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四人目「キレイで、かわいくて、セクシー…………」

これが四話目にあたります。

季節は真逆の冬のお話です。特に冬は関係ないです。

『ハートロック』クリスマスライブ!!


ハートロック初のクリスマスライブ!!もちろん、今回も最後にロックのトークショーが行われる予定。果たして、聖夜に降りてくるのはサンタか、天使か―


チケット予約はこちらから↓




鬼灯(ほおずき)が登校しはじめて約二ヶ月―


最初の数日はクラスにギクシャクした雰囲気が流れたものの渉、金穂(かなほ)宗次(そうじ)が積極的に輪に囲むことで段々と鬼灯らしさが出てきて、前以上にクラスに溶け込んでいった。


部活動も(部室以外では訓練、とは言えないので)一ヶ月以上続けたらさすがにコツをつかんできた。訓練はそれぞれが自分に合った方法で超能力を鍛える事ができて、部室の壁にある謎の空間で行われている。


宗次の訓練は、水の入った金魚鉢と文字が彫られた黒い板を使ったもので、今まで文字を水で満たすだけかと思っていたが、さすが宗次と言うべきか、二日目に金魚鉢に入っている真珠が鍵だと気づき、水の中心に真珠をつかんで、そのまま文字を書き順通りに水を満たす事が達成条件だと気づいた。


宗次に言わせると、水で何かをつかんだまま操るのが難しいらしい。コツは真珠をペン先だと思って書く、というものだった。


訓練は一つ達成すると難易度が上がって同じようなのがまた出てくる。今では真珠が大きなあめ玉くらいあり、文字の画数もより多くなった。


愛風(あいかぜ)の訓練は、 自立浮遊するリングを三つ使った訓練で、達成するにはそのリングを足を一度も地面につけずにすべてくぐる、というものだった。そのためにはリングではなく、自分を能力の風で浮かし続けてくぐる必要があった。


一度それに気づいてからは愛風は楽しんで自分を浮かし、高い場所に浮かんだリングまで飛べるようになった。今ではスカートの下にジャージを履いて(スカートのまま飛ぶわけにはいかないので)訓練に励んでいる。多分、三人の中で一番上達が速い。


渉も上達しないわけではなかった。


渉の訓練は三つのボックスに入って、タライが落ちてこないボックスを予想するもので、そのためには用意されたベッドに横たわり、先にタライが落とされる未来予験(みらいよけん)をして避ける、というものだった。


渉は初日からその訓練内容に気づいていたが、なにせ未来予験するには意識を失う必要がある。その間に能力が発動するため、夢と同じようなものでその内容はほとんど覚えていなかった。


けれど、頭が禿()げる心配もしながらタライを落とされ続けるうちにようやく、起きても覚えていられるようになり、高い割合で達成できるようになった。そして、難易度の上がり方は能力発動時間、つまり意識を失う時間が短くなるのと、ボックスの数が増える事だった。更にそれだけじゃなく、失敗した場合、タライじゃなくてブリキのバケツが落ちてくるようになった。


こういったものは全て白い空間から涌き出るように用意されるが、未だにこの部屋(閉鎖空間って言うのだろうか)は謎が多い。


とまあこんな感じでこの二ヶ月過ごしてきた。


「訓練終了」


渉は今日の訓練を終えた。渉は同じ難易度の訓練を十回やってもできなかった場合はやめるようにしている。(というよりもそれ以上何かが頭の上から降ってくるのに耐えられない)


今日は三回目まで達成することができたな。


「修行終了」


渉が終えると、鬼灯も自分の訓練(鬼灯自身は修行と言っている)を終えたらしい。


「お疲れさま」


「うん、お疲れ。はあ、疲れた。今日は結構集中できたかなぁ」


鬼灯は軽く頬を上気させ額の汗をぬぐう。


「渉君はどうだった?」


「三回目までは行けたけど、また邪魔されてダメだった」


「また例の夢?」


「ああ、全然訓練の事と関係なさそうなんだ。内容が笑っちゃう話でさ。その、佐藤と再会した夢なんだけど、そいつがなんか派手なはっぴ、みたいなの着ててさ。雰囲気がぶち壊しというか」


