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一人目「……ほおずき」

三部構成になりましまたがそのラストです。(一話目なのに…)

続けて読んでくださってくる方はそのまま、また初めてみた方は一度前の話を読んでからどうぞ。

文化祭はなにもかもがうまくいっていた。




クラスの劇は結構な客入りで緊張しながらも、無事主役をやり遂げ、一日目を終了した。



二日目は役者は一日目とは交代し、俺は佐藤と伊集院―喜美と三人でいろいろな場所を回り文化祭を楽しんだ。



佐藤は俺たち二人に気を使ってくれたのか、あっちこっちと引っ張り回されたが、どこに行っても俺と喜美が隣(出し物によっては二人きり)になれるようにしてくれた気がする。

俺はこの時、心の底から楽しみ、悩んでいたことなど全く気にならなかった。


…あれ、何を悩んでたんだっけ…


「ん?どうしたの渉?」


…いや、なんか忘れてるような気がして…


「あのなぁ渉。こういう時はたとえ大事な用事を思い出しても黙ってるのがマナーて奴だぜ」


「そうだよ。せっかくの文化祭なんだから楽しもうよ。昨日はずっと劇に出てたんだから今日は思いっっきり楽しまないと!」

「そう、まさに伊集院さんの言った通りだぜ」


…そうだよな。わりぃ、次はどこ行く?…


「けっこう色んなとこ回ったよね」


「おっ、ならまだ行ってないおすすめがあるんだが…」


こうして二日間の文化祭も過ぎていき、残るは終縁祭、通称「お疲れ祭」だけとなった。



お疲れ祭は、体育館と校庭が解放されて、軽音部やアカペラ部等が文化祭中に人気のあった曲をアンコール演奏をしたりする。

それを聞いていてもいいし、演奏をBGMにして文化祭の余韻に浸って友達としゃべっていてもいい。そしてその中、俺は校庭の端の方で喜美と向かい合っていた。


「いいか、ここから先は俺は消えるがヘマはするなよ。今更な気もするが。それといくら人が少ないスポットとはいえあーんなイベントやこーんなイベントはお前にはまだはや…」


ここまで聞いて俺は喜美に校庭に行こう、と誘われた。佐藤はほらきた、といわんばかりの顔をし、喜美は何か覚悟を決めたような、しかし、耳まで真っ赤にした顔でこちらを見た。



そして今、最初はねぎらいの言葉を掛け合っていたが段々と口数が少なくっていきただ向き合っていた。



俺は喜美のその口が開かれるまで校庭を見た。



今立っているのは校舎の脇、蛇口の回す部分がとれているため水道があるところでも周りに人はいない。俺は校舎を背にしているので校庭の様子がみて取れた。



校庭の中心では文化祭で使わなかった廃材でかがり火を焚いていて、それを囲む者や友達と話す者、まだ元気があるのか走り回る者もいた。

他に校庭での出し物がたくさん並んでいる中、更にはボロボロな制服を着た三年生に長身の男が銀色に光る銃を突きつけている光景もあった。



そして、喜美に視線を戻すと目が合い、それで彼女は決心したのか、




…ちょっと待て、今何かおかしくなかったか?




自分の感じた違和感に渉は再び校庭を見渡す。




別に普通だ。文化祭に関係ないもの、怪しいものはない


校庭のかがり火


友達としゃべる女子


走り回る男子


銃を突きつける男とその先にいる女子生徒





!これは…




渉はこの光景に違和感を感じた。普通であれば間違いなく最後の光景をおかしいと感じるはずだが、渉は感じた違和感は別にあった。



渉が感じた違和感とは――そう、一度見たことがある光景、デジャヴに対してだった。




そして渉は、


「危ない!」


俺は彼女を突き飛ばした。




銃弾を跳ね返していた彼女には必要ないとわかりつつそしてその結果自分がどうなるかもわかっていたけど、気が付くまもなく突き飛ばしていた。このことに気づいたのは彼女の表情が呆然から驚きそして−





そして、俺の意識は途絶えた。







―風が強く吹く中、校庭を見下ろす。そこには物影があっても人影がない。





…この感覚は、




―右を見ると同じく校庭を見下ろす少女。彼女はこちらを向き何かを言っている。




…聞こえない。しかも周りが暗すぎてよく視えない。




―少女が再び校庭を見下ろすと背後に回り少女の背中が見える。



…何をする気だ?



