王の反抗
「ハァ、アポロン様は今日も麗しい……」
物陰から恍惚の表情を浮かべている男の名はアーサー。部隊のエースとも呼ばれている人物である。部下には絶対に見せない顔を王、アポロンに向けている。
「アーサー、アーサーってば」
「おわっ、何だお前か。気配を感じなかったぞ」
眼鏡をかけた白衣の男は周 諭史郎。通称、周瑜(シューユ、古の物語、三国志より)
「やあ、アーサー。今日も楽しそうだね」
「ああ。今日はアポロン様とすれ違って、挨拶までして頂けたからな!」
(アーサーは能天気で羨ましいな)
「ていうか、アーサー、特命見てないの?」
「何だ、それは」
「僕に来てるくらいだから、アーサーにも来てると思ったんだけど」
「来てる? どこに?」
「軍用端末のメールボックス」
「端末? ああ、これか」
アーサーは胸ポケットの中から薄い端末を取り出す。
「ええっと、メールボックスは」
「おいおい、何でメールボックスを探すのにも戸惑っているのさ」
「使っていないからな」
周瑜はクソデカため息を吐いた。
「全く、これでアポロン軍の次期エースパイロットとか……」
士官学校時代からの友人であるアーサーは、体力や実戦は強いが、機械方面では落第スレスレだったなと思い出した。
「ちょっと、貸して」
見兼ねた周瑜はアーサーの端末を引ったくると、一瞬でメールボックスまで辿り着いて、再度クソデカため息を吐いた。
「通知が千件溜まってるとか、どんだけだよ」
まあ端末を見なくても、朝礼や他の奴に聞けば何とかなるか。これだから脳筋は。
「ほら、これ読んでみて」
周瑜は「特命」メッセージを開いてやる。
通常、個人宛のメッセージ、特に今回のような重要なものは本人にしか開けられないような二重ロックがかかっている。しかし、技術室室長の周瑜にかかれば、端末のロックを解除するのは可能だ。しかも以前、アーサーがパスワードを忘れた時の再発行も周瑜が行ったので、こんなものは一瞬である。
「すまないな。……ええっと、差出人は、アポロン様!」
「あのさ、特命の意味分かってる?」
「ああ、そうだった」
「とりあえず僕の部屋来なよ」
「ああ」
周瑜がアーサーにメールの内容を説明する。
周瑜の部屋は特殊な防音機能が施されているため、誰かに盗聴される恐れはなかった。
「アポロン様が私のためだけに……。ぐふふ」
「いや、僕にも来てるから」
「何故?」
「知らないよ。……それに、多分、僕達だけじゃない」
「どういうことだ」
「ここにマークがあるだろ」
「ああ」
「これは恐らくトランプ、僕のがクラブで、アーサーのがスペード」
「他にハートとダイヤがいる訳か。何故、私がハートではないのだ!」
「さあ、アポロン様には何かお考えがあるとは思うけど」
アーサーと周瑜はアポロンからのメールに書いてあった日時、場所に向かった。
「へえ、これは驚いた」
「おい、どっちがハートだ!」
「すみませんね、先輩。ハートを頂いたのは俺です」
いきなりのケンカ腰のアーサーに苦笑しながら答える。
オルフェウス・アップル。
アーサーの士官学校時代の後輩。ナンパ男。
「お前は誰彼構わず女性を口説くことが趣味だろう。私はアポロン様一筋だ! アポロン様のために純潔を守ってきたのだぞ!」
「先輩まだ童貞なんですか~」
「うるさい! 私の初めてはアポロン様に捧ぐのだ!」
オルフェウスはケラケラ笑っている。
「………………」
周瑜の興味は仮面を付けフードを被り、無言を貫いている者に注がれていた。
「ということは、あなたがダイヤですか?」
彼は首を振る。
周瑜は、未だ一言も発しない者の正体の目星は付いていた。
「そうですか」
軍内において、周瑜ほど情報通なものはいない。
しかし、それは表側での話。
「あなたは隠密部隊の代表ですか?」
恐らく、存在すらもごく限られたものしか知らないだろう。
アポロン軍内の隠密・内部監査、月国に対しての諜報部隊。
構成員の数、実際の任務、待遇など全ては謎。
しかし、エース級パイロット、司令官、技術部室長が揃っているとなれば、残りの人選もいくらか予想は付く。
まさか、普通に目の前に現れてくれるとは思わなかったが。
「集まったようだな」
輝くばかりのオレンジと赤の髪、優雅な王族の服を纏った美しい男性が現れた。
「アポロン様!」
アーサーを始め、皆が敬礼の姿勢を取る。
「前置きはいい。皆にお願いがある」
アポロンの次の言葉に、皆、一様に驚いた。
「クーデターを起こしてほしい」
アーサー、周瑜、仮面の謎の男、そしてアポロンが出てきましたね。
トランプにちなんだ部隊名がそれぞれ付けられるのですが、それはまた先の話。




