三人目「……ていうのが一番イタいのよ」
今回で三人目(三話目)も終わりです。
てか主人公能力使ってなi……
「……神山の奴はどうした?」
確かに、神山という声が聞こえた。
渉のクラスがある教室から部室棟に向かうためには一度一階におり、校舎外の渡り廊下を歩かなければならない。部室棟へは靴に履き替えてからも行けるが、主に運動部の倉庫となっている部室棟には靴を置く場所はないため渉は渡り廊下を通って向かっている。
気のせいか、同じ名字の他人だろうとは思うけど、
「昼間の話が本当なら…」
今の声は鬼灯と喧嘩したという男子数人のうちの誰かの可能性が高い。すでに部活は始まっている時間のため、こんな移動するだけの場所に誰もいない。
渉は渡り廊下から相手に見えないようしゃがみながら覗き様子を見る。
どうやら男子が三人だろうか。部室棟と高等部校舎の間で話してるため、声がよく聞こえてくる。
「その前に他の奴等はどうした?なんで高松と新垣だけなんだ」
「………木下、お前が入院してる間に色々邪魔があったんだよ。それだけじゃない。ほとんどの奴らがお前が入院したあの騒ぎでビビっちまったんだよ。所詮、俺たちみたいな普通の人間が敵いっこないって」
どうやら最初に聞いた声の男子が入院していたらしい。だが渉はそれよりも気になることがあった。
俺たちみたいな普通の人間?
「…正直俺だってもう」
「っざけんな!裏切んのかよ!」
「しょうがねえだろ!明らかに手加減されてたじゃねえか。それをお前が下手に挑発するから…」
「だからムカついたんだろうが!女子だから甘くみてたがまさか手加減までされて。わざとカマかけたんだよ。そしたら案の定あの力だ」
二人が思い出して震えるのに対して一人が笑う。
「ぜってー潰してやる超能力者が」
渉はその言葉を聞いた瞬間、立ち上がってしまった。別になにするわけでもなかったが、座っていられなかった。
「あ、なんか用か」
無論、三人に渉は見つかる。
「これ以上鬼灯に嫌なことはさせない」
「あ?」
「おい、さっきの話聞いてたんじゃね?」
「今更この学校の生徒に聞かれたって問題ねえだろ」
高松と新垣が小声で話すが、
「“ほおずき”ってことはお前神山と親しいやつだよな。けどお前の事なんか俺は知らないぜ。どうなんだ?」
どうなんだ、が自分達に向けられていることに気づいた二人は慌てて渉を見る。
「言われてみれば見たことないな。あんだけ調べたのに」
「あ、こいつ三人同時に転校してきた一人だ」
目の前の三人は同じクラスじゃないけど、さすがに他のクラスにも知られているらしい。
「へー、ってことは学校の外で神山の事を知ってるってことだよな」
木下の言葉に渉までもがハッとする。
「お前、超能力者だろ」
時間が止まったかのような沈黙。が、その沈黙も木下の笑い声によってすぐに壊される。
「はっはっはっはっはっはっはっは、はぁ…………やれ」
その途端、渉は走り出した目指すは部室。と同時よりやや速く高松、新垣も渉を捕まえようと走り出す。部室棟は一応土足禁止だが今そんなことを気にするものはいない。
二人分の足音が渉を追いかける。
部室には階段を上がらなければならない。
渉が階段に足をかけた時、後ろから襟首を掴まれ引っ張られた。バランスをくずし、後頭部を勢いよく廊下にぶつけた。気絶するかと思ったが、目の前が一瞬白くなっただけだった。痛みを無視し立ち上がろうとするがそその時、胸を思いっきり踏まれる。踏まれて咳き込むが、体重をかけられうまく咳き込めない。
「まさか、カマかけのつもりで言ったことが本当になるなんてな」
声は渉たちに追い付いた木下のもの。
「カマ……かけ……?」
「ああ。俺が入院するきっかけにもなった言葉。『お前が無理ならお前の仲間から殺してやる』ってな。そしたら神山のやつ、キレやがった。ほんとはまだヒビが入ってるんだぜ」
ほら、と腕を上げる。特に包帯が巻かれているわけでもないしわかるわけがない。そんな事は木下もわかっているんだろう。
「でもまあこうなったらお前を人質にして他の連中も潰す。そうすりゃ不登校の神山も登校してくんだろ」
「するわけないじゃない」
そう答えたのは渉でも他二人でもない。
階段の上から見下ろす影が二つ。
「不知火………生徒会長様までそっち側かよ」