少女は気づかない。手が背中に伸び一つの動作を推測させる。



…やめろ、



手は少女の背中に触れ、


…やめろ、



少女は気づき振り向くが、


「やめろ!!」


渉は自分が叫んだのを聞いた。どうやら実際に声に出していたらしい。


「気がついた?」


首を後ろに回すと例の少女がいた。彼女は既に、制服を脱ぎ私服に着替えていた。


「ここは?」


「ここは学校の屋上。君が私をかばってくれたおかけでやられずにすんだみたい」


「そうだ、俺、撃たれて…」


渉は立ち上がり自分の体を見下ろすが銃痕どころか血すら付いてなかった。

「実際には撃たれてないわ。どうやらあの銃声が幻惑をかけるきっかけになってるみたいね」


「幻惑のきっかけ?」


「私の話どこまで覚えてる?あいつが君に幻惑を視せてた幻惑者よ」


あの男が…?




そのとき渉は自分が前にあの男を見たことがある事、そしてその前に彼女が自分の目の前で戦っていた事を思い出した。


「俺、確かあいつを見たことがある」


「ほんと!?」


「ああ、確か先輩が初めて俺の前に現れて二人の不良みたいな奴と戦った後に会った」


「あの時か…やっぱり君から離れるんじゃなかった。……あ、それと私はここの生徒じゃないよ?」


「えっ、そう…なんですか」


「なんで敬語?制服は君に気づいてもらうために着ただけ。まあ、さすがにもう着れないけど」


といって、今はぼろきれとなって捨て置いてある制服を見る。


「ま、あれは置いといて、今の状況を説明しといた方がいいかな」


「ぜひ。あなたは一体何者で、あいつらも何なのか、どう見ても普通の人間じゃないですよね?」


「普通の人間じゃないときたか…まぁそうなんだけど。あんまり時間がないから手短に言うけど私や彼らはいわゆる“超能力者”でやつらは君を狙っていた。そして私は彼らから君を保護するためにこうしてきた、て言ってわかるかな」


「多分、素で聞いてたなら何かのゲームか小説か、本気で言ってるなら頭を疑いますが、この間のことがありますからとりあえず信じます」


とにかく渉は一番の疑問をぶつけた。


「どうして俺が狙われてるんですか。しかも、えっと、その幻惑?までかけられて一体何が目的なんですか」


「いや敬語はいいって。それは、あなたも私と同じ超能力者、だからよ」


「えっ」


「彼らがなぜあなただけを狙うか、正確なことはわからない。けど、私が来たのは、君、というかこの町に超能力者がいる、と言われて来たの。

君だとわかったのはこの町に君一人しかいなくて奴らに狙われてたからだけど」


と、説明が続いていたが、渉はほとんどスルーしていた。


「けど、おれ、超能力なんて一度も…」


「ん?何かない?ふつうと明らかに違うこととか。体験とか」


といわれても全く思いつかない。せいぜいがデジャヴをよく感じるだけで、それも別に特別なことでは…


「そういったことは全く…それに、」


「しっ!」


俺が言おうとした時、学校の一階の半分の部屋が爆発し、もう半分の教室の窓ガラスが全部割れた。


「…本当はあの人と合流するまでここにいたかったんだけど。どうやら学校の中を探し始めたみたいね。屋上にもすぐ来る。話はここまで。こっち来て」


彼女は緊張を含んだ声で渉を屋上の端に呼んだ。今更気づいたが、屋上に張られているフェンスの一部が事故で車がぶつかったかのごとくひしゃげていた。


「なっ、これは」


「ああ、これは私が下から跳んだときにぶつかっただけ」


「ぶつかっただけって…しかも下から跳んだ?!この学校は四階もあるのに!」

「それよりこれからなんだけど。私はここで時間を稼ぐからあなたは自分の家まで逃げて。そしたら眼鏡をかけた男の人が君を迎えに行くから。あとはその人に付いてって」


「逃げるって、まさかここから飛び降りろって事!」

「それは私が下に降ろすから」


「ならそのまま一緒に逃げれば…」


「もう少し暗ければそれでも良いんだけど。ここにいたのはばれるだろうしあれのせいでここからなら逃げた方向がすぐにわかる。あなたが逃げるためには私が時間を稼がなきゃ。」


といって校庭のかがり火を指す。


「なら俺も一緒にここに残る!」


「それはだめ!私はあなたを保護するために来たの。それに能力者相手じゃ今の君はかなわない」


「そんなのやってみなきゃッ!っう!」


渉は急な激痛に頭を抱えた。




これは、さっき、の?




