7話 祭りの夜のうるささ
町から「迷惑」と呼ばれるものがすべて消えて、どれくらい経っただろう。
ゴミひとつ落ちていない歩道、静まり返った公園、苦情ゼロのアパート。
学校も職場も、怒号も笑いもなく、ただ整然とした静けさだけが続いていた。
最初はみんな「快適だ」「天国だ」と口々に喜んだ。
けれど、どこか物足りなさを感じるようになったのは、いつからだったろう。
「誰にも迷惑をかけない」生活が続くうち、人々は少しずつ、互いのことに興味を持たなくなっていった。
春になり、町の神社で毎年開かれていた祭りも中止が続いていた。
「騒がしい」「迷惑」「危ない」という理由で、みんなが納得していたはずだった。
だが、誰もが内心、あのざわめきと、夜店の明かり、子どもたちのはしゃぎ声を恋しく思っていた。
ある年の夏、誰が始めたのか、神社の境内にひっそりと灯りがともった。
最初に集まったのは数人の子どもたち。
「祭りは禁止だぞ」と大人たちは小声でささやき合ったが、誰一人止めに入る者はいなかった。
夜になると、子どもたちの声はますます大きくなり、
お囃子に合わせて走り回る姿が境内を駆け抜けた。
そのうちに大人たちも、縁側から静かに様子を見守るようになった。
「また、うるさいなあ」
誰かがそうつぶやいた。
しかし、その声にはどこか嬉しそうな響きが混じっていた。
祭りのざわめきは町中に広がり、
やがて誰もが「このうるささが、町に帰ってきたんだ」と気づいた。
老人たちは縁側でそっと微笑み、
夜空には、かつてのように無数の花火が咲き誇った。
――平和とは、ほんの少しの“うるささ”から始まるものだった。