答えたのは不知火。そしてもう一つの影は、
「男しかいない状況で今の君はまるで陽の光のように輝いているよ、愛しの民」
不知火を褒め称える安司だった。
「それは本当の陽の光のせい。…にしてもまさか彼女がそんな安っぽい脅しを気にしてたなんて、神山さんも本当に……。まあ彼女らしいわね」
「まあまあ、鬼灯はそれだけ僕たちを大切にする優しい子だってことじゃないか。むしろ純粋なくらいだね」
「むしろっていうなら私たちを信じてないんじゃない?いくら私たちでもこの程度の連中にやられるほど弱くないわ。余計なお世話よ」
「……言ってくれるじゃねえか。ならそれ以上無駄口叩くようならこの人質を遠慮なく使わせてもらうぜ」
木下は渉の人差し指を両手で握る。指を折るつもりだろうか。渉がそれに気づく前に、
「安司君」
「さすが愛しの民。完璧だよ」
その二言で全てが終わった。不知火の言葉に返事をした安司は相変わらず彼女の傍に立っているが両手にあるものを持っていた。
それはつまり、右手には踏まれていた渉を、そして左手には渉を踏んでいた高松、そして新垣の二名を持っていた。
今この場を支配しているのは木下から完全に不知火、安司に移った。
「助けるのが女性なら口説き文句も出たのにね」
安司が言葉を発したことでそれぞれがようやく反応を取り戻す。
「うわ」
「え、ちょ」
「???」
といってもどれも要領を得ない反応だった。
「……んな、……っけ………っけんなっざけんなざけんな!」
木下が見上げ怒鳴る。
「殺す」
その一言を放ち、階段を登ってくる。安司が騎士のごとく前に出る。
「安司君、その二人をよろしく」
しかし不知火は、安司を退け、さらに安司の一歩前に出る。
「っ、オーケィ、愛しの。僕はいつだって君の言葉を信じて生きてきたよ」
安司は渉から手を離し、人二人を片手で掴んだまま、目にも止まらぬ速さで階段を登っていく。
尻餅をついた渉が目にしたのは終わりのない決着。
木下は階段を登り、最後の一段と同時に勢いをつけて不知火に殴りかかる。
一方不知火は避けようとも防ごうともしない。
木下の拳が不知火に当たる。が、不知火が倒れるどころか殴られた音も聞こえない。
チッと舌打ちし、再び殴る。殴る。殴る。殴る。
渉から見て、不知火の背中しか見えていないから当たっているのかどうかわからないが、木下の殴り続ける動作だけが続く。
やがて、木下が汗だくになって動きが鈍くなるがそれでも殴り続ける。息が切れ切れになりながらも睨み付け叫ぶ。
「くそ………なんで……なんで、当たらねえんだよ!」
その言葉に先程から殴られ続けているが余裕をもって不知火が答える。
「当たってるわよ。けれど私は痛くないし殴られた威力は届いてない。この際だからはっきりさせておきましょう。神山さんの事といい、今回の事といい、いい加減ウザいのよ。一体あなた達一般人が何様のつもり?」
不知火は一度言葉を切り、左手で木の下を突き飛ばす。階段の上で殴り疲れて油断していたのか木の下はあっさりと転げ落ちる。そして不知火は突き出した左手の制服の袖をめくり手首の部分を木下に突きつける。木下は何を見たのか、目を見開き怯むように後ずさる。
「わかる?あなたが殴っても殴っても傷つかない私が、そんな私を傷つけられるのは私自身だけ。この傷に触れることができるのも私だけ。つまり生きるも死ぬも私が自分で決めることができる。他のいかなるものも傷つけられない、私だけ。ましてやあなたごときにできる事はないのよ。
これが私の能力『不可侵処女』。
あなたがどうして私達を気に入らないか知らないけど、もし憧れの裏返しや興味本意だとしたら、迷惑よ。去りなさい。私達の前から」
そこまでをぼーっとした顔で聞いていた木下はゆっくりと立ち上がり何も言わず走り去っていった。
「立てる?」
「あ、はい」
今まで尻餅をついた体制でいた渉は不知火の手をかりて立ち上がる。その時、手首に走る三本の切り傷が見えた。
渉の視線に気づいた不知火は苦笑し右手で左手首をさする。
「昔の事なんだけどね。ちょっとやけになってた時期があってね。なんで生きてるんだろって。今まで何度も死にそうなことがあっても自分は決して死ぬことはなかった。ただ、周りの人間はそうじゃなかった。どうして私だけが、て考えてたのよ。色々やってみたのよ。飛び降りとか首吊りとか。でも死ぬこともなく、怪我することもなかった。この能力のお陰でね。だから私は自分の能力が大嫌いだった」
