第十四話
「ああ、また何か仕出かしたな」
「ルディ」
学園に入ったことでルディとは離れると思っていたのだが、未だ公爵家に入り浸っている。
確かに、兄もここから通っていたから両立できないことはないし、兄にとっても公爵家の仕事を手伝ってもらえるから都合が良いのかもしれない。
今までとさほど変わらない生活に、胸に焼き付けたはずの思い出は封印されたまま、新しい思い出が更新され続けている。
「で、何があった?」
いつもは学園での学習や出来事など、ルディの話を聞くほうが多いのだが、今日は違った。
サンルームに入ってくるなり何かを察したようで、いつもの席に腰掛けると、私に問いかけた。
どんなに表情を取り繕っても、平静を装い隠しても、ルディにはすぐにバレてしまう。
これが幼なじみの怖いところだ。
「それが――」
さらに怖いのは、いつの間にかすんなりと愚痴れるようになってしまったこと。
本来、言うべき相手ではない人に言ってはいけない話をしてしまっている。
「あのバカ兄貴、どうしようもねえな」
「こらこら、お口が悪いわよ。侯爵令息様」
「だってさ……ひどすぎるだろ?」
一通り愚痴って気持ちが収まったからか、それともルディが共感してくれたからか、思わず笑みが溢れてしまった。
「もう、いいの。私ね、本当にバカになってやろうかと思って」
「はあ?」
「あのね、こんなのはどうかしら?」
私が立てた計画をこっそり耳打ちすると、ルディはにやりと口元を緩めた。
「いいね、それ。その役、俺にやらせてくれよ」
「え……? いいの?」
「もちろん! むしろ俺が適任じゃん?」
「でも……それだとルディに迷惑が――」
「あー、もう! 俺がやるって言ってんだから、任せとけばいいんだよ!」
ルディは私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「わかったから、それやめて! 髪が乱れる!」
「わかれば、よろしい」
そう言って、ルディはニカッと笑った。
◇
先日、思わぬ出来事があって注文しそびれた夜会で着るためのドレスを作りに再度、店に来ていた。
「これはどうだ?」
「わあ……とってもいいわね!」
兄にも計画の全容を話し、許可を得た上で、ルディと一緒に外出することになった。
二人で出かけることなど永遠にないと思っていたので、何だかくすぐったい。
私のドレスを真剣な表情で選んでくれるルディに、この場所に刻まれた苦い記憶が温かく甘い記憶に塗り替えられていく。
「お疲れ。俺はちょっと話してくるから、ここで少し待ってて」
ルディが選んだものを一通り試着し終わると、私を待合スペースの椅子に座らせた。
そして、何やら店員と話している。
少し距離があり、話の内容までは聞こえないが、恐らく納品の日程や場所の確認、支払い方法などを決めているのだろう。
ドレスは出来上がり次第、公爵家のタウンハウスに送ってもらうことになっているし、支払いは兄に頼んである。
本来ならダニエルが侯爵家の婚約者用に支給されたものから出すべきなのだろうけれど。
結局、ダニエルは「彼女には相手がいない。友人である僕が助けるのは当たり前だろう?」といい、「婚約者がエスコートできないのだから、君は来る必要はない」という理由で私にドレスを贈らなかったらしい。
(まあ、そんな理屈、バカだから理解できませんけどねー)
こういう時、バカを装っていると便利である。
「待たせたな。んじゃ、行くか!」
「え? どこに?」
計画に必要なドレスを新調しに来ただけで、もう帰るものだとばかり思っていた私は首を傾げた。
「いいから。ほら、行くぞ」
王都の街を二人でゆっくりと歩く。
前回、来た時には見ることができなかったお店にも入り、のんびり見て回れた。
「ここで昼メシ食べるか」
ルディに促されて入った大衆向けの食堂。
店内に入るなり、充満するその香りで、ハッと気がついた。
「ここって、もしかして――」
「ああ、“機会があれば”って約束してたからな」
(覚えててくれたんだ……)
ダニエルが友人に恋をしていると気づいてしまい、モヤモヤしていた私のことを元気づけようとルディが買ってきてくれたお土産。
口の中に広がるスパイシーな甘辛さの肉汁がずっと忘れられなかった。
いつか行ってみたいとは言ったものの、そんな日は永遠に来ないのだと思っていた。
お気に入りの濃紺のワンピースを着て、行ってみたかったお店に行くことができた。
「ありがとう、ルディ」
私の計画に乗ってくれただけでなく、こんなに幸せな体験をさせてくれて。
「まだ終わってねえよ」
目の前に並べられた出来立て熱々の料理を取り分けると、ルディはニカッと笑った。
「ほら、冷めないうちにどんどん食え!」
「うん!」
ルディから皿を受け取ると、好みのガッツリ系料理を口いっぱいに頬張った。