最近、渉は訓練中に関係ない予験をすることが希にあった。


「そっか。でも再会できてよかったね」


「え?」


「ほら、渉君の夢は必ず現実になったじゃない?だからさ、きっとその夢も叶うんじゃないかな」


鬼灯は佐藤が渉の行方不明になった友達だという事を知っている。思ったより気にしてくれているのかもしれない。


「そうだよな。ありがと」


「い、いや別に。汗かいたからのど乾いちゃった」


鬼灯はこちらに背を向け持ち込んだスポーツドリンクを飲む。


鬼灯の訓練は動きが激しく、汗をかくので必ず飲み物持って動きやすい格好に着替えてくる。もう冬なのにまだ薄着であるため、つい目で追ってしまう。が、首を振り視線を外す。冬でも夏でもここの環境は安定していて、これもまたこの空間の不思議のひとつだ。。


スポーツドリンクを飲み干しこちらを向いた鬼灯に質問する。


「鬼灯、訓練って冬休みに入ったらどうなるんだ?」


「そういえばどうなるんだろ?夏休みの時は部室棟は解放されてたから同じだと思うけどでも冬休みは…」


「スト――ップ!」


さすがに鬼灯のつぶやきタイムのタイミングがわかってきて先回りして止められるようになった。


「は、ありがとう。これじゃ金穂ちゃんに癖を注意できないよね」


確かに、といって笑い合う。




鬼灯と愛風の着替えが終わり、みんなで喋りながら下校する。


こうしていると、渉はどうしてここにいるのか、時々、自分の目的を忘れそうになる。今の生活はそれほど充実していた。いつかここに、二人の親友を混ざって下校できる日が来て欲しいとそう思えるようになっていた。



風呂上がり。まだ寝るには早いと思って二階の共有フロアに行くと、渉と同じ考えの人達が思い思いにくつろいでいた。


そんな中に宗次と猿渡の姿もあった。渉は声をかけようとすると、後ろから服を引っ張られる感覚がした。


振り向くと、


坂上さかがみか。何か会うの久しぶりだな」


体半分を壁に隠して手だけを伸ばし、渉の服を掴んでいる坂上薫さかがみかおるだった。


坂上は部屋が渉の隣でここへ来た頃の渉と一緒で自分の能力が何だかいまいちわかっていないらしい。ちなみに小柄だが渉と同い年でもある。


「ちょっと来て」


と来た方の廊下に引っ込む。こそこそとしてるが、那加名(なかな)とはまた違う。


人がいないとこまで来て落ち着いたのかこっちを向く。坂上は自炊もしていて部屋にこもりっぱなしの事が多く、人と話すのが得意じゃない。


「話がある」


「ああ」


「………………」


「………………」


前にも似たことがあり、その時急かしたら結局話してくれなかった。なので、今回は辛抱強く待ってみる。


「………たしか、前、」


「前?」


なぜかムッとし、


「ここに来たての頃。話してた時」


「…あ、ああその時か」


「その時に言ってたよな。ここに来た理由」


……確か言ってた気がする。でも今はそれだけでここにいるわけではない。


「よく覚えてたな」


「っべ、別に覚えてたとかじゃなくて何となく引っ掛かっただけって言うか、大体あんまし聞けなかったし」


そこまで否定しなくても言いんじゃないのか?とは言えない。


「悪い悪い。そうだよな。あんまり聞きたい話でもなかったよな」


「いや、聞きたくなかったとは言ってないし………まあ………それより今皆堂が話していたんだけど。今まで探していた行方不明者が見つかったって。確か、お前が探してる二人っていうのも行方がわからないんじゃなかった?」


