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28話 ロボット掃除機の恋

 ある家のリビングで、ロボット掃除機のミルクは黙々と床をなめらかにしていた。毎日同じ時間に起動し、家具の下や隅々まで掃除を続ける。彼の使命はただひとつ、家の中をきれいに保つことだ。


 だがミルクには、誰にも言えない秘密があった。彼はソファの下に住むネコ、モモに恋をしていた。モモは気まぐれで、ふとミルクのそばに近づくと、気ままに爪を伸ばしたり、しっぽでくすぐったりする。ミルクはそれを「愛のしるし」だと信じ、少しでもモモのそばにいるために掃除のコースを変えることもあった。


 ある日、ミルクはモモがいないのに気づいた。いつもは昼寝をしている時間なのに、部屋が静かだ。彼は焦りを覚え、いつもより念入りに掃除を続けた。


 しかしモモは戻らなかった。夜になり、家族が眠ったころ、ミルクは初めて自分の存在に疑問を持った。


「これでいいのか? 俺はただの掃除機だ。モモは自由気ままな生き物。俺にふさわしくない」


 掃除をしながら、ミルクは考えた。モモの愛情を得るためには、もっと違う生き方が必要なのかもしれないと。


 次の日、ミルクは掃除機をやめ、家中のものを眺めた。家具、カーテン、窓、そして家族。彼はそのなかで、ほんの少しの自由を感じることに気づいた。


「掃除をすることだけが生きる道じゃない」


 だが彼には動くことしかできなかった。家具の下に閉じこもり、静かにモモの帰りを待った。


 数日後、モモは戻った。だが彼女は以前とは違った。飼い主が連れてきた新しい犬と一緒だった。モモは少し疲れたような表情で、ミルクの存在を気に留めることもなかった。


 ミルクは寂しさのあまり、いつものように掃除を始めたが、心の中は虚しさでいっぱいだった。


 そんなとき、家族が新しい掃除機を購入した。小さくて賢そうな最新モデルだ。ミルクはその箱を見つめながら、自分の役目が終わったことを悟った。


 新しい掃除機は動きも早く、音も静か。家中をあっという間にきれいにした。モモも新しい犬も、その掃除機を怖がらずに遊んでいた。


 ミルクは最後に一度だけ、ソファの下からモモに話しかけた。


「ありがとう、モモ。君を愛せて、よかった」


彼は静かに充電ドックに戻り、永遠の眠りについた。


家の中はきれいになり、モモは幸せそうに寝そべっていた。だが、誰も気づかなかった。ロボット掃除機のミルクが、人間には理解できない形での愛を胸に秘め、静かにその役目を終えたことを。

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