「大丈夫?!まさか、幻惑者!?」


なんて言われてるが、その間にも先ほどのデジャヴの続きが渉の頭の中に流れていく。


「っはぁ、はぁ、」


どうやら渉はうまく呼吸すらできてなかったらしい。


「大丈夫?……何も変化はなさそうね。とにかく落ち着いたならあなたを下に降ろすね」


そういって彼女は校庭を見下ろす。



自分も呼吸を整えつつその隣に並ぶ。



校庭にはかがり火と出し物の他に黒く影になってる部分、おそらくクレーターのようなものがあった。が、それ以外は全く同じ。



その時、後ろの屋上の扉が乱暴に開く。


「みつけたぞー!」


「しまった!降ろす前に見つかった!?」


首だけ振り向く彼女。


「地面殴って目くらましされて、足跡もなく消えたと思ったらまさか屋上に飛び乗ったとはな!」


ハチミツの後にリンゴが続いて現れた。



少女はくっ、と唇をかみ、再び校庭を見る。


「逃がすかよ!溶塊(メルト)!」


ハチミツが熱の塊を構える。


「ごめん」


そして、渉は少女の背中を押した。



彼女はこちらに顔を向け背中から落ちていった。


下は校庭の端で土ではなくコンクリ、さすがにこの高さから落ちれば彼女でも無事ではないかもしれない。


「あっ!てんめ」


そう…


「待て!そいつを捕まえればそれで十分だ」


だからこそ…


渉は後ろを気にせずに身を乗り出し下を見た。




ゴッ!という音とともに下からものすごい熱風がやってきた。




熱風が過ぎたときには彼女は空に浮いていた。



自分の目線より1メートル上の位置だが、実際には彼女は屋上の外であり、その高さは校舎の五階があるであろう高さである。



渉に向かっていた蜂蜜とリンゴも動きを止め、彼女を見た。


「なんだありゃ…」


その言葉はそれを見たもの全員が思った言葉だろう。




彼女は確かに浮いているが、その体には赤い膜のようなものがかかっており、そして手足の延長とでもいうかのように巨大な手と足が付いていた。彼女は浮いているのではなくその赤く巨大な足で立っていたのだ。




