三人目続2
サブタイのまんまです。
読まれる際には前のお話を読んでいただけたら幸いです(じゃないとわかんないです・・・)
「「「『訓練開始』!」」」
三人の声が同時に訓練開始を告げる。
その様子を金穂と同じくいつのまにか用意された椅子に座り猿渡と名加那が見学していた。
まずは宗次の訓練。
宗次の前に金魚鉢が現れた。その中は人魚の飾りに真珠ののった貝、そして水が並々と入っていた。肝心の金魚がいない以外変わった所はない。
変わっているのはその隣。分厚い黒い板のようなものが置かれていて、『水』と文字がくりぬかれいた。
「これは、………謎解きってやつか」
とりあえずといった感じで宗次は金魚鉢の水に触れる。宗次の超能力は水を操る能力で、自分の触れた水を清め、操ることができる。
考えるように腕を組むがすぐに止め、金魚鉢の水を操って『水』の文字に移す。
レベルアップの音が鳴るか、と思ったがいくら待っても変化がない。
「そんな簡単ではないか………としたら……」
宗次は一度水を戻し、しゃがみこんで金魚鉢をいろんな角度から眺め始めた。
次は愛風。
愛風も同じく詰まっているようだった。
愛風の訓練にはフラフープのような細く大きいリングが使われていた。そのリングは自立していてまるでレースゲームのチェックポイントみたいに三個のリングがバラバラに浮いていた。
愛風は恐る恐るといった感じで一つのリングをくぐる。くぐったリングは一度消えたかと思いきや、すぐに現れた。
「そういえば、風を全然使ってませんでした」
両手を合わせ肝心なことを言う。愛風は風を操る能力で本人はそんな自分の能力、風が好きだと言っていた。
「んー、くぐるのは当たりなんでしょうか?そうすると、」
愛風は風を起こし流れを作り始めた。
どうやら風でバラバラのリングを一つにまとめようとしているみたいだ。が、若干動くもののリングは抵抗するかのようにそれぞれの場所に留まる。
「んんん…………はあ」
愛風は顔が真っ赤になるまで頑張ってみたが、リングは一つも動かなかった。
そして、渉は、というと。
渉の前にはひとつのベッド、そしてベッドを挟んだ向こうにはガラスなのか、透明なボックスが愛風のリングと同じく三つ並んでいる。
「これは、どうしろと……?」
ベッドには毛布も枕もない。
とりあえず寝ればいいのか……?
とりあえず寝てみようかとベッドに腰掛けた瞬間、渉の意識は落ちていた。
何かの衝撃で目が覚める。
「痛ってー……何だったんだ?」
なにか夢っぽいものをみた気がするけど全く覚えていない。覚えてるとしたら起きる前に、頭に衝撃が走ったことだけだ。
「んー、超能力の訓練なんだから今の間に自分を能力を使ったのか…」
渉の能力はいわば予知能力なんだが自分の意識がない時に未来のことを視ているらしくいきなりであったりすると全然覚えていない。
もう一度ベッドに寝てみるが、眠くもならないし、意識もなくなる気配がしない。
「つまり一回きりってわけか」
とすると残ったのは三つのボックス。大きさは掃除用具のロッカーくらいで渉なら入れるだろう。そしてこの感じはバラエティーのテレビなんかでお馴染みのアレに非常に似ている気がする。
「さすがに気のせいだよな」
と、言いつつも右端のボックスに入ってみる。
中に入って閉めると開かなくなった。透明なので入っても猿渡たちがこっちを見てるのがわかる。
と次の瞬間、
「ごあっ」
頭に鈍い衝撃とバン!と薄い金属を叩いた音がした。渉の頭に落ちてきたそれは間違いなくタライだった。
「あっはっはっはっ…いや、まさかタライとはね。そのセンスはさすがにないなぁ」
「いや先輩笑っちゃ渉さんに悪いっすよ」
そういった猿渡も少し笑っていた。
「うぅ……痛そー」
名加那は思わず自分の頭をおさえつぶやく。
「いや、でもあれだね。土岐野君だっけ?彼はともかく愛風嬢ともう一人の方はコツさえつかめば簡単そうだね」
「そうすっね。自分のと似てる気がするっす。それを言ったら渉さんのは先輩のと同じ感じじゃないっすか?」
「どうせなら愛風嬢と同じになりたかったよ。しかしタライとは、くく、出来るようになるまで何回落とされるんだか」
渉が痛てー!と叫んで透明のボックスから出てくる。
「そういえばかなちゃんは訓練、しないのかい?」
「ひっ、わ、私ですか…………」
名加那は渉の方をみて首をブンブンと横に振った。
