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五人目「とほほ……………」

ふっかーーーーーーーーーつ!!

ということで五話目、皆さんも風邪には気をつけてください。

痛い、苦しい。


あれからこの言葉を何度繰り返しただろうか。


傷が、胸の傷が心臓が脈打つ度に血と共に体全体へと痛みを送る。


あれからこの苦しみがなかった日は一度もない。


あれからいつ終わるのか、またはこのままなのか。もはや数えていない。


あれから………あれから?


あるからとは、いつからだ?


…………………………………そうか、あの時か。


あの、二人。殺そうとしたが逆にこちらが()け、この傷と苦しみを背負ったあの日。


あれから、あの二人。


殺す。あの二人を殺せばこの痛みと苦しみも殺せる。


ころす、ころす。


………………………………………………………………




クリスマスの一件から六日後。


(わたる)は風邪を引いていた。


そりゃ冬にずぶ濡れでいたら風邪を引くよなぁ………


あのライブ会場から車で帰える途中渉は寝てしまい起きた時には体がだるく布団の中だった。


宗次(そうじ)はというと……と、渉の部屋に人が入ってきた。


「よ、渉起きてるか」


宗次だった。宗次と鬼灯(ほおずき)も渉と同じ状況にだったにもかかわらず風邪はひかず、渉だけがベッドで寝込んでいた。


「だいぶマシにはなったか?」


「ああ、さっき熱を計ったらやっと7度まで落ちてたよ」


「それでもまだまだだな。こんな風邪くらい超能力でちょちょーいと治してくれりゃいいのにな」


「まあ、自業自得だからな…」


皆堂(かいどう)さんいわく、「これを機に渉君には少し反省してもらおうかな」らしく、こうして自室のベッドで寝込んでいるわけである。


「そういえば鬼灯はどうしたんだ。つきっきりで看病してなかったっけ?」


「さっき俺がもう大丈夫だって言ってなんとか自分の部屋に帰らしたよ」


どうやら鬼灯は俺が寝込んでいる間中看病していてくれたらしい。責任を感じているのか休むよう説得するのに随分苦労した。


「そうか。いや、大変だぞ渉。さっき廊下で頼貴(らいき)に会ったんだけどさ。見た目も中身もぴりぴりしてたぞ。まあ見た目はどちらかというとビリビリしてたけど」


頼貴、本来はよりたか、て名前だけど、おれたちの間でもすっかりあだ名が定着した。頼貴は紫電(しでん)を使う超能力者で鬼灯と仲良くする渉の事を気に入らないらしい。


風邪が治っても頼貴に再びベッドに送り返されそうだ、と渉がうんざり思うと、


コンコン、と控え目に部屋のドアがノックされた。




「お久しぶりです、戸保(とほ)さん」


「どうも、お久しぶりです皆堂くん」


渉の部屋がノックされる少し前、皆堂の部屋に一人の男が訪ねてきていた。


歳は中年を通りすぎ定年間近。髪は丁寧に()で付けてあり着ているスーツもシワひとつなく身なりは整っている。が、姿勢が猫背で眉毛が常に困っているかのように下がっているため情けない印象を与えている。