「ほんとなのかそれ!!佐藤と喜美が見つかったのか!?」


それを聞いた瞬間、渉は坂上の肩をつかんでしまった。坂上の肩が一瞬跳ね上がる


「触んな!!」


坂上が顔を真っ赤にして叫び即座に(はた)かれた。小さな体に似合わない力で叩かれ、思わず数歩下がる。


「あ、ごめん………」


なぜか坂上の方が渉に謝った。


「あ、いやこっちこそ急に肩つかんで悪い。それよりも今の話本当か」


「落ち着け。あくまで行方不明者を目撃情報だけでそれがお前の探してる二人とは限らない」


「………そうだよな」


でももしかしたら下校の時に考えてたことが思ってたより早く実現するかもしれない。


「ありがとな、坂上。ちょっと皆堂さんに会いにいってみる」


「あ、おい!」


坂上が何か言いかけたが、渉は聞かずにエレベータへと走った。



皆堂さんは忙しい人だけど、デスクワークだけは自室で(おこな)っている。


渉の読み通り、皆堂の部屋をノックすると、中から返事があった。


「皆堂さん!行方不明者が見つかったのって本当ですか!!」


「何だい急にっていうかどこからそれを!…まあちょうど良いかな。いずれ言うつもりだったし」


「じゃあもしかしてその中に」


「残念ながらそこまでは分かってないんだ。まだこれから調査や捜索するつもりだし」


「なら俺も手伝います!」


「……そのことだよ渉くん」


まるで待ってましたかのようにため息を一つ。


「渉くんを捜索のメンバーには加えられない。悪いけど、何て言わないよ」


当然、というか今までだって渉はこういった任務には一度無理矢理な形でしか行ったことしかない。


「けど俺なら行方不明になった人の顔がわかります。俺の学校には他にも」


「その事なら大丈夫。鬼灯くんにも捜索チームに入ってもらうから。佐藤くんと伊集院くん、その他学校関係者の行方不明者の事なら鬼灯くんが知ってるから。それとも渉くんは鬼灯くんを信じられないのかな?」


今の渉にその言葉を卑怯と言うことさえできなかった。誰から見ても渉を止めている、か、渉が捜索の役に立たないだろう事はわかる。


「気持ちはわかるけどね。だからこそ今まで捜索してきたプロのメンバーに任せて欲しいし、佐藤くんと伊集院くんを知っているに鬼灯くんもメンバーに加える。それに、一番心配なのがこの捜索に渉くんを加えたことで渉くんまで行方不明になったらミイラ取りがなんとやら、だしね」


「はい」


「実は今回の目撃場所から推定するに、かなりの人数が見つかると思うんだ。今回の事がうまくいけば来年までにはまた一緒に学校に通えるかもしれないよ?」


なんだか最後の方はだだをこねた子供をあやされているみたいな言い方をされてしまった。


渉はそこで皆堂の部屋を引き上げた。再び坂上のもとに戻り目撃された場所について聞いてみたが、坂上はこれ以上は知らないと自分の部屋に戻っていった。


渉も仕方なく自分の部屋に戻りベッドに入った。


明後日は12月25日。


渉はクリスマスプレゼントを待ちきれない子供のように眠れなかった。




次の日、渉は授業に集中できなかった。だが、授業に集中してなかったのは渉だけではない。今日は冬休み前最後の授業。だから渉がぼーっとしていても注意されることはなかった。


気がつけば、あっという間に昼休みだった。


囲む机の数も占条(せんじょう)居能(いのう)、宗次、金穂、そして鬼灯とこの二ヶ月でだいぶ増えた。


これも、今日が今年最後。そんなやりとりの中、


「そういえば文谷(ふみたに)さん、例のモノは」


「はい。もちろん入手してありますよ」


「せえぇぇぇぇんじょょぉぉぅくん!?また何か良からぬ事でも考えていないかね?」


「違いますよ科学さん。文谷さん、今持っているかしら?」


「もちろんです。今日渡すつもりでしたから」


文谷は占条に封筒を渡す。そしてついでとばかりに渉達にも一枚ずつ紙切れを配っていく。


渉が何かを確認する前に一番に声を上げたのは有川だった。


「これって『ハートロック』のクリスマスライブのチケットじゃん!」


その言葉に他に教室でお昼ごはんを食べていたクラスメート数人が反応し、有川に集まっていく。


「あ、本当だ!よく手に入ったな」


「いいな~、私は結局予約できなかったし。どうやって手にいれたの?」


「いや、文屋が今あたし達に、今配って」


「文谷さん。これはどういうことですか」


この騒ぎに占条が文谷に説明を求める。


「いや、これがですね占条さん。頼まれたのが一ヶ月前だったので正直厳しいだろうとあちこちに網を張ったんですが、以外にもあっさり手に入ってしまったので、こうなったら手に入るだけ手に入れてみようとした結果、まあ、情報屋魂ですね」