「あははは、まあそんなに怯えることはないよ。無理に訓練なんてしなくてもいいし。今日はこのまま一緒におしゃべりしてようか」
「あ、名加那さんを口説いてるといつかみたいに不知火先輩に『このロリコン!』って言われちゃいますよ」
「ふぅ、わかってないね猿渡。女性にロリもオバもないよ。あるのは美人か可愛いか、といっても!僕の周りの女性達はみんな美人か可愛いんだけどね!」
「そして先輩はモテモテっすね」
猿渡は慣れているのか決めポーズを取る安司に軽く合わす。
その後、「さすがに頭が痛い」と言った渉が最初に訓練を止め、宗次、愛風も訓練をうまくできずに終了した。訓練部屋から部室に戻ると、すでに外は暗くなりつつあり、下校時刻が迫っていた。帰る場所は全員同じなのでそれぞれの訓練の事や猿渡のアドバイスなどを聞きながら帰った。
帰った後は夕飯を食堂で食べ、自室に戻ろうとした時に自販機の前で鬼灯と会った。
「あ、渉君。今日初登校だったんだよね。どうだった?」
鬼灯も渉に気づき話しかけてきた。
「うん、まあ変わった連中が多かったけど」
担任とか。
「学校は楽しくやれそうかな。初日にしてはずいぶんフレンドリーだったし」
「そっか、転校して良かったね」
ふふ、となにか思い出したように笑う。
「あ、占条さんと居能君には気を付けてね。多分渉君や宗次君のこと、ESP研究会に勧誘してくると思うから」
「さっそく勧誘っていうかそれで一悶着あったよ」
そう聞いて再び鬼灯が笑う。
「あれ、鬼灯は今日学校でみなかったけど、どこにいたんだ?」
渉の疑問に鬼灯が笑ったまま止まる。
「え、あー……その、今日は休んだの。そう、えと、任務で。ごめんね一緒に行けなくて」
鬼灯が珍しくはっきりとしないしゃべり方をする。鬼灯と会ってからだいぶ経ったけど初対面の時と比べると、印象が全然変わったな。じゃなくて。
「そう言えば俺がこっち来てからも学校があるはずの時間とかにもいたよな」
思い出すと、平日の昼にみんなで一緒にお昼を食べていた気がする。
「それは、ほら私は任務優先にしてるんだ皆堂さんには話して納得してもらってるしだから学校は休みがちで決して行ってない訳じゃないんだよ!?そう言えば渉君自己探索部には行ったんでしょ。どうだった訓練?」
矢継ぎ早に言われて鬼灯が何を言ってるかほとんどわからなかったけど、最後だけ聞き取れたからとりあえず話題を変える。
「お、おう。……正直想像してたのと全然違う。宗次や風間さんはまだ訓練の内容がわからないらしい。俺の訓練は何をすればいいかわかるけど、間違えるとタライが降ってくるんだぜ?しかもまだ成功してないし」
「確かに、最初はちょっと戸惑うよね。けど必ず渉君のためになるはずだから諦めずに頑張ってね」
渉の話を聞いて落ち着いたのか、やはり猿渡と同じことを言う。
「猿渡もためになるっすって言ってたんだけどな。鬼灯はどんな訓練だったんだ?」
「私のはなんていうか、気合いで割る、みたいな?うん気合いっていうか私自身から出ている念、ていうか見えない力を使って動かしたり割ったりする訓練だったの。けどその時はあの赤い腕は出てこなかったしいま比べてみてもやっぱり力の作用の仕方とか効果が違う気が、けどあそこでは対人で訓練した訳じゃないしそもそも対人の訓練や特訓であの力は使わないように言われていたから……」
「あのー、鬼灯さーん」
鬼灯の思考の呟きが始まってしまった。こうなってしまうと今の渉では呼び戻せそうにない。
なので、鬼灯が持っているけどまだ冷えている缶を取って頬に当てる。
「ひゃあ!?」
鬼灯がびっくりした声を上げ背筋がピーン!となる。
「戻ってきた?」
「……うん、戻ってきた」
なんで、俺が意地悪したみたいになってるんだ。その後も他愛のない話をしていたら、気がついたら遅い時間になってたのでお互いお休みを言って部屋に戻った。
それから二日後―
もう定番となりつつある有川、高梨、文谷、それに占条と居能メンツに今日は金穂を加えて机を囲みお昼ご飯を食べていた。
「つまり旧家の出なんですね。教育も学校には通わず自宅で家庭教師に教わっていたと」
「そうじゃ。旧家では専門の教育を学んでいてこういう学校で学ぶようなことはあまり教わってなかったのぉ」
文谷の希望で金穂を呼んだが、案の定質問攻めにあっていた。