自嘲気味に笑い手首を見つめる。
「やっとうまくいきそうになったのがこれ。でも、結局は死ねなかった。流れる血を見てたらこんなことで死ぬのかって思ったらどうしても怖くなっちゃって。それでも諦められないというか半ば癖のように繰り返して。そして三度目の時に神山さんに発見されてね。あの時は彼女も自分の能力をコントロールできてないのに必死に私を助けようとして。……彼女のあの見えない力みたいので無理矢理私の能力を破って手首に包帯を巻いてくれて。包帯も血まみれでね、私の血だけじゃなかったと思う。気がついたときには彼女の手の方が真っ赤だった。多分指が折れてたんだと思うのよ。それからなぜか知らないけど二人で泣いてそれ以来、二度とこんなバカなことは止めようって決めた。
って何恥ずかしい事はなしてんのって感じなんだけど。さっきまで尻餅ついてた土岐野君もそこそこ情けなかったのでオアイコで」
渉が何も言わなかったので変にとったらしい。
「迷惑だった?もしかしてドン引き?」
「い、いえ、ただ俺なんかが聞いてよかった話なのかなって思って」
「愚痴みたいなものよ。昔の事だし」
その時、階段の上の方から悲鳴が聞こえてきた。
少し前、屋上。
「やめろ!降ろせ!降ろしてくれ!」
「いいのかい?今降ろしたらこの屋上から飛び降りるとイコールだよ?」
「ひっ」
「まあまあ、僕は女性以外はお姫様抱っこしないことにしてるんだ。だって野郎を抱っこしてもお姫様抱っこにならだからないだろ?だからこのまま跳んでみようか!せーの、ブーン!」
「「うあああぁぁぁ…」」
「どうやら安司くんも片付いたみたいね」
行きましょ、と部室へと向かう。
「そうだ。後から恩着せがましくなっちゃうけど、一つ頼まれてくれる?」
「緊張してる?」
「ううん。なんていうか、学校での私って多分渉君たちと話してる時とだいぶ態度とか雰囲気とか違うからどうしたらいいかわかんなくって」
「大丈夫!鬼灯はいつも鬼灯としてればいいのぉ!そうじゃそう、じゃ!今日は一緒に、えーと、らんちを食べるぞ」
「ありがと。でも金穂ちゃん、そのそうじゃって言うのは止めきゃだめだよ。普通の女の子はそうじゃ、なんて言わないんだから」
「ぬー。わかっておる、じゃなかった、わかってる」
不知火さんに頼まれたのは鬼灯を学校に連れてくることだった。いわく、「もう変な問題も解決できたし神山さんにも君たちの訓練を手伝ってほしい」とのこと。
渉ももちろんそうするつもりだった。帰った後、さっそく鬼灯が学校に行かなかった理由を知った経緯、学校であった事を話した。
原因は半分は正しく(もう半分は本当に任務優先のためだったらしい)、しかし理由は木下の脅しだけじゃなかった。鬼灯は鬼灯で自分の力不足で木下を入院させてしまったのを気にしていたらしい。らしいと言えばらしいがやはりいつまでも逃げていていいはずがない。
金穂や宗次にも協力してもらいなんとか説得して、さっそく次の日からこうして一緒に登校することになった。
「あれ、そう言えば鬼灯って二年生じゃなかったっけ?」
「え、ああ、それは確かに年は渉君たちより一つ上だけど学校は16歳過ぎてから通い始めたの。だから学年は一つ下にしてもらってるの」
てへへ、と照れ隠しのように笑う。
学校に着き、教室の前に来る。鬼灯は中々扉に手をかけようとしない。その姿が以前の自分と被ってしまって見えたので、その時、教室に中々入らなかった自分に親友にしてもらったように扉を開けて上げ、声を上げる。
「みんな、おはよう!」
三人目 了
今回も、(多分この話を読んでいるということは初見さんではないと思うので)読んでいただきありがとうございました。
ここで一区切りついたわけで、怖いのがこの後の展開がまだ決まっておらず(話はあっても順番が決まらず)、また投稿が……になりそうです。
まあ勝手に投稿しているだけなので読んでいる人がいなければただの独り言なんですが。
よし、多分次は渉の目的に近づくお話っていうことで(一話参照?)、という意味のない予告をしてと。
わざわざここまで読んでいただきありがとうございました。