里親~外の世界
ぼくエリンって言うんだ。
ぼくって言うからには、もちろんオス。
ぼくは、しなやかでスマートな、短毛で、金色の目をもつきりりとしたママから生まれた。
7匹兄弟の3番目。
その中にパパにもママにも似てない、毛がくるくるのまいてる子が2匹いた。
中でも一番活発でやんちゃな2匹は、怪獣~と呼ばれ、
2匹つるんで、いたずらざんまい、走り回っていた。
おかげで、ぼく達2匹はなかなか里親が決まらない。
とうとう、どっちかを選ぶって里親がやってきた。
第一声は、女の子希望・・・。
「この子かわいいね~」と抱っこされ、選ばれた。
え?ぼく?
まぁ、いいや~。
ぼくを選んだ、あなた、大好きだよ~・・・。
そして、現在生後60日、ママや兄弟と一緒に過ごす最後の夜となった。
明日からは、未体験ゾーンへ突入するのだった。
いつものように、ふやけた暖かいご飯を兄弟を押しのけて争って食べた。
いつものように、2匹の怪獣の探検がはじまる。
ママと一緒に、ぼくが抱っこされた。
家の中から出た事がないぼく。
あわただしく、ゴーゴーとうるさくて、動いてる。
安定できないぼく、大きな囲いの中で転げ回った。
ぼくは、必死で、プラスチックのつるつる滑る床に、爪を立てて、踏ん張っていた。
横にはママがいる。
いつもどこへ行っていたのか?
ぼくが一番最初に知ることができるんだ。
到着すると、そこは、広い広い砂場、芝生、雑草、石、いろんな匂い、
足元ばかり気になるぼく、すぐには歩きだせなかった。
一つ一つ気になることがありすぎて、目うつりする。
ママを見ると、広い広い砂場にある、いろんな障害物を楽しそうにこなしていた。
へぇ~・・・楽しそうだな~・・・
ぼくも、うれしくなってママと一緒に走り回ってみた。
気持ちばかり浮足立って、うまく体がついてこない。
数歩走っては、すっころんだ。
それでもなんだか、外の世界とっても楽しい。
しっぽがぴーんと立ってて、大きな耳、足が短くて、妙~に胴が長くて、
こげ茶の毛が、僕の匂いを嗅ぎまくった。
どうしていいかわからなくて、固まってるぼく。
ぼくも、匂いを確認したかった。真似してみたら、
怖い目をして、ぼくを鼻で、突き飛ばして、
僕の上から睨みつけられた。
100年はやいんだって。
のちに信頼のおけるあずみ姉たんになるのだ。
お腹を出して、固まってるぼくの目の前で、
横っ跳びを連発して、
『ほら、固まってないで、起きて、遊びましょ~』って誘ってくれた。
ぼく、いつまでも落ち込んでる性格じゃないんだ~。
おぼつかない足で地面をけった。
30分くらい遊んだかな・・・ぼくは抱っこされると、
来た時と違う音と匂いのする小さなプラスチックに入れられて、それは動き出した。
爪を立てて、踏ん張ってたぼくだけど、
楽しい夢の中に落ちていった。
どれくらいたっただろうか、
目がさめれば、用をもよをすのが習慣のぼく、
どうしよう~・・・だれか気付いて・・・
どこですればいいの?
かりかり、プラスチックをひっかいて、出ることを試みた。
が、何も変わらなかった。
うるさいエンジン音よりもさらに大きな声で、吠えてみた。
『ここから出して。』
聞こえてないのか、気付いてないのか?
