第99話
ホウキさんが私に向けて竹箒の先端に膨大な力を集めつつ向けてきます。
対して私は力が集められた時点で駆け出し、25mまで近づいた時点で≪形無き王の剣・弱≫を発動。ホウキさんの懐に潜り込み竹箒の先端を切り落とすように右手に作った長剣で切り上げます。
ガキン!
ドオオオオン!!
「なっ!?」
が、ホウキさんが持っている竹箒は外見だけがそうであり、中身は全くの別物の様で私の剣で切る事は出来ずにただ上に跳ね上げただけでした。
そして、その光景に驚く私の前で竹箒の先端に集められた力が一点に収束、轟音と衝撃波を辺りに撒き散らしつつ極太の光線が空に向かって放たれます。
「何て力ですか……」
私は今の攻撃が直撃していた場合の未来に恐怖しつつ、衝撃波によって空中に弾き飛ばされて崩れた姿勢をそのまま空中で整えて地表を多少削りながら着地します。
「……。」
ホウキさんが薙刀のように竹箒を構えます。先程の砲撃はあの竹箒にもそれ相応の負担をかけるのか白煙が掃く場所と持つ場所の間から上がっています。これでしばらくの間あの砲撃が使えない。というのなら大歓迎ですが、油断はできません。
「何にせよ。あの砲撃を防ぐためには接近戦を挑むしかありませんね。」
私は右手の長剣を作り直して≪キーンエッジ≫をかけ、左手にはソードブレイカーと呼ばれる短剣を作成して≪デュラブルエッジ≫をかけます。
そして転移を挟みつつ一気に接近します。
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私とホウキさんの周辺に無数の金属音と火花が飛び散ります。
既に何十合撃ち合ったでしょうか?未だにお互い決定打は与えられていませんが、ダメージは確実に蓄積しています。
また、撃ち合って分かったことですがホウキさんの持つ竹箒の強度は明らかに異常です。なぜなら既に右手の剣は3代目になり、所々に転移で剣を直接撃ち込んで切り落そうとしているのですが転移させた剣の方が折れてしまうのですから。
そしてホウキさんの攻撃は苛烈の一言に尽きます。
「ぐっ……」
「……。」
右へ左へとリーチを生かした薙ぎ払いに、上から下への重量を生かした振り下ろし。この攻撃をただの竹箒によるものだと思っていはいけません。なぜなら私の剣を容易に弾く異常な強度は竹箒の掃く部分を作っている細い枝の一つ一つも持っているからです。
つまりこの武器と相対するならば、ただ砲撃能力を持った頑丈な竹箒ではなく、無数の細い刃が付けられた強力な砲撃機能付き薙刀と見るべきという事です。
「……。」
「っつ!拙い!」
ホウキさんが一瞬の隙をついて距離を取り、竹箒の先端に力を集めつつ、横薙ぎの構えを見せます。
ですが、そんな直接攻撃の武器としての性能よりも注意すべきはやはり最初に見せた砲撃能力です。なぜならこの砲撃は……
「間に合え!」
「……。」
私はそれを見て全力で接近し、ホウキさんの竹箒が砲撃を放ちながら横に薙ぎ払われるのを剣の腹を使って可能な限り上に逸らします。
ゴウッ!
周囲に再び轟音と衝撃波が撒き散らされて私は大きく飛ばされます。
そう、あの砲撃で最も恐ろしいのは、こうして竹箒を振りながら砲撃する事によって広範囲をあの光線で薙ぎ払うことが出来るという点です。
ただでさえ、長射程、高威力の攻撃をこんな風に放たれてはたまったものではありません。
「ふぅ……はぁ……」
私は呼吸を整えつつ武器を構え直してホウキさんの様子を探ります。
ホウキさんの服は所々切れていて、中には決して浅くは無い傷もあります。ですがそんな傷と出血にも関わらず呼吸などにはまるで乱れが無く、ただこちらをとてもツラそうな目で見ているだけです。
「……。」
と、ホウキさんの姿と気配が徐々に薄くなっていきます。
「またですか……。」
私はその光景に驚くことも無く落ち着いて周囲の気配を探ります。
ホウキさんはこの姿になる前は隠密系のスキルを主体としていました。そして習得したスキルは今の状態でも難なく使えるようで、今のホウキさんは≪隠密習熟Ⅰ≫の効果でその姿と気配を限りなく薄めています。
ですが、完全に気配を消せるわけではなく……
「そこです!」
「……っつ!」
攻撃に移る直前にほんの僅かですが気配が漏れるのでそれによって反撃できます!
私の反撃によってホウキさんの負っている傷が一つ増えます。
が、いつ攻撃が来るか直前まで分からないため、左手の籠手と短剣で防御してもホウキさんの攻撃によって多少の傷を負ってしまいます。
既に戦闘開始から四半刻ほど。私の体力は徐々に尽きて来ています。ホウキさんの方はどうなのでしょう?外からは分かりません。ただ、魔神の性格からしてほんの僅かにでも命が残っていれば後の事は構わずにそれを燃やして襲い掛かってくるでしょう。
「正直辛いですが、いいでしょう。やれるだけやらせてもらいます。」
私は痛む身体にムチ打って武器を構え、それに合わせてホウキさんも武器を構えます。
と、そう言えばホウキさんは攻撃用のスキルも持っていたような……
「≪切り払い≫!」
「ぐうっ!」
くぅ。噂をすればですか!
ホウキさんが勢いよく左から右へと竹箒を薙ぎ払い、私はそれを間一髪でガードして弾き飛ばされますが、腕からボキという嫌な音が響きます。
「くっ……」
着地した私の右腕はダラリと下がっています。これは確実に折れていますね。
「……。」
と、ホウキさんが私に止めを刺すために突っ込んできます。
私は残った左腕でそれをガードしようとしますが、竹箒が私に当たる直線に突然ホウキさんが大きく横に吹き飛ばされて受け身もとれずに地面を転がっていきます。
「えっ……?」
「間に合いましたわね。イチコさん」
私はホウキさんを吹き飛ばした人物の正体を見て、思わずその人が本来いるべき場所を見てしまいました。
そこに居たのは光の檻に囲まれたムギたち『霧の傭兵団』の面々に、ローブを着用して2mを超える長さの錫杖を持った人物の背中姿、そしてその人物に対して斧を向けるイズミの姿があり、本来そこに居るべきその人物の姿はありません。
ホウキさんを吹き飛ばした人物。それは…
「ホウキにシガンが何をしたのかは分かりません。ですが、これ以上ホウキに辛い思いをさせるわけにはいきません。一緒に戦いますわよ。」
リョウお嬢様でした。