彼女はまっすぐと屋上の方を見て、手を振り上げた。すると、赤く巨大な手も同じ動作で持ち上がった。


「くっ、ふざけやがって……それがおまえの超能力か!この化け物!」


そう叫び構えていたハチミツは熱の塊を投げつけた。

しかし、それは赤く巨大な腕に直撃はしたものの何のダメージも残せず散っていった。


そして、腕が振り下ろされる。


もし本物の腕、もしくは同じ大きさの物体であれば、校舎が崩れ渉も無事ではなかったろう。



だが、腕が振り下ろされ、屋上にぶつかっても崩れることなくただ熱い熱風となった衝撃波がぶつかってくるだけだった。

「のわっ」


「がっ!」


「ぐぅ…」


赤い腕に飲み込まれるようになった二人はそうはいかなった。



ハチミツは屋上に叩きつけられ、リンゴは扉に押しつけられた。


「どうなってんだ…?力が、抜けて…」


「まさか今の一撃でフラスコが空に…?馬鹿な…」


二人は力の入らない声でつぶやいて気を失った。




渉は腕と足が消え赤い膜をまとっただけとなって屋上に降りてきた彼女に話しかけた。


「その、大丈夫か?」


「今のって私がやったの…?こんな能力(ちから)初めて使った」


「突き飛ばしてごめん」


「えっ?いや、まぁあの高さなら落ちても平気だったし、それより何で押したの?」


「なんていうか、押した後に何が起きるか何となくわかってたというか…」


少女の疑問に渉が歯切れ悪く答えていると、


「全く…とんでもないものを見たと思って駆けつけてみればこの有様か」


銃声が響き、もう一つ声が増えた。



黒のロングコートに黒のシルクハット、そしてあげた白い右手には銀に光る拳銃。


「あなたが、最近の変死体事件の犯人であり殺し屋……そして今回の計画の首謀者である幻惑者(イリュージョニスト)ね」


「元殺し屋だ。あのような殺し方をする殺し屋などいない。するとしたらそいつは愉快犯か、あるいは、狂人だけだ」


そして幻惑者は倒れた仲間の二人を見下ろし、


「しかし、なるべくなら二人だけで成功させてほしかったんだが、こうなっては仕方がない」


次の瞬間には渉と少女の腕がねじ上げられていた。


「あとはおれが片付けるとしよう」


一瞬で回り込まれたことに二人は驚いた。渉は腕の痛みで動けなかったが、少女の方は捕まれた腕を振りほどくと同時に殴りかかった。



それに対して幻惑者は、まず渉を蹴り飛ばし、少女の拳を両手ではじいた。そして、体勢を崩した 少女の腹に掌底をたたき込む。


「かっ!」


少女は驚きと衝撃で口から音が漏れた。



幻惑者はその隙に追撃に入る。



姿勢が低くなっている少女の頭を両手で挟み、顎を膝で蹴り上げ、更に無防備となった喉へと足のつま先をぶち込んだ。



少女の口から再び奇音がもれた。



そして、蹴っても吹き飛ばさずに足先を少女にひっかけ地面に叩きつけた。


「俺の能力が戦闘系ではないと油断したか?これでも殺し屋としての経験があるのだがね」


そう言って幻惑者は少女を持ち上げようとすると、視界がぶれた。



足を払われた、と気づいたときには既に体制を整え、起きあがった少女と向かい合った。


「……ふん、普通ここまでやればオーバーキルものだが、さすが、というべきか。聞いてはいたが、頑丈だな」


少女は口から垂れた血をぬぐい、再び近接に持ち込む。



二人がぶつかり合うのを感じて渉は、ひたすら考えていた。



痛てー…ただ蹴られただけなのに全然立ち上がれない。



でも、この状況、また見覚えがある。ということはこの後も見覚えがあるはず。だから思い出せ!この後どうなるのか…思い出せ俺!



渉は勘違いをしていた。そもそもデジャブとは、見たり体験した事を経験した『後』に感じるのであって、そもそも経験してないことは思い出せない。



渉はその事を分からずひたすら思い出そうとしていた。が、その間にも二人の戦闘は続き、段々と少女が追い込まれる形になっていた。



端から見れば少女が猛攻撃をかけ、長身の男がそれを避けながら合間に反撃をしているのだが、少女の攻撃はすべてかわされ、カウンターで男の蹴り、拳が重く決まる。

そのため攻撃をしかけても後退してるのは少女だった。




少女の拳が幻惑者の耳をかすめ、引っ込めようとした時腕を捕まれた。少女が全力で離れようとするが、その前に幻惑者はつかんだ腕の肘を曲がらない方向へ曲がるように体重と力を掛けた。



腕を折られそうなのに気づいた少女は阻止せんと捕まれた腕に力を込め直すが、既にだいぶ反っており、うまく力が入らない。


「っ!このッ!」


少女の身体が赤い膜に覆われ捕まれた腕から赤い再び巨大な腕が現れた。

危険と判断したのか幻惑者は腕を離し少女から距離をとった。



赤い腕の大きさは肩から三メートルくらいと先ほどよりも小さいがこの距離であれば十分脅威となる。


少女はその場を動かず赤い腕で殴りかかった。

男はその攻撃を大きく回避した。


「くっ、まずはその腕をなんとかするとしよう!!」

男は苛立ちの表情をし、懐から今までとは違う黒くごつい拳銃を取り出し少女に向け二発放った。その銃からは実弾が飛び出し少女は赤い腕でガードしたが、銃弾は赤い腕を通り抜け一発が肩に命中した。



銃弾は跳ね返らず、そのまま少女の肩にめりこんだ。



身体は仰け反ったが何とか悲鳴を飲み込んだ。しかし肩を押さえ動けない。





まずい…



渉はまだ思い出そうとしていた。彼女は先ほど撃たれてから肩を押さえうずくまって動かない。撃った側は腑に落ちない表情で自分の銃を見ていたが、すぐにその銃を少女に向けた。赤い腕はまだ残っているが、消えたり現れたりと安定していない。




どうする…どうする!



