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【連載版】あなたが『当たり前だ』と仰ったので。  作者: 夕綾 るか


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第二十話


「ルディは私とレティシアの婚約までの経緯を知っているだろう?」

「はい」


 グランディ公爵家とレイナイト侯爵家の間で交わされた約束によって、ルドルフ自身も苦い思いをしてきたのだ。嫌というほど理解している。


 グランディ公爵家にはセドリック、その後、レイナイト侯爵家にはダニエルが生まれた。

 その頃はまだ前公爵が健在で、両家にはかなり圧力を掛けられたようだ。ほぼ同時期に両家夫人が二人目を懐妊した。

 そして、レイナイト侯爵家にルドルフが誕生し、その二か月後にグランディ公爵家にセラフィーナが生まれたことで約束を果たすことができたのだ。

 しかし、それを見届けることなく前公爵は儚くなり、後を継いだ現グランディ公爵はセドリックの婚約者を決めなければならなくなった。

 セドリックはすでに五歳。同じくらいの年齢かつ、この国で一つしかない公爵家と釣り合う家柄の令嬢となると候補は少なかった。


『アデライト侯爵家のレティシア嬢か、パルヴィン侯爵家のマルティナ嬢か……』

『父上、私はレティシア嬢と婚約したいです』


 頭を悩ませていたところにセドリックがやってきて、自分からそう言ったのだ。


 たった一つしかない公爵家として、四侯爵家と平等に交流を持っていたため、セドリックとレティシアは幼い頃より交流があった。もちろん、同じ年齢のパルヴィン侯爵家ノーマンとも交流があり、その妹であるマルティナのことも知っている。


 セドリックはとても聡明な子どもで自分が置かれている立場をよくわきまえていた。

 たとえレティシアに好意を抱いていても叶わぬ夢と諦めていたのだが、セラフィーナが生まれたことで彼の人生が変わった。


 自分の希望を両親に伝えることができる。

 自分の想いを相手に伝えることができる。

 

 その反面、自分のしてきた歯がゆい思いを自分の愛する妹にさせてしまうのだと思うと素直には喜べず、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 それから、セドリックのセラフィーナとレティシアに対する溺愛が始まる。


 他の侯爵家の手前、早々に婚約を決めたことを公表せず、社交界デビューする時に発表するということになっていた。


 互いに交流し合い成長していく中、やがてノーマンはレティシアに恋心を抱くようになった。セドリックに対しては親友として尊敬し、いつか妹マルティナの結婚相手になってくれたらと思っていた。

 そんな淡い目論見が外れたことを彼は学園に入る前のデビュタントで知ることになったのである。


 思えばいつも三人だった。

 ノーマンがレティシアと会う時はいつだってそこにはセドリックがいた。

 二人が婚約していたことも、二人の視線の先には、一人だけしか映っていなかったことも――自分だけが何も知らず、叶うはずもない幻想を描いていたことにノーマンは絶望した。


 婚約を発表してからというもの、隠す必要がなくなったセドリックのレティシアに対する溺愛ぶりはますます加速していった。

 とはいえ、セドリック自身、人を惹き付けてしまう魅力の持ち主で周囲には常に人集りができていた。

 ノーマンもその一人であり、憎もうとしても憎みきれないモヤモヤとした気持ちを抱いたまま学生生活を送っていた。


 そんなある日。

 街に一度も行ったことがないというセドリックを連れ出した時のこと。

 普段から見慣れている貴族とは違い、市井の人々にセドリックの魅力は強すぎたようで大混乱に陥ってしまった。

 特に若い女性ばかりが詰め寄り、大変な騒ぎになった。


『私には決められた婚約者がいますので』


 そういって柔らかく断りを入れていたセドリックにノーマンは違和感を覚えた。


(もしかして、二人の間に愛はないのか?)


 ノーマンは以前、父であるパルヴィン侯爵がセドリックについて母と話しているのを聞いたことがあった。


『グランディ公爵家の嫡男にマルティナが嫁ぐことができれば、我がパルヴィン侯爵家も安泰なのだが』

『所詮、貴族の婚約は契約ですから。どちらと婚約すれば利があるか、考えればわかることですわ』

『先にノーマンがレティシア嬢と婚約してしまえば、確実にマルティナが選ばれるだろうが……釣書を出しても返事を保留にされたままだ。まあ、あちらとしてもグランディ公爵家と縁を結びたいだろうからな』


 そんな会話を聞いていたから、あのような儚い夢を見てしまったのだと気がついた。

 そして、二人にはその気がないのに、契約だからと無理やり結ばれた婚約なのではないかと考えた。


(いや……そんなはずはない。セドリックはあんなにもレティシアを溺愛しているのだから。でも……それがすべて演技だとしたら?)


『セドリック。レティシアとの婚約を解消してくれないか』

『そんなこと、できるわけないだろう? ノーマン、君だってわかっているはずだよ? 貴族にとって契約がいかに大事なものなのか』


 セドリックは痛いほどよく知っている。

 自分が縛られるはずだった婚約という名の契約に今、妹が苦しめられているのだから。


『わかっている。けど、愛のない婚約でレティシアが幸せになれるとは思わない』

『――私がレティシアを愛していない、と?』

『ああ。セドリックが契約だけの婚約ができるのなら、マルティナでもいいはずだ』

『マルティナ、ね。それで? レティシアと婚約を解消して、マルティナと婚約しろと? レティシアはどうなる?』

『俺が幸せにする』


 セドリックは幼なじみであるノーマンの想いに気がついていたからこそ、彼を傷つけまいとしていたのだが、いらぬ世話だったようだ。


『悪いが、婚約解消はしない』

『なぜ……!』

『レティシアを選んだのが私だからだ』

『え……?』

『レティシアに想いを伝え、レティシアからも伝えられている。その上で婚約を結んだ。家同士の利害が一致した契約で結ばれたような婚約ではない。これは君の理想とする婚約関係だろう?』

『嘘だ……』

『そう思うなら、確認してみればいい。もし君がこの婚約を解消させたら、君がレティシアの幸せを壊したことになる。そんな相手と婚約したいと思うかな? それどころか、生涯、レティシアから恨まれることになるかもしれないね』


 事実を知ったことで愕然としたノーマンはその後、二人と距離を置くようになった。



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