四人目続
12月25日。ライブ会場で佐藤と喜美を探す渉。
佐藤を発見するがその時………
放課後、渉と宗次はいつもの通り部室へ向かう。が、猿渡はまだ来ていないらしくやることがない。
「なあ、渉。鬼灯が言っていたクリスマスパーティって本当にあると思うか。それとも任務ってやつか」
「俺は任務だと思っている」
「やけに自信ありそうだな。なんか知ってるのか」
渉は昨日の夜、皆堂に聞いたことを宗次に話した。
「それでか。けどこのライブがそうなのか、確証はないんだろ?」
宗次が文谷からもらったチケットをヒラヒラさせる。
「その割りには昼間の鬼灯の様子がおかしかった。少なくともなにか関係があるのは確かだと思う」
「んー、クリスマスパーティってのも初耳だったしな。ま、これがただの勘違いだったらパーティには出れないって皆堂さんに謝ればいいしな。いや、茶化す気はないぜ?渉の友達はひいては俺たちの友達にもなるんだからな。俺も手伝うぜ」
「ありがとな。宗次がいれば心強いよ」
宗次を自分の勝手な行動に巻き込むのは気が引けたけど、もしもの事があった場合一人でできることは少ない。渉は宗次の提案を受け入れた。
今年最後の部活も終わり(猿渡が年末年始は実家に帰るため)、帰った後、渉は明日の準備をしようとしたが、こういう時何を準備すればいいかわからなかった。
何時間も迷ったあげく、結局は何も思い付かなかったので早めに寝ることにした。
翌日、12月25日。
この日は授業もなく終業式で退屈な時間を過ごし、ホームルームで連絡事項を聞き(といっても担任の大桃先生も生徒と一緒ですでに冬休み気分)、渉のクラスはどこよりも早く冬休みに入った。
まだ昼前だが、渉の中ではすでに一日近く経っているような、それくらい時間が経つのを遅く感じた。
「よーっし!じゃあ帰ったら昼飯食べて、そんで、学校前で集合な」
「そうですね、できれば各自でコンビニとかで食べ物飲み物買っておいた方がいいですよ」
有川、文谷が今日の事について言って、
「神山ー!ドタキャンはなしだぞー!」
校門前で有川が叫び、それぞれが一度家に帰る。
渉達も今日は部室に寄らず帰った。
「のう、鬼灯。らいぶってどんなとこなのじゃ」
「うん。私も行った事ないからあまりわかんないや」
金穂は鬼灯相手だと言葉使いが戻ってしまう。いつもは注意するけど、鬼灯は考え事をしているのか上の空な感じだ。
「そうか!鬼灯も行ったことがないのか!同じじゃな、オセロじゃ!」
「オセロ?」
「うん!オセロじゃ!」
「もしかしておそろ、じゃないか?」
「おお!それじゃ宗次!おそろ!おそろ!」
金穂は帰り道中ずっとおそろ!と言い続けた。
「あのシャツいいよな」
「どれ?」
「あの、前列の方の人たちが着てるやつ。スタッフのと似てるんだけどさぁどうやって手に入れるんだろうな」
「確かに気になりますね。チケット手にいれる際に調べた時にはあのTシャツはどこでも非売品扱いでしたよ」
「つか、この季節にTシャツ一枚って寒くないか」
「むしろ会場内は熱気で暑いくらいだと聞きましたが。所で水無瀬氏。背中のリュックには何が入ってるんですか」
「これは、あーほら、待ってる時とか寒いかと思って余分に着るもの持ってきてたんだ。そうかあ暑いんじゃ意味ないな」
宗次が笑って答える。ちなみにリュックの中身は衣類ではなく、飲料水のペットボトルを四本分、計八リットルの水だった。渉もここへ来る途中で「役に立つから飲むなよ」となぜかラムネのビンを渡された。
渉達は余裕をもって開場一時間前から並んでいるが、それでも列の真ん中より若干前の位置にいた。あと数分で開場ということで周りの興奮が高まっていくが、それと同じく渉の緊張も高まっていた。
鬼灯を見ると、有川に話しかけられて返す程度には会話に参加しているけど、これといって動きはない。まだその時じゃないのか、はたまた渉の勘違いなのか―
いや、勘違いじゃない。
予定の開場時間を少し過ぎて列が動き出す。列が動き出してからも時間が掛かったがやっと会場内に入る。
会場に入ったらさっそく自分達の席に向かう。
場所は会場案内図で見ると右ブロックの後ろの方と、正直ハズレに近い席だが、文谷によると、もうここ位しか空いてなかったそうだ。
けど、渉としては鬼灯が動き出す、又は自分から伊集院と佐藤を探しにいくのに都合がいい。
会場は二千人が入れるらしいが満席で、それ以上の人数がいるように感じられる。
やがて、時間が来たのか、会場が暗くなる。と、客席から歓声が上がると同時に舞台にスポットライトが一つ。
そこに人の姿はない。だが、声だけが聞こえてくる。
『みんな☆メリ―――――――クリスマス☆』
メリークリスマス!