そして極め付きとして鼻の下に見事なちょびひげが生え揃っていた。


「ここに来るのは半年振りくらいですか」


「そうだねぇ、その時も色々お世話になりました。お陰でクビにならずに済みました」


「いえ、こちらこそ戸保さんが来てくれて助かりました。捜査資料ご提供ありがとうございました」


「いえいえいえいえ!こちらこそ犯人逮捕、とまではいきませんでしたが無事、事件が解決しました。こちらこそありがとうございます」


互いが互いに頭を下げる。


皆堂が頭を上げてもしばらく戸保はそのままでいる。


「あの、戸保さん………?」


「はい?」


「今日も何か用があったんじゃないんですか?」


「ああ!そうでしたすみません!トホホ」


と慌てて頭を上げる戸保。


「まだ『トホホの戸保さん』は健在ですね」


「どうにも、つい出てしまって」


そう言ってトホホ、と苦笑する。


「先程その時も、と言ってましたがまた僕たち、あるいは彼らに関係ある事件で?」


「はい、そうなんです…………。こちらでは例のごとく『FP事件』と呼ばせてもらってます。もうニュースにもなっているんですが、連続してこのようなひどいことが」


と言って戸保は『極秘 FP事件関連資料』と書かれた封筒から写真をいくつか取り出す。


写真は(おも)に真っ赤に染まっていてどの写真にも奇形(きけい)と化した死体が撮られていた。


「これは、ひどい………」


「ええ、どの被害者もこのような姿で発見されています。第一発見者は今も重度のショックから立ち直れてません。もしかしたらこちらの先生の協力をお願いする事になると思います」


「ええ、その時はいつでも言ってください」


「はい、お願いします」


戸保はまるで神様に祈るかのように目を閉じ皆堂に手を合わせる。


「それで凶器などの見当は」


「ついていません。それから、もうひとつ気になることが」


戸保はまた先程の写真と同枚数写真を出す。


「血文字」


「はい。被害者の近くに必ずありました」


それは壁や地面が撮られた写真で赤い文字が書かれていた。戸保が写真を並べかえる。


左から1、と数字が振られ「今こそあの言葉を実現とするとしよう」と書かれ、二枚目には「かならずさがしだしてころすとしよう」、三枚目「ころす、ころす」、そして四枚目は血で文字が塗りつぶすされていて読めない。


「四枚目、つまり四人目の被害者以降はこうなっていて文字が読めんないんです。これは犯人が段々と正気を失っていると思われます。しかし、恐らくはここに名前のようなものが書かれていると推察できました」


「名前………ということは二枚目の『さがしだして』というのが犯人の狙い」


「そうだと思います。だから亡くなった被害者はただ巻き込まれただけなんです……!皆まだ将来ある若い子たちばかりで………そう思うと私は……………」


戸保は下を向き、体を震わせる。皆堂は戸保の性格を知っているので戸保が前を向けるようになるまで静かに待つ。


やがて落ち着いたのか戸保は鼻をヂーと音をたてかみ、顔を上げる。


「トホホ、すみません。みっともないところをみせました」


「いえ、戸保さんのそういう所を含め良いところだと思いますよ」


ありがとうございます、と戸保が苦笑する。


「戸保さん、僕にはこれらの事件に見覚えがあります」


「私もです。かつて捜査本部があんなにも混乱したことはありませんでした。まさかあのようなことがまた起きるとは。いや、犯人を逮捕できなかったその(むく)いが今」


「戸保さん。あれは仕方がなかったんです」


「わかっています」


「それに今回の事は僕たちにも責任があります」


「責任………?」


「今回の犯人は殺し屋『幻惑者(げんわくしゃ)』。そして彼の狙いは土岐野(ときの)渉と神山(かみやま)鬼灯の二人です」




「………ということで渉に話を聞きに来た、と?」


「はい」


渉の部屋に訪ねてきたのは戸保だった。


「おそらく土岐野君と神山さんが幻惑者を最後に見たはずですのでできればその時の話を聞かせていただければ。そしたら神山さんはお休み中だったので先に土岐野君の方からと。そのー、具合(ぐあい)は大丈夫ですか」