自分は満足に動けない。ましてや相手は彼女と互角以上に渡り合った男。(いま)だにこの先なにが起こるかもわからない。




だけど…このままじゃ、


くそ……!






自分の前でうずくまっている少女を見て幻惑者は考えた。


…聞いたところによれば実弾は効かないはず、だったんだが。



本当は実弾を種に幻惑にはめるつもりだったが…



まぁ良い、同じことだと今の結果に納得し幻惑者は考えるのをやめた。


「まぁ良い。次でとどめを刺し、目標を回収するとしよう」


そう言い少女に銃口を向けた。




「ほおずき!」


その時、横から叫び向かってくるものがいた。






「ほおずき!」


渉は少女の名前を叫び幻惑者に向かっていった。


無論、無駄なのはわかっていた。向こうもこちらをちらと見るが銃を構えた姿勢は崩さない。



無駄だとわかってても、彼女を見殺しにはできない…!




向かってくる渉に幻惑者は懐からもう一つの銃、銀色の銃を取り出した。



ここで渉は相手が銃を取り出すのがわかっていた気がする、と感じた。そして自分がその後になにをするのかも。



ああ…なんだ、わざわざ思い出す必要なんてなかったのか、結局思い出せたのは名前だけだし。

でも…


「おまえにはまた眠ってもらうとしよう。次に起きた時には俺の部下になってもらうとしよう!」



そして、銃声が響いた。



そして、渉は、




幻惑者に近づきそのままぶつかっていった。


「なっ!?」


幻惑者は驚き、銃こそ落とさなかったが、体勢が崩れた。



そこに渉が背中から飛び乗り腕と足を離すまいと絡めた。


「おまえ、どうして!」


「見てなかったのか?俺もなにも見てなかったし聞いてもいなかったからお前が何をしたのかわからなかったぜ」


渉は銃声がなる前に目を閉じ、耳をふさいだのだった。


「催眠術ってのは5時にかわ見たり聞かされてたりでそれを『種』にしてかけるんだろ?だったらあんたのその銃声、聞かなきゃいいんだ」


「俺の幻惑が、そんな適当な方法で…!離せガキ!」


「今だ!俺ごと殴れ!ほおずき!」


幻惑者は渉とのやりとりですっかり少女のことを忘れていた。




はたして、そちらを見ると、既に赤い拳を構えた少女がいた。


「き、さ、ま、ら…!」


「はぁぁぁぁぁぁ!」


赤い腕は幻惑者と渉二人を貫き、更に少女の伸ばした本物の指先が刃のごとく、幻惑者の左胸に刺さった。


「が!がああああ!」


その瞬間幻惑者は狂ったように暴れ出し、少女は突き飛ばされ、渉も払い落とされた。


「痛っ!」


「大丈夫か!」


「なんとか。君は」


「大丈夫。でも、間に合って助かった」


「いえ、まだ油断できないわ」


「えっ?」


ほおずきの睨む先、渉は信じられないものを見た。





暴れたせいか、ほおずきの攻撃は胸の部分を広く深くえぐる形になってしまった。




普段そんな傷を見せられれば気分が悪くなるだろうが、それだけではない。



明かりはほとんどなかったが、それでも心臓に半ば埋まる形で試験管のようなものがあるのを渉は見てしまった。試験管からは中身が勢いよく蒸発したかのごとく煙が出て、中には透明なのに濁った液体が底にわずか残っていた。


「あ、あれって、」


「あれは彼らが自分たちこそが超能力者だと選ばれたものだという証、“フラスコ”よ」


「そう、この“フラスコ”は…はぁ、はぁ、能力を使う俺たちの命にして核。そしておまえのその腕……かっ、それは、我々の核であるフラスコのエナジーを奪いとる力がある。そんな、危険な力を、俺たちが放っておくと思うかっ!」