『今日は12月25日、クリスマス………そんな聖夜の夜に降りてくるのはサンタ?それとも天使?いや、悪魔だって降りてきちゃうよ――☆☆☆』
その声は舞台の天上、そこから聞こえてきた。
現れたのは声の主、ハートロック。その姿は悪魔を連想させるような衣装で爪のグローブにドラゴンのような翼、更には尻尾までつけるこだわり。しかも、翼がちゃんとはためき、尻尾も動いているため本当に飛んでいるかのように見える。
着地すると同時に曲が流れ出す。曲名は『DRAGON TAIL』。まさに衣装に合わせた(この場合、曲に合わせたの方が正しいか)選曲だった。
歌が始まると有川はもちろん、それまで興味の無さそうだった占条と科学までもが立ち上がり盛り上がった。周りの客達も総立ちで、みんな怖いくらい熱っぽい目でハートロックの歌を聞いている。
『みぃーんな☆今日もノリノリでありがとう☆じゃあこの後はお☆待☆ち☆か☆ね☆トークの時間だよーーー☆けど、その前にブレイクターイム☆みんな、ちょっと待っててね☆』
その言葉で第一部が終わったことに気づく。
ライブ中、少しでも抜け出して探しにいこうと思ったけど、気づけば渉も雰囲気に飲まれていた。
「トイレなら急いでいった方がいいですよ」
と文谷の言葉に渉達もトイレに行くが、というか客のほとんどが既に動き出していた。
再び人混みが発生し、流れは大抵トイレに。渉、宗次、科学も一番近いトイレに並ぶが、中々順番が来ない。しばらくしてやっとトイレの入り口まで来た時、何人目か、またトイレから出てきたTシャツファンが通りすぎる。
!今のって………
「おい、どうした渉!」
「渉くん!せっかくここまで並んだのにどこにいくのかねー?」
宗次と科学が急に列を抜け走り出した渉に叫んだが、渉は聞こえていないかのように人混みに消えていった。
一瞬だけど、間違いない!今のは佐藤だ…!
佐藤だと気づいた瞬間には追いかけたと思ったのに、人が多いせいでもう姿が見えない。それでもなんとか佐藤の向かった方へ追いかけた。
段々と人の流れとは違う方向に向かっていた。どうやら座席に戻ったわけではないらしい。
「ここは………?」
やけに人気が少ない廊下で今では渉しかいない。これ以上先は立ち入り禁止で「STAFF ONLY」の看板が立てられていて先は暗い。周りにはファンどころかスタッフもいない。
「佐藤、佐藤!」
いないとわかっていても渉は叫んだ。
「土岐、野、か…………?」
「佐藤………」
まさか返事があるとは思わなかった。
佐藤はいないと思ったその先、立ち入り禁止側の廊下から歩いてきた。
感動の再会、のはずだが、佐藤は例のシャツだけでなく、頭には黒のハチマキ、さらに両手には派手なピンクの団扇を持っており格好はあまりにも似つかわしくなかった。
「こんなところで何してたんだよ!大体その格好はなんだよ!こっちはすげー心配したっていうのに…」
佐藤はそう言われぼんやりとした目で自分を見下ろす。
「なんじゃこりゃ!てかなんだこのオタク丸出しの格好は!!」
どちらかというとその格好が似合っている佐藤が大声で叫ぶ。
「佐藤!」
「土岐野か?ここは?っていうかあれっ?今何時だ………?」
「今は12月25日だ。お前は今まで行方不明だったんだよ」
佐藤に簡潔すぎるくらいに伝える。
「ゆく……?んなラノベ的な展開があるわけが………………」
否定しかけたが、そこで、佐藤は黙り込む。
「どうした」
「いや、よくよく思えばお前と今会う前に何してたかわかんね」
「だろ?お前と喜美は二ヶ月近く行方不明になってたんだ」
「二ヶ月!?そういや、12月って言ったな」
「そうだ、喜美は、伊集院はどこにいるんだよ」
「伊集院?いや、待ってくれよ俺は自分がどうなってるかもわかんねえのに。大体なんで行方不明になってんだよ」
「そっか……いや、それは話すと、長い。ていうか俺一人からは話せない」
二人は一緒にいると思ったんだけど、違ったみたいだ。
「渉お前一人か?それとも他に一緒に来たやつがいるのか?」
「あ、ああ。とりあえず佐藤だけでもそっちに行ってくれ。このチケットの席に行って鬼灯か宗次に俺の友達だって言ってくれ」
渉は佐藤に自分の半券を渡す。
「行けったって、お前は」
「この先に行ってみる。お前と同じように喜美がいるかもしれない」
「おいおい。わざわざ伊集院を探すために行くのかよ?」
「当たり前だろ!それに、他の行方不明者が喜美を見たかもしれない」
「他ってあと誰だ……?」
「わからない。けど、大勢って言ってた」
「マジでか………」
渉の言葉に佐藤が凍る。
「とにかく俺はこの先に行くから」
「待てよ。だったら俺も」
「おーい、そんなとこで何やってるんだ、トーク始まるぞ。さっさと準備を…」
「渉!」