渉が寝込んでいたと言うのを皆堂は言ってなかったのだろう。


「大丈夫です」


渉が無理なくそう返事すると、宗次が席を立った。


「じゃあ俺、飲み物持ってくるぜ」


宗次が人数分の飲み物を用意して渉は戸保と宗次に鬼灯と出会うきっかけにもなった出来事を話した。




「………なるほど。お話ありがとうございました」


「いえ、といっても俺に話せることはあまりなかった気がしますけど」


「そんなことは!今のお話から今回の犯人とその幻惑者が同一犯の可能性が強くなりました。……それから、その、辛いことを思い出させちゃってすみません」


「えっ」


佐藤と喜美の事は意識して話さないようにしていたけどやっぱり顔に出てしまったか。


「………そんなことは」


「あ、本当にちょびひげがいる」


そんな時、空気を読まず渉の部屋に遠慮なく入ってくる奴がいた。頼貴だ。


「ああ、頼貴君ですね。お久しぶりです」


「おう、ちょびひげは相変わらずカツアゲにでも遭った顔してんな」


「確かに」


と頼貴の言葉に宗次が笑い戸保が苦笑した。


「何の用だよ」


「あ?……………皆堂さんがちょびひげがここにいるから来るように言えって。ついでに、いつまでも仮病で寝込んでる貧弱を記憶部屋(ライブラリ)に連れてけってよ」


相変わらず頼貴の渉への態度はひどい。最近は鬼灯が看病で渉の側にずっといたから特にだ。


「そうですね。私もお話が聞けたのでそろそろ行きます。何か他に思い出したりしたらお願いします」


戸保は渉に手を合わせお願いをするように頭を下げる。


変なお願いの仕方だが渉は断る気はしなかった。


「わかりました。また何かあったら。皆堂さんに伝えれば良いんですか?」


「そうだった。ここに連絡ください。私の携帯です」


と言って戸保が渉に名刺を差し出す。そこには、


「警視庁特殊事件・命令待機課………?」


と書かれていた。


「いや、それは便宜(べんぎ)上の呼び方でして、あまり意味がなくて………」


「ちょびひげは警視庁の窓際族、だもんな」


頼貴のストレートな言い方に戸保が苦笑する。


それではお先に、と戸保が立ち上がりドアに向かう。


「あの、最後にいいですか」


「はい?」


「もし、俺が、あの時幻惑者を逃がさなかったら、倒していたら今回の被害者達は死なずに済んだんですか」


渉は戸保から事件を聞き、気になった事を聞いた。


「……………その事で君が責任を感じてるんだったら、その必要はありません」


戸保はしばらく間を開けて渉に答えた。


「本来なら私たちが捕まえるべきものを君たちに任せてしまった私たちが悪いんです。今回も被害者達を守れなかったのは私たちの責任です」


「けど、あそこでやつが死んでれば!逃がさずに殺せれば……」


「私には誰にも死んでほしくないし誰にも殺してほしくないんです。特に君たちのような若い子達には。もちろん、やらなければやられる、そんな状況が起きてしまうことだってあります。特に君達はすでにそういう場面を経験してしまっていると思うのであまり説得力はありませんが、実際私に出来ることはほとんどありません。お願いします。例えどんな状況だとしてもどんな人でも殺さないでください」


そう渉たち言って戸保は部屋を出ていった。




薄暗い廊下に薄暗い部屋、灯りがない訳じゃないがそれもなんだかわからないもやもやしたものが不等間隔で並んでいるだけだ。


相変わらず薄気味悪い所だ……………


できれば来たくない、と思うが、今日は重要な案件で呼ばれているのでそれも仕方がない。


相方は、というと今日も機嫌が悪いのか目つきがいっそうきつく、金髪も相まって不良の見た目を通り越しチンピラっぽい。これで中学生なんだから変な貫禄(かんろく)がついてしまっている。


機嫌が悪いのは今日に限ったことじゃないか。


「おい、わかってるとは思うが今日は価値なし(ワースレス)の親玉の呼び出しだ。くれぐれも態度に気を付けろよ」


「………………………」


「そりゃ俺だってこんなことで呼び出されるのは不本意だ。たがな、」


「………………………」


「おい、ハチミツ」


「……………お前に俺の何がわかんだよ」


「あ?」


「お前に、徹夜のプレイ時間6時間全部合わせればほぼ一日のデータを一気に失った、俺の気持ちがわかんのかよおおおぉぉ」


見た目不良ことハチミツが叫ぶ。


「……………」


今度は俺が黙る番だった。


「隠しボスが強いこたぁわかってたんだよ。だから、今回も勝てなかったのはわかる。けどよ、今回はちゃんとレベル上げしてしかもレア装備ゲットしてたのにさあ。なんでセーブしないで切っちまったんだよ俺のバカ!」