「ならば、それを知っているあなたをこの場で倒す!」


ほおずきが幻惑者まで一気に近づく。




それに対して、幻惑者は、自分の頭に銃を押しつけ引き金を引いた。

その途端、ものすごい光と爆発音が幻惑者の頭から放たれた。


「くそっ自殺!?」


「やられた!待ちなさい!」


ほおずきは光の中心に殴りかかるがしかし、空振りに終わった。




光と音が止むと、倒れた二人と幻惑者が消え、そこにはもう渉とほおずきしかいなかった。


『今回は引く。だがいつか、おまえらふたりは必ず殺すとしよう』


ただその言葉が響き残っていた。



その後はほおずきの仲間だという人が来て、更にはその人が呼んだ人や車などがたくさん来た。




夜も遅く大騒ぎになるはずだが、その騒ぐべき人がいない。その時には俺は治療を受け、半ば無理矢理に寝かされていて後から聞いたが、皆大きな公園や施設、またはデパートの地下駐車場などに倒れているのを発見されたそうだ。



また世間的にはこの事を集団失踪事件として注目されることになった。



なにせ一週間近くの間この町の人間は失踪していた事になっているのである。



つまり、奴らは一週間もの間、俺に幻惑をかけ、町規模で何らかの計画を行っていたらしい。



今もニュースでは現代の「神隠し」事件として、その手の専門家が熱く論じ合い、超能力者たちによる戦いがあった事は一言もでなかった。





そして、あの日の翌日、俺にとって事件は終わってなかった。むしろ、始まってしまった。




俺が仮説治療室から起きると、太陽の光がうすく出ていた。


俺は起きて外にでると、学校の校庭だったらしく、文化祭の跡が残っている中にいろんな人が忙しそうに動き回っている。


…そう言えば文化祭、本当の日付なら一週間前に終わってたんだな。



そんな事を考え、ぼーっと立っていると、後ろから声をかけられた。


「あ、起きたみたいね。ずいぶん早いね」


「……どうも」


昨日、俺のことを眠らした人とは違う女の人だが、白衣、という共通点から同じ医療班の人だろう。女の人は近づいてきて、俺の額に手を当てた。


「ちょっと失礼……ふんふん…心身ともに異常なし、と」


すると、どこかに電話をかけ始めた。


「うん、そう、彼目覚ましたわよ。…そう、わかったわ。じゃ」


といって電話を切り、


「今ほおずきちゃんを呼んだから中で待ってて」


「はい」


俺は仮説治療室の中でほおずきが来るのを待った。


ほどなくして彼女が来た。


「おまたせ。どう?調子は」


「俺は大丈夫だけど。ほおずきは?」


なにせ自分とは違いほおずきは撃たれているのだから。


「私は平気。まだ傷はあるけどもう痛くないし。それよりこれに目を通してくれない」


そういって何か人名のリストを渡された。


「これは?」


「今回のことで、発見できなかった失踪者のリスト。君の学校の生徒とあと君と同じ名字、といってもそれほどいない名字だったんだけど……」


「まさか!」


「いや、君の家族は無事のはず。君と同じ名字の失踪者はいなかったら」


「なんだ…」


「でも一応見せといた方がいいかなっと思って。友達が無事だといいんだけど」


俺はリストに目を通した。

全員で50名弱もの名前が載っていた。町全体の人口からすればほんのわずかだが、自分が狙われたせいでこれだけの人が巻き込まれたのだ。



そう思いながら見ていくと、そこで渉は二つの名前を見つけてしまった。

「嘘だろ…」


「まさか、リストの中に友達が…?」


「おい、これってちゃんと探したのか!町中くまなく探したのか!」


「探したわ。でもどこにも…」


「!俺のせいで、俺が狙われたせいでこんな……」



渉が握りしめた失踪者リストには“伊集院喜美”“佐藤賢二”の名前があった。



一人目 了

ということで一話終了です。


改めまして、樹純我純といいます。

読みは、じゅじゅんがじゅんです。変な名前で失礼しました。




とりあえず、ここで書き溜め分が終わってしまいました。話の要所要所は思い付いてるんですが、このあとどう続けるかがネックでした。

でまぁ、落ち的につぎは渉くんが目的(ネタバレ防止)をもって動く感じで続けたいと思います。



今は暇なのでなるべくはやく載せたいですが、携帯から載せているので打ちづらいですね。


…………では、またお会いしましょう!!(おい!)

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