もう限界だ・・・。ぼくはもう甲高い叫び声になっていた。
『もう出ちゃうよ・・・いいの?』
帰ってきた言葉は、「うるさいよ・・・もうちょとだから」
我慢できるはずもなく、プラスチックの中でうんちまみれになっていた。
やっと止まったエンジン音
扉が開くと、いちもくさんに外に飛び出した。
怒られることもなく、僕は体をきれいに吹いてもらい、きれいになったプラスチックに入れられた。
休憩に立ち寄ったサービスエリア
首輪ってのをつけて、ぼくは、外に出た。
初めての匂い、たくさんの車、人間、硬い石の塊ぼくは、完全に固まっていた。
すると、あずみ姉たんが、そっと僕の顔をなめて、
『大丈夫、こっちだよ、ついといで』
ぼくは、おぼつかない足で、必死に歩いた。
草むらに到着すると、
ぼくは、とにかく、あずみ姉たんの真似をすることにした。
あずみ姉たんの匂いを嗅いでると、同じように匂いを確認、
ちっこをしたら、同じようにちっこをした。
穴を掘ったら、同じように穴を掘り、
草むらに入って見えなくなったら、同じように草むらに顔を突っ込んだ。
一通りすることが終わると、また姉たんの横っ跳びがはじまり、
一緒に遊んだ。
こんなことを何回か繰り返し、やっとぼくがこれから暮らす家に到着した。
「今日は疲れてるから、もう寝なさい」って広いお家に入った。
そこには、もう2匹、尻尾はないけど、胴が長くて、耳がでっかく、足の短いのがいた。
2匹はぼくの匂いを嗅ぎまくり、『しんまいかい、この家の子になるの?よろしくね』と
言われた。
上は9歳のどうどうとした風格の長老ココ、あずみ姉たんの母ぽっきぃ6歳。
ぼくの大きさはまだコーギー達の半分くらい。
ぼくは、まもなく、深い眠りに落ちた。
朝ご飯はみんな一緒に一匹づつお皿がある。ぼくのもあった。
昨日から何も食べてないぼくは、腹ペコ。
いちもくさんに食べきり、まだ食べてる姉たんの所へ、ちょっと味見させてもらいに行ったら
歯をむき出して恐ろしい形相で唸る姉たんに、ぼくは飛び跳ねてひっくり返った。
他のお皿に顔を突っ込んで食べてはいけないと学習した瞬間だった。
トイレも姉たんの真似をした。
それでもうまく出来ないと、長老がぼくの目の前でこうやるのよって、見本を見せてくれた。
だから、朝のトイレタイムは4匹一緒にトイレの周りをうろうろ、
混雑、混雑、で、ぼくはいい場所を発見した。
パパさんの読んでる新聞さ~・・・ぼく、ここでもしたことあるよ、とっても褒められた。
だから、パパさんにも褒めてもらいたくて、目の前でほら~って、して見せた。
途端に、「あぁ~」「こら~」って叫び声・・どうやら、まずかったらしい。
食後の水のみタイムもどうやら、順番が決まってるらしく、
長老、次は母、そして、姉たん・・・オレも喉がからっからだ。
待ちきれなくて、姉たんの飲んでる横に口を突っ込んだ。
あれ?怒らないんだ~・・・
水だと、長老も母も一緒に飲むのはOKだった。
僕と遊んでくれるのは、もっぱら、姉たんだ。
ロープを持ってきて、ぼくを誘い、口にくわえると、少し力を加減してひっぱてくれる。
なかなかボールキャッチできないぼくに、ママさんはパンから始め
少しずつキャッチできるようになると、
だんだん小さくて、硬いものに、そして、とうとうボールをキャッチできるようになった。
転がるボールを取りに行き、持ってくるって事も、
長老や姉たんがやってる事を真似して覚えたぼく。
見た目やさしいお顔のぼくは、誰に会っても、かわいい女の子~と言われ、なでられた。
おかげで、「かわいい~」と言われると、口がゆるみっぱなしのぼく。
4か月にもなると、足も伸びて、長老達をまたげるようになってきたぼく。
態度もだんだんLに、大胆になり、パワフルなぼくと遊んでくれるのは姉たんだけになった。
さすがに、ご飯は他の皿には手は出さない。
が、水は、大きな口になった僕が顔を突っ込むと、みんな譲ってくれる。
なので、おかまいなし、遠慮なしで水を飲むのさ。
ある日、気付いた事がある。
長老や、母や姉たんはママさんのベッドで一緒に寝ることを許されてる。
ぼくは、乗ることさえ許されない。なんで・・・かな?
ぼく、早くママさんと一緒にベッドで寝たいなぁ~・・・。
予防接種もわけもわからず、あっという間に終了し、
庭から、グランドや姉たんの、練習に同行するようになったぼく。
ぼくのトレーニングも始まった。