真意と状況を躊躇わずにさらけ出します。

 そして、私の言葉に対して狐姫が威圧するようなオーラを放ちつつもこちらを睨んできます。正直言って恐ろしいことこの上ないですが、引くわけにはいきません。ここで引けば私の思いはその程度だったと思われてお終いです。

 それにしてもイズミはよくこの状況で寝れますね。


『はあ…。本体ではないとはいえそれなりの力を込めて威圧したのに一歩も引かんとはどうやら本気の様じゃのう。主も霧王もどこか可笑しいのではないか?』

「ははははは…。」

 と、ここまで喋ったところで右胸の転移陣が突然光ります。


「えっ!」『むっ。なんじゃこれは!』

 そして光によって一瞬全員の視界が埋め尽くされ、その後私の目の前には一匹のフォッグがいました。


『だーれの頭が可笑しいって?狐姫さんよお。』

『その姿に喋り方…。霧王か!』

「なっ、クロキリ!」

 私と狐姫はとても驚いています。まさかこの場に現れるとは…しかも、この様子だと盗み聞きもしていたようですね。


『何の用だ霧王。』

『いやまあ、一度お前と真面目に話し合いをしたいと思っていたんだよ。お隣さんとしてな。そしたら丁度よくイチコとお前が接触してくれたんでね。』

『ふん。ならばとっとと要件を言え。』

 話し合い…?あのクロキリが?一番近いお隣さん鬼王を殺したのはクロキリなのに?ってこれは狐姫さんは知らない事か。


『用件としては単純だよ。『白霧と黒沼の森』と『戦獣達の狐都』の間に相互不可侵条約を結びたい。』

 えっ?


『お断りじゃな。というかお主にそれを守る気があるとは思えんし、そもそも既に3人…いや2人と1体こちらに侵入しとるじゃろうが。』

 えっ、あっ、


『まあ、予想通りの返答だな。まあ相互不可侵を求めているのは俺じゃなくて人間達の方だよ。本当の事を言うなら俺が求めているのは相互不可侵じゃなくて大規模な侵攻の禁止と言ったところだな。』

『大規模な侵攻の禁止か。となると互いに鞘当て、小競り合い、暗殺未遂を繰り返す関係になりたい。と、』

『ギスギスしまくってて魔王同士ならいい関係だろ?』

『フフフ。まっ、それならいいじゃろう。というか今と変わらんではないか。』

『ハハハ。そりゃあ確かにな。』

 いつの間にやらクロキリと狐姫さんの間で話が一気に進んでいます。というか二人とも口では笑い声をあげていますけど、目が笑っていませんよ…。というか、周囲への圧力が!圧力が!


『じゃ、俺は失礼するわ。ちなみにイチコの言っていたことは全部事実だぜ。』

『そんな事目を見れば分かるわい。で、どこに行く気じゃ?』

『ついでだからX-J5の方を見てくるわ。』

『後で報告を寄越すなら許可してやる。』

『あいよー。』

 そう言って周囲への圧力が薄れると共にクロキリinフォッグは西の方に旅立っていった。

 えーと、もしかしなくても私は今結構な場面に出くわしたのでは…。


『さてと、そういう理由なら妾は口出しする必要はないな。むしろ手助けをしてやってもいいくらいじゃ。ムギよ。居るか?』

「あっ、はい。ここに居ます。」

 ムギさんが部屋に入ってきます。どうやら部屋の外に待機していたようです。


『これからお主はこの2名に同行し、腕を磨いて来い。』

「えっ。」「はい?」「zzz」

 ムギさんも私も思わず目が点になってしまいました。イズミは相変わらず寝ています。


『何故?と言った顔じゃな。簡単な話じゃ。今の世の中、力はどれだけあっても困らない。お主は妾の役に立ちたいのじゃろう?ならばこやつらに付いて行って力を磨いてくるのじゃ。』

「はっ、はい!」

 ムギさんは狐姫の言葉に大きな返事を返します。ムギさんはもしかしなくても狐姫様に心まで捧げた人ですかね。


『そういうわけじゃ。悪いが、妾のシマを通るならムギを一緒に連れて行ってもらうぞ。』

「分かりました。そういう事情ならお受けします。」

 そして、私もそう返事をします。


『では、二人とも頑張るのじゃぞ。』

 そう言って狐姫は帰っていきました。


 それにしても…、明日からの旅はどうなるのでしょうね…。

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