「おま、まさか最近機嫌悪かったのって」


「だから隠しボスが」


「んなくだらねえことで気を煩わすなこのアホ!」


「あぁ!?くだらねえ!?くだらねえとはなんだよ!お前あの装備出現どんだけ条件厳しいのかわかってんのかよ!」


「知るか!そっちこそ俺がどれだけ疲れてんのか知ってんのか!」


「知るかボぉケ!お前の疲れより隠しボス攻略の方がもっと疲れるわ!」


「んだとぉ!」


「やんのかリンゴ!」


「いいだろ。お前のラスボスが誰か教えてやる!」


「現実のボスの話をしていいかな?」


既に臨戦状態だったリンゴとハチミツに声をかけるモノがいた。


声を聞いただけだったがその瞬間リンゴハチミツの二人は動きを止める。


「あんたは…………」


「価値なしの………」


「そ。『サークル・ゼロ』の価値なしの『1』番だ。君たちを呼び出した件について話したいんだけどいいかな?」




場所は先程の廊下と同じく薄暗い場所。違うと言えば何の飾りもなく灯りもぼんやりとしていた廊下に比べカウンターやイスがあり、人気(ひとけ)のないバーのような場所だった。


「さて、君たちを呼び出したのは幻惑者(げんわくしゃ)の件、なんだけどね」


席が空いているにも関わらず狭い丸テーブルに向かい合い話を始める。無論、バーテンダーらしき店員もいないので飲み物は出ない。


「とある仕事以降治療中だった彼は突如錯乱(とつじょさくらん)し、治療に当たっていた医師、作業員を狂死させ逃亡。現在行方不明で捜索中。………治療所がこの『寄生旅行(パラサイト・シーイング)』の末端部屋とはいえ仲間を殺して逃げだした。いくらうちの方針が自由とはいえこれはさすがに問題でね?」


と言って丸まった新聞を二つテーブルに転がす。いずれも猟奇的(りょうきてき)な殺人事件が一面に載っている。


「これもそう。逃げだした時の精神状態はかなり正気を失っていたけど、この手口は彼の能力に違いない。そして彼はおそらくだが」


と、ここでためる。


「ある場所を目指してるんじゃないかなー、と」


「それは」


「君たちも知っている場所。『昇格』しての初仕事であり初失敗をした場所」


『1』番の言い方にリンゴは顔をしかめる。最近こんな感じの嫌味ばかり聞いていたがまだましなほうだった。


あの高校か……………


「で、結局俺たちはどうなるんすか?『降格』でもしてまた下端にでもなるんすか?」


「おいハチミツ!」


「まさかまさかそんなことはしないよ。それにこの組織に『降格』なんて都合のいいものはないよ」


軽口を叩くハチミツをリンゴがたしなめるが、『1』番は手を横に振る。


「実は君たちにも捜索に加わってもらおうかと思ってねぇ。そのために今日はある物を渡そうとこうして直に呼んだわけ」


そう言って『1』番は丸まった新聞をゆび指す。


「広げてごらん?」


リンゴ、ハチミツが顔を見合わせるが一つずつ丸まった新聞を広げる。


「これは…………!」


中身を見たリンゴが『1』番の顔を見る。


「プレゼント。我らが『希望の一片(ピースメーカー)』からの君たち専用の『一片(ピース)』だ。ちなみに『希望の一片』からのメッセージは『使い方は君たちが一番知っているはず』だそうだ」


リンゴとハチミツが自分専用の『一片』をそれぞれ手にする。


「では改めて。君たちの久々のお仕事は幻惑者の捜索。見つけ次第殺してもいいけど心理的にも実力的にも難しいかな。最低でも胸部の破壊だけしてくれれば良いから」


「胸部の破壊?それはどういうことですか?」


「それは見ればわかるよ」


リンゴの質問をはぐらかし、『1』番はバーを出ていく。


「いってらっしゃい」


読んでいただきありがとうございました。

今回は、まあいいや。本編の補足を一つ。

「希望の一片(ピースメーカー)」という名前なんですが、このピースはPEACE(平和)の方ではなく、PIECE(かけら)の方です。パズルのピースと同じ意味ですね。「希望の一片」は……これについてはまたいずれ。

ここまで読んでいただいた方、ありがとうございました。

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