第15話
目の前に首を断ち切られた二匹の子鬼が転がっている。
ここはこの国の首都に出現したダンジョン『鬼の砦』。そして私は霧人・久野イチコ。今はクソクロキリの命令で他人のダンジョン内で魔性と人間を殺してレベル上げをしています。
と言うと何の苦労もなくレベル上げをしているように思えるが、そんなことは無い。
なにせ、自分の所属するダンジョンの中ではないため眷属化で上昇したステータスも今は普通の人間並みに落ちている上に周りには敵しかいないからだ。
思えば『鬼の砦』の中に潜り込むことから大変だった…。
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「しっかし、ゴブリンの奴ら。次から次へとよく湧いてくるよな…。」
「本当だぜ。一体どうすりゃああれだけの数があの中に納まるんだか。」
夜。ダンジョンの近くまでやってきた私の前にいる二人の兵士は雑談をしながらも周囲を警戒し、ダンジョンを注視している。
さすがに現在我が国の最前線に配置している兵士だけあり錬度が高いらしい。
ちなみに彼らの疑問に答えるなら、恐らく倒されるたびに彼らの魔王が新しく召喚しているのだと思う。このダンジョンの子鬼は恐らく『白霧と黒沼の森』でのフォッグだろうし。
と、早いところダンジョン内に侵入しないと。ダンジョン外ではほとんど経験値を得られないのだから。
(≪霧の衣≫を最大出力で発動。)
私の周囲を霧が覆っていき、夜の暗さも相まって私は周りからはまず見つけられなくなる。
そして、私は兵士たちの死角を縫う形でダンジョンに近づき、どうしても避けられない時はクロキリから借りた服で兵を誤魔化す。
そして、ダンジョン内部に侵入した。
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迷宮内部に潜入した私は手近な物陰にまず隠れて、自分の装備を確認する。
服やヘルメットは今回の任務を受けるにあたってクロキリから借りたもので、軍の正規装備と同じものだ。出所は敢えて気にしないでおく。たぶん、私の予想通りだから。
武器もクロキリが作ったもので、乱しヤゴの顎を加工して作った短剣だ。こちらにはわざわざ説明が付いています。
・乱し水蠆の牙刃
クロキリ手製の乱し水蠆の牙を加工して作られた小ぶりの短剣。基本的には刺して使用し、その威力は並の板金鎧を紙切れの様に貫く。また、切る形で使用してもそこら辺のナイフとは比べ物にならない切れ味を持つ。
傷つけた対象の平衡感覚を時々奪う。
次に周囲の状況を確認する。近くには夜明けとともに出撃するために集まった大量の子鬼がいる。が、こちらには気づいていないようです。
というか、傍目に見て明らかに分かるほどやる気がなくて錬度が低い。恐らく子鬼はリーダー格である大鬼が近くに居ないとそこまでやる気がないのでしょう。
これなら…やっていいですかね。
そして、私は集団から離れた2匹の子鬼を目標に定め、周囲に他の魔性の気配がなくなったところで≪短距離転移≫で音もなく近づいて後ろから首を刎ねました。
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そして時間は今に戻ります。
クロキリに聞いた話ではレベルが上がると頭の中でファンファーレが鳴り響くそうなので、まだレベルは上がっていないのでしょう。
まあ、どれだけのゴブリンを倒せばいいのかは分かりませんが戦線を傾けない程度に倒し続けましょうか。
と、次はあの子鬼が良さそうですね。
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おかしい。生きているゴブリン共の数がさっき見たよりも少ねえ。
だが、軍の連中が入ってきた形跡はねえし、そもそも軍の奴らは中には入ってこないでゴブリン共が外に出た瞬間を狙って攻撃を仕掛けてくるはずだ。
「どうなっていやがる…。クソッ。砦の中を見回らせるにしても戦力が足りねえ。」
俺は思わず悪態を吐いた。だが、それで状況が好転するわけじゃない。そんな事はこの数週間で散々思い知らされた事だ。
そもそも事の起こりは一年前。あのムカつく声の女によって魔王『統べる剛力の鬼王』にされたことだ。
俺はそれまで毎日くだらない授業を受けていたただの中学生だった。それがあの日、俺は力を得、俺はその力を使いこの迷宮『鬼の砦』を作り上げた。
そして数週間前ダンジョンが解放されるとともに俺は外に打って出ようとした。くだらない世界をぶっ潰して俺の物にするために。
だが、その結果がこれだ!軍の連中は俺の予想以上に強かった。おまけにこちらが迷宮内におびき寄せようとしてもまるで乗ってこねえ。しかも俺自身は迷宮から出られないという事実も突然知らされた!マジでクソゲーとしか思えない状況だ。
そして、俺の前でまたゴブリンの数が前触れもなく一匹減った。
「ちくしょう。どんな奴が潜り込んでいるのかは知らねえが、こうなりゃあ絶対に見つけ出してぶっ殺してやる…。」
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