佐藤と渉を挟んで両側から声がかかる。立ち入り禁止側からはTシャツを着たスタッフが二人。渉が来た方からは宗次と鬼灯が駆けてきた。
スタッフが渉と佐藤を見比べて渉に言う。
「すんませーん、スタッフ以外はこっからは立ち入りぎんっ……!」
言い切る前に鬼灯が割り込んできた。話しかけてきたスタッフを殴り飛ばす形で。
な、と渉が思う前にもう一人のスタッフが鬼灯に何かを投げつける。それを鬼灯は後ろに跳び、避ける。
鬼灯を外れたことにより廊下が削れ、破片が飛び散る。
「おわっ、ちょ、」
渉は佐藤を突き飛ばしつつも自分も伏せる。立ち上がろうとするが、渉が動き出す前にはスタッフが渉へと攻撃してきた。
「あぶない!」
渉の目の前で水が勢いよく弾ける。見事にずぶ濡れになるが、攻撃を受けずに済んだ。
カラン、と音のした方を見ると、宗次に渡された瓶が空になって落ちていた。
「渉君!今のうちに!」
鬼灯の声で止まっていた体を動かす。が、その時廊下からもう一人現れた。
「あれ、やだぁ☆この状況って何ー?」
この場にいてもおかしくないが似つかわしくない人物、ハートロックだった。
どうやら、この廊下は彼女の控え室と舞台を繋ぐ廊下だったらしい。
渉がまずい、と思う以上にこの場全体に更なる緊張感が広がる。
「あれぇ?私のファンの新人君じゃん?どしてここに?」
佐藤の方を見て可愛らしく首をかしげる。
「申し訳ありませんロック様。まさかここに来るとは思っていませんでした」
「どうやらこいつら、NPです」
スタッフがハートロックを様呼びをして、渉達からかばうように立ちふさがる。
「まさか………」
「もしかしたら、とは聞いていたけど。行方不明者はあなたのファン、そして拉致していたのは、ハートロックあなた自身」
「え?」
どうやら渉一人が状況に置いていかれているらしい。
「やだぁ☆拉致だなんて☆みんなあたしについてきてくれてるだけよ?現にそこの新人君だって今日のライブ来る?って聞いたら喜んできたんだから☆」
「ほんとかよ、佐藤」
「ごめん、土岐野。今思い出した。俺、この人に一生ついていくんだった。そう誓ったんだ」
佐藤がロックの方を熱っぽい見て言う。
「ほらね☆じゃあおいで佐藤くん☆あくあんずは、残ったNPのお子達の始末、お願いね☆」
「わっかりやした!」
「絶対トークショーに間に合うようにします!」
「よろしくね☆」
ロックが佐藤を引き連れ廊下の先へと進んでいく。渉も追いかけたいが、あくあんず、と呼ばれた二人が立ち塞がる。
「くっそ………佐藤!」
せっかく見つけたっていうのに!
「渉、落ち着け」
「でも………!」
「相手は水使いが二人だ。だったら俺に考えがある。俺が隙をつくるから鬼灯と一緒に後を追え!」
それを聞いた鬼灯が驚きあくあんずがあきれるように笑う。
「お前、さっきラムネのビンの水操ってたな」
「自分で水を作れないやつがでかい口を叩くな」
宗次はリュックを降ろし、ペットボトルを四本取り出す。
「たかだか八リットル程度の水で」
「話になんねえな」
「そんなのやってみなきゃわかんねえぜ?」
宗次は水を廊下に広げるように流していく。その間にもあくあんずは一人は槍のように水を構え、もう一人は水球をいくつか作り出す。
「先手いただき!」
「宗次君!」
「!!!!」
さっき廊下を砕いたであろう水槍が宗次に向かう。宗次は両手を交差させて顔をかばうが、
「無駄だ!腕ごと貫いてくれる!」
水槍が宗次の腕に当たる。
「な、に………?」
「何をしやがった?」
宗次は水槍に貫かれることなく立っていた。水槍は姿を失い、宗次の持ってきた水に混じる。
「やっぱりな。ぶっつけだから焦ったけど、成功したぜ」
宗次の能力は純粋精製。触った水をきれいにして、操ることができる。つまり、敵の水槍を触って無効化したのだ。だけでなく水の補充もやってのけた。
「今度はこっちだ!」
宗次は腕を振って水を操る。動きは鈍いが、水はカーテンのように隙間なく動く。
「これならどうだ」
水のカーテンは二つに別れ、それぞれが廊下に立て掛けてあるパイプイスを取り込み、あくあんずに向かっていく。
「ちっ、面倒な。はぜろ!」
今度は水球が宗次の操る水の前で爆発する。しかし、表面が波打つだけでそのまま向かっていく。
自分の攻撃が通らず油断したのか、動きの遅いパイプイス入りの水があくあんずに直撃した。
「くっ!」
「なんだこの水は!」
「今だ!」
宗次が叫び、先に動いたのは鬼灯だった。
「早く!」
渉も後を追いかける。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
週一更新目標ですが、学生的なアレがあったので、間が空きました。これからは時間があるのでできれば他のも載せられればと………。
以上です。ありがとうございました。