ルナ
月国、天空基地・ラピュータ。
ウィルは、戦闘時以外は月陣営基地内の何処かを寝所にしている。
ベッドはふかふかで傭兵時代とは比べ物にならない待遇の差だ。
朝は大体6時半頃には目覚めるが、その日は何もないこともあって9時頃まで眠っていた。
「おはよう」
「――――――っ」
自分の寝所に誰かが忍び込んでいた気配を感じたウィルは、声にならない叫びを上げて、瞬時に臨戦態勢を取った。
メイド服を着た小さな女子だった。
「な、お、お前は誰だ?」
「私はルナ。ウィルと前に一回、会ってる。アトランティスで」
出会いを思い出せなかった。
「ルナ? ええと、所属は?」
「しょぞく? なぁに、それ」
「上官は誰だ?」
「じょう、かん?」
何も分からないので、ウィルは諦めた。
何もない日はトレーニングをすることが日課になっている。
なので、着替えてトレーニング室に向かった。
不思議な少女も付いて来る。
トレーニング室には先客がいた。
「今日は遅かったな」
ガルーダがベンチプレスを上げながら、話しかけてくる。
「休みの日だろう。お前もトレーニングか」
「ああ、ディアナ様のために、もっと強くならねば」
「とれーにんぐ?」
「あ、ああああ、ルナ様あ!」
ウィルの後ろから、ひょっこり顔を出した少女を見たガルーダが奇声を上げた。
「ルナ様、こいつに様呼び?」
「おいいい、こいつ呼びだとう! 訂正しろ!」
「どういうことだ?」
「この御方はディアナ様の妹君だぞ。頭を下げろ」
「妹? ディアナの?」
「だーかーらー、様を付けろと、何度も!」
「ルナ、君は何故、俺の部屋にいた?」
「ん? ウィルと遊びたかったから」
「俺とか? 俺と遊んでもつまらないぞ」
「そんなことない。姉様、ウィルが来てから機嫌がいい」
「お、俺は、俺が来た時は、どうでしたか?」
「う~ん、普通?」
「ふ、ふつう……?」
ガルーダがくらりと倒れる。
「ウィル、お外に出て遊びに行こう」
「外に?」
そういえば、休日も基地内で過ごしているので、ラピュータの外を見たことはなかった。
「お、お出かけなら、俺もお供しましょう! ウィルだけでは不安なので!」
「好きにしていいよ」
「はい!」
天空浮遊基地・ラピュータは月国領土内を自由に飛んでいる。
今日はフリードが治めるナポリの上空を飛んでいた。
下に降りる際は移動魔法を使う。
ルナが移動魔法で下に降ろしてくれる。
降りる前にガルーダが言った。
「変装をしていった方がいいでしょう」
「変装?」
「ああ、ルナ様や俺は有名人だからな。お前も最近の武勲のお陰で少しは知られているだろう」
という訳で、ウィル達は帽子や眼鏡を用いて変装をし、降りて行った。
「では、何処へ行きましょうか?」
「あれ、食べたーい」
ルナはピザの店を指差している。
「ピザですか、いいですねえ! ナポリで食うピザは本場の味ですし」
三人でピザを食べる。
「トゥイッター用の写真、撮る」
「ええ、ええ。この角度からですと、ルナ様の可愛さが増すかと」
「ありがと」
「トゥイッター?」
「知らないのか。流行遅れだな。自分の好きなことを呟けるアプリだ。写真なんかを付けてもいいぞ。ちなみに、これが俺のアカウントだ」
ガルーダの呟きはディアナ教信者のそれだった。
「別に、俺はいい」
「そうか」
「フリード様!」
「フリード様、万歳!」
街の人々が騒がしかった。
「フリード?」
「ここナポリの領主だ。視察にでも来たのだろう」
「視察?」
フリードは孤児院を回っているようだった。食糧や物資を届けている。
「わ~。フリード~」
ルナがフリードに駆け寄っていく。懐いている。
「良い領主なんだな」
「ああ」
「お前が素直に認めるのは珍しいな」
「フリードさんは俺をディアナ様に紹介してくれた人だ」
「恩人か」
「そういうことになる」
「ナポリは俺の故郷だ。美味いスイーツの店に案内してやる」
「わ~い、スイーツ!」
ガルーダが連れて行ったのはジェラートの店だった。
「何だ、これは?」
「冷たくて甘いぞ。何味にする?」
「私はチョコとストロベリー」
「おお、良い選択ですね」
「俺は……」
「何を迷っている。そんなものくらい、さっさと決めろ」
「じゃあ、この緑のを」
「抹茶か、渋いな」
「マッチャ?」
ウィルは店主から抹茶のジェラートを受け取る。
「食ってみろ」
「~~っ」
「美味しいだろう?」
「あ、ああ」
ジェラートを食べ終え、そろそろ帰るかという頃だった。
強風が吹き、ルナの帽子が飛ばされる。
「あっ、ルナ様だ!」
「ルナ様~!」
一瞬で野次馬が集まってきて、ルナが取り囲まれる。
「お、おい、離れろ!」
ガルーダの声は無視され、ルナの周りには人だかりが形成される。
「♪~~~~~~~」
ルナが歌い出すと、周りの人々は聴き惚れている。
「良い歌だな」
「当たり前だ、ルナ様は歌姫だぞ」
何曲か歌い終わると「じゃ」と言って人混みを掻き分け、ウィル達の元へ戻って来る。
「良い歌だった」
「ありがと」
こうして、ウィル達の休日は終わった。
歌姫ルナとの出会いです。
ルナも戦うのでしょうか。




