第四話
「この店で食事しよう」
王都の街に着いたのは昼食に近い時間だったため、散策の前にお腹を満たそうということになった。
ダニエルは迷うことなく店を選んで中に入ると、席に着くなり慣れたように注文し始めた。
(このお店って……)
私は周りを見回し、他の客を伺った。
ほとんどが女性客で、男性客はダニエルを含めても四、五人といったところか。
それも皆、女性同伴の人ばかりだ。
外観や内装からしても、女性が好みそうな店であることは確かだった。
(もしかして……私のために事前にいろいろ調べてくれたの?)
私は対面に座っているダニエルに視線を向けた。
ダニエルは窓の外に目を向け、どこか忙しなく行き交う人々をぼんやりと眺めていた。
「素敵なお店ですね」
ダニエルが初めて自分から選び、連れてきてくれたことに、私は舞い上がっていた。
「ああ、友人に教えてもらったのだよ」
「そうでしたか。その方も、婚約者様とご一緒に来られたのですか?」
きっと婚約者の反応がよかったからと勧められて、私を連れてきてくれたのだろう。
「いや? 彼女に婚約者はいない」
「え……彼女?」
男性だとばかり思い込んでいたから、思わず聞き返してしまった。
ダニエルは窓の外に向けていた視線を私に移すと、今日のワンピースと同色の瞳を細めた。
「学園に通っているのだから、性別関係なく友人ができるのは当たり前だろう」
「そう、ですわね」
少し不機嫌そうではあるが、昔ほど気が短くはなくなったようだ。
「学園では皆、対等だ。身分も性別も関係ない。君も二年後には入学するのだから、今から少しでも学んでおいたほうがいい」
「ええ……わかりましたわ」
別に異性の友人がいることを悪く思っているわけではないし、否定したいわけでもない。
ダニエルは私の反応に小さく息を吐いた。
「まったく……君とは建設的な話ができないな」
「え……?」
「いや、何でもない」
ちょうど話が途切れたところで、ダニエルが頼んでいた料理が運ばれてくる。
「女性はこのような食事が好みなのだろう?」
知っていて“当たり前”だと言いたげな表情に、私はにっこりと微笑みで返した。
女性には好みが一種類しかないとでも思っているのだろうか。
そもそも、私は甘い物が苦手だ。ゆえに今、私の前に並べられた、いかにも甘そうでキラキラした食事は私の好みではない。
(王都の街ならもっとガッツリ系が食べられると思って、楽しみにしてたのに……)
働いている人が多ければ、それだけスタミナの付く料理を出す店も多い。もちろん、王都だからオシャレな店も多いのだけれど。
それでも、ダニエルが私のために選んでくれたのだから、と懸命に頬張った。
◇
昼食が終わり、店を出ると、ダニエルはすでに次の店が決まっているかのように歩き出した。
本音を言えば、もっとゆっくり見て回りたいのだが――ダニエルが計画して連れてきてくれたのだから、文句は言えない。
エスコートされるまま付いていくと、洗練された外観の建物の前でダニエルの足がピタリと止まった。
「君の好みを教えてくれるか。今後のために」
店の中に入るとたくさんのショーケースがあり、その中に光輝く宝石の数々が並べられていた。
公爵家では基本、屋敷に直接業者を呼ぶため、このように並べられているのを見るのは初めてだ。
私が目を輝かせていることに気がついたダニエルは満足げに口角を上げた。
「君が社交界デビューしたら、贈るつもりだ」
「ありがとうございます」
「だから、どれがいいか前もって教えてもらえるか」
社交界デビューは十六歳。学園に入る前に行われる大規模な舞踏会だ。
まだ先の話だし、その時の流行りや好みも変わってくる。それなのに、今決めようというのか。
私が選べずに戸惑っていると、ダニエルは「これはどうだ」と次から次へ勧めてくる。
どれに対しても「いいですわね」と答えていると、店員が微笑ましげに笑った。
「お嬢様のワンピースと同じ色の宝石が使われているこちらはいかがでしょうか」
花の形をしたイヤリングで、中心に淡い青色の石が埋め込まれていた。
「可愛い……」
思わず私が呟くと、ダニエルは口元を綻ばせた。
「他の店も見てから決めよう」
「はい」
確かに今すぐに購入するわけではない。
それに今買われても後々困るから、ダニエルからの提案に私は食い気味で肯定した。
その後も何軒か店を回り、日が傾きかけてきたところで、帰路につく。
「今日は楽しめただろう?」
「ええ、とても」
ダニエルはどこかホッとしたように息を吐いた。
「それなら、いい報告ができそうだ」
「え?」
「教えてくれた友人には、報告すべきだろう? そんなこと、当たり前だよ」
「…………」
もしかしたら、互いを思いやれる、寄り添い合える夫婦になれるかもしれない、と――そう思っていた。
今まで一度も見たことのない、ダニエルのあんな笑顔を見るまでは。