「……まあいいでしょ。さすがに席は連番ではないですね」


「はい。さすがにそこまでは無理でした」


「って文谷さん!すぐ後ろの席じゃないですか!」


「いやあ、まさかここまでうまく揃うとは思ってもみなくて」


「占条君、別にいいじゃないかみんながいても」


「だめです!せっかく二人きりでデートだと思っていたのにー!」


「いや、どちらにしても周りに人がいると思うんだが………?」


などと文谷達が騒ぐ中、


「へえ、これって結構人気があるんだな。渉は知ってたか?」


「え、ああ。名前くらいなら知ってるよ。曲までは聞いたことないけど」


「金穂は…て知ってるわけないか。鬼灯は」


知ってるか、と聞こうとしたけど、鬼灯はチケットを睨みつけて(つぶや)いていた。その表情はどこか焦っているような、何か言おうとしているかのようにも見えた。


「……まあまあ。と、聞いてませんでしたが、皆さん予定は大丈夫ですか?」


「あ?なに言ってんだ文屋。こんなんもらったら彼氏ほっぽりだしたって行くに決まってるぜ。……まあ、いないけど。ヤス子も行くよな」


「うん。私も特に予定なかったし大丈夫だと思うよ」


「神山は行くか?行くよな?行こうぜ」


有川が鬼灯に寄りかかると、やっと気づいたのか驚いて有川を見る。


「な、なに?」


「だから、行こうぜクリスマスライブ。一緒に!」


「………ごめん。この日はアパートの住人でクリスマスパーティやるから行けないんだ」


ちなみにアパート、とは、渉達が住んでいる場所の事。


なぜ渉と金穂が鬼灯を知っているのか、と以前文谷に聞かれた事がある。その時はなんとかごまかせたけど、再び聞かれた時、そう鬼灯が答えた。どうやら皆堂さんが鬼灯にごまかす設定を教えていたらしい。

渉、金穂、そして宗次の三人は鬼灯が暮らしているアパートに引っ越してきて、そこで知り合った、ということになったらしい。


アパートでクリスマスパーティ。


「なあ宗次。そんな話聞いてたか」


「ん?いや、俺も初めて聞いたぜ」


大人数の行方不明者が見つかると予想される目撃情報


任務には鬼灯を参加させ、来年には一緒に登校できるかもしれないと言う皆堂の言葉


チケットを睨みつぶやく鬼灯


鬼灯のいうクリスマスパーティ


渉の頭で言葉が繋がっていってある予想がひらめいた。


「え。べ、別にいいだろアパートのパーティなんてさ。学校の外まで欠席しなくていいんだぜ?」


「ううん。本当は私も行きたいんだけど、ほら今年は、土岐野君達が引っ越してきたから、大家さんが特別にやりたいんだって」


「変わった大家だなぁ」


「ごめんね。文谷君せっかくだけどこれ」


「いや、俺は行くよ。せっかくだし」


「!!!渉君!」


渉が行く、と言った瞬間の鬼灯の顔を見て渉の予想が確信に近づく。


「ごめん鬼灯。大家さんに伝えといて。宗次はどうする」


「俺か?あー、参ったな。……まあ、チケットを無駄にするのも何だしな。俺も行くよ」


「でも、」


「何、皆堂さんだって話せばわかるだろ?正月とかに祝ってもらえばいいさ」


宗次は気づいてないかもしれないが、鬼灯はやはり焦っている。


「なら神山も行こうぜ。祝う本人達がいないんじゃパーティの意味なんてないだろ」


「…………うん。そうだね。なら私も行こうかな」


「よっしゃ!じゃあ決まりだな!」


鬼灯が来るのは予想外だったけど、それでも予想は外れてないと思った。


「アパートの大家の名前はカイドウ、と」


そんな渉の心の中に関係なく文谷はメモをしているのであった。

続けてか、暇つぶしでか、は分かりませんが読んでいただきありがとうございます。

今回は前の話も関わってくるので一話目をね、えー、読みたくないと思いつつも一度読み返してから書いてます。

前回、あとがきに書いたとおりの内容でかけてると思いますが、せめて、今回くらいは主人公渉に活躍してもらいたいです。自信ない……

わざわざここまで読んでくれたから改めてありがとうございました。

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