しかし、金穂も嫌な顔をせずどんどん答えていく。
「そうじゃ文谷。鬼灯を知らないかの」
言葉使いは段々と普通になってきてるが、“そうじゃ”と語尾の“の”がまだとれていない。
「ほおずき?」
「神山さんの事ですか」
金穂が鬼灯に対して聞くと急に気まずい雰囲気になる。それに気づいていないのか金穂が続ける。
「そうじゃ。てっきり学校でも会えるかと思ってたのに姿を全然見てないの!」
渉も気になっていた。昨日会った時本人に聞いてみたが話をはぐらされた気がする。
「神山さんは一応このクラスの人なんですが事件といいますか」
「文屋」
有川がくぎを刺すように文谷を睨む。
「さすがに自分も事が事だけにゴシップ扱いするつもりはないですよ。……さて、神山さんですが三週間前ですか、校内で喧嘩、それも手足が出る喧嘩をしてしまいまして、しかも男子数人相手に返り討ち。前々から武道の心得があるとは思ってましたが、今度は」
んん、と話が脱線する前に有川が咳払い。どうやら有川はみんなの仕切り役になるようだ。
「失敬。…で、男子数人を返り討ちにした際に一人病院送りにしてしまったのがまずかったのです。一応学校側としては事を大きくしないよう本人たちの話し合いで解決しようと思ったらしいんですが肝心の神山さんがその日以来登校して来ず、連絡も取れない状況らしく。そうなると必然、喧嘩した男子側からだけの証言となり、変な噂や混乱を招いてるわけです。男子側の言い分では神山さんの方から手を出した、との事ですが、はっきり言って情報を集めるまでもなくそれはないと思います。が、最初から見ていた生徒など他に目撃情報もないので男子たちが嘘を言ってると断定はできない状況です」
「「鬼灯はそんなことしない!!」」
渉と金穂の声がシンクロする。
「そうだな。神山はそんなやつじゃないと思ってる。あたしも詳しくは知らないけど、少なくとも神山から殴りかかったとは思えない」
「私もそうだと思う。神山さん、普段はおとなしいしやさしい所があるし。学校を休みがちだったからそんなに会ってないけど」
有川と高梨がそれぞれに意見を述べる。
「神山君は我がESP研究会に誘ってみたけどね。あいにく自己探索部に入っているというから思わず逃げ出してしまったが」
「ただ、それならなんで今も学校を休んでいるのかがあたしにはわからない。後ろ暗いことがないのなら学校に堂々と来ればいいものを」
「それはそうだけど……。もしかしてやりすぎたと思って学校に来れないんじゃないかな」
「そんなことで逃げ出すようには思えないんだけどね」
「別に逃げ出すとか、」
渉は金穂と目を合わす。さすがに金穂も分かっているらしく黙っている。渉たちには何となく心当たりがあるのだ。けどそれを言い出すこともできずにいると、
「そう言えばお二人は神山さんの事を知っているんですか。いや、親しいなら彼女が学校に行っていないのを知らないわけがないし…大体二人とも引っ越してきたばかりのはずでは?その辺、どうなんですか渉氏、屋敷氏?」
文谷に気づかれて欲しくない事に気づかれてしまった。金穂はあまりピンと来ていないらしく、かといって渉もうまい言い訳が思いつかない。
二人の沈黙に机に揃っているメンツの視線が集まる。
その時、都合よくも昼休み終了を告げる鐘が鳴る。
「ほら、早くっていうかもうお昼食べてる時間ないぞ!」
急ご急ご、みんなを急かす。文谷は納得がいかなそうにするが質問を止め、皆も机を片つける。偶然に拾われる形で何とかごまかせた。
放課後、担任の大桃先生に鬼灯の事を聞くと、「先生は待とうと思うの。神山さんは落ち着いたらきっと自分から学校に来ると思うし」と普段からは想像できない真面目な答えが返ってきた。渉や鬼灯の事を知ってるのか?とも思える発言だったが、「そのあれよ?生徒の自主性を尊重するという名の職務放棄!引きこもりの助長よ!ということで引きこもってくるわね」と言い残し去っていったため、結局知っているのかどうかわからなかった。
宗次と金穂は先に部室に向かったため、渉もいそいで廊下を移動する。
それほど複雑ではないといえ、まだ通って数日の学校ではどの道が近いのかわからない。とりあえず確実に知っている道をいそいで行くと、
どうも読んで頂きありがとうございます。
大体この物語はこんなペースで進んでいくと思います。
次で三人目終わりです。