ラヴクラフト
月陣営、天空基地・ラピュータ。錬金術研究室。
ウィル、ガルーダ、光明、潤子は、とある人物に召集されていた。
「こんばんは、皆さん。私の名前はラヴクラフト。錬金術師であり貴族でも、チェリストでもある。初めましての方は初めまして」
「初めまして……」
返事をした潤子に、にこぅりと笑みを見せ、続ける。
「今回は私の実験の成果をお見せしに参りました」
ラヴクラフトの部下らしき男二人が、人が入る程の箱を持ってきた。
「では、オープン!」
箱を開けると、鎖に繋がれた狼が入っていた。
「こちらはキメラ改のオオカミ君です。以前、ウィル君に回収してもらった遺体に賢者の石を埋め込んで、更に強力にしました」
「賢者の石?」
「ああ、知りませんか? 我々、錬金術師が作る目標のようなものです。今まで、これを作れたのは私しかおりません!」
芝居がかかった口調のラヴクラフトを、ポカンと見つめる4人。
「はい、ここ拍手するところですよ」
潤子だけが素直に拍手をする。
「はい、ありがとうございます」
「で、このオオカミ君は、どないするんや?」
「勿論、うちの戦力にするんですよ。次の戦場に投入です」
「ちゃんと制御は出来るんやろな」
「ええ、勿論ですよ。……それと今日はもう一つ見せたいものがあるのです!」
「何や?」
「少し移動します。付いて来て下さい」
研究室の奥の方は空間が広がっていた。その中央には、ずんぐりとした大きな鉄の塊があった。
「ゴーレムと言います。これは賢者の石を動力源にしており、中に錬金術師を乗せて出撃させます。太陽軍のNAと違って、電力エネルギーを必要としません。エコロジーです」
「これを俺達に見せても意味がないだろうが」
ガルーダがイライラしながら言う。
「まあ、言ってしまえば、ただの自慢ですかねぇ。こんな素晴らしいものを作ってしまったという」
「やっぱラヴさん、ええ性格してはるわ」
「ふふ。お褒め頂き光栄です」
次の戦いはビューイン砂漠の取得権を巡るものとなった。
先発隊にはミーナ率いるゴーレムに乗った部隊、後方にシンドバッド大佐の部隊が控えている。キメラの狼部隊もシンドバッド大佐の艦の中にいる。
ミーナは操縦席から戦場を見ていた。
「これでNAとも互角に戦える!」
ミーナの背後にはゴーレムと繋がっている管が見えていた。
月陣営に対するは、太陽軍アポロンズ・ハート。
「何だ、あの鉄の塊は? 土偶?」
「ゴーレムだ」
「おわっ、ジーク君、いきなり現れないでよ。……ゴーレム?」
「錬金術師が中に乗って操作をしている。NAに対抗するために作られた」
「エルフィン、聞いたか?」
「はい、聞こえていますよ」
「とりあえず、あのゴーレムとかいう奴を叩く」
「分かりました」
エルフィンは隊列を組みながら、ゴーレムに向かう。
前回、トリッカー部隊は壊滅したが、すぐに補充された。
(もう同じ失敗は繰り返さない……!)
ゴーレム操縦席、ミーナは錬成陣の描かれたボタンを押す。
すると、ゴーレムの口から炎が発射される。
「へえ、こういう感じになってるのね。便利便利」
賢者の石が光り、ミーナの後ろの管から「何か」が通っていく。
すると、ミーナは疲労を感じた。
「何、これ……?」
ゴーレムは生命力を奪っていった。
「あの中にミーナが乗ってるのか⁉」
「ええ、そうですよ」
シンドバッドの艦にはゴーレムの成果を間近で見るため、ラヴクラフトも搭乗している。
「動力は賢者の石と錬金術師の生命力!」
「それはミーナも納得したのか?」
「いえ、彼女達には賢者の石が動力源としか伝えていません。自分の生命が削られるものに乗りたくはありませんでしょう?」
「貴様っ!」
シンドバッドがラヴクラフトの首根っこを掴む。
「おや、上官に背くつもりですか」
シンドバッドはラヴクラフトから手を放す。
「どうせ彼女クラスの錬金術師は腐る程います。何人かいなくなっても、また新しいのを補充すれば良いでしょう」
「クソッ」
シンドバッドはもうラヴクラフトとは話したくないという風に、彼から離れる。
「このままでは中の人間を食い潰すぞ」
エルフィンのトリッカー部隊とミーナのゴーレム隊は、若干ゴーレム隊が優勢になっているように見えた。暫くはマニュアル通りの動きを見せていたゴーレム隊だが、いつからか不安定な動きをするようになった。獣のような動きといえばいいのだろうか、とても中で人が操縦しているようには思えない。
シンドバッドは艦の通信室にいた。
「そちらの艦長、聞こえているだろうか。こちらはディアナ軍東方司令部大佐、シンドバッドという」
「はいはい、聞こえてますよ。こっちはアポロンズ・ハート艦長のオルフェウス」
「オルフェウス殿。……あれを止めてほしい」
「こちらのメリットは? あんな暴走土偶に突っ込んで、こっちも被害は出したくないんでね」
「今後そちらの助けが必要な時に、密かに協力をしよう」
(月の軍に対する大義とか、そんなものは最初から持っていない。可愛い妹弟子を救うためなら敵に寝返ってもいい)
「分かった、善処しましょう」
「エルフィン、あの暴走土偶を倒せるか?」
「今やってますけど、動きが読めなくて……」
「何処かに弱点があるんじゃないか?」
「でしたら、分かりやすいのは頭に埋まっている賢者の石ですね。あれを壊せれば、もしかしたら」
「では、トリッカー部隊、エルフィンを援護だ!」
「「「了解!」」」
トリッカー部隊は旋回し、ゴーレムをエルフィンの射程圏内に誘導する。
エルフィンはビームライフルを構え、ゴーレムの頭を狙い撃つ!
賢者の石にヒビが入り、砕ける。
すると、ゴーレムの動きが止まった。
ミーナが目覚めると、病室だった。
「ミーナ隊長!」
部下の一人・ヒデキが抱き着いてくる。
「ちょ、どうしたのよ」
そこで聞かされた。
ミーナの部下がヒデキ以外、全滅したということ。
「う、嘘よ、そんなの……」
「本当です。ゴーレムに乗っていた皆さんは亡くなりました」
「そんな、どうして……」
「僕には分かりません」
ヒデキは当時、怪我で部隊の編成から外れていた。
「何で私だけ生き残ったのよ!」
(悔しい。部下を看取ってあげられなかった自分が)
ラヴクラフトの部屋。
「今回は失敗でした」
ホルマリン漬けにされた不気味な生物に囲まれた中で、彼は一人呟いた。
この頃はまだミステリアスな雰囲気を纏っていたラヴさん。
何故あんなことになってしまったのか。




