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第七十一話 死者の街に花束を(25)

 俺たちは、屋敷の地下へと続く階段を駆け下りていった。イリスが見つけてくれた隠された入口から、地下の未知へと足を踏み入れる。しばらく人工的な通路を進んだ後、そこはがらりと雰囲気を変えた。

 天然の、広大な洞窟だった。

 天井は高く、イリスが展開する僅かな魔法の光だけが、その広がりを示す。暗く、湿った空気が肌に貼りつくようだ。土と石の匂い。

 不気味な静寂。地上の冷たい魔力は、ここではさらに濃度を増しているように感じられた。どこまで続いているのか分からない、迷宮のような空間だ。偽りの静寂。

 この静寂は長く続かなかった。

 洞窟の暗闇から、ヌルリ、と何かが現れ始めた。

 一体、二体……いや、数が多い。密集した壁ではなく、洞窟の様々な場所からだ。壁の亀裂、天井の隙間、水が溜まった地下水脈のような場所……「死者」たちが、四方八方から波のように押し寄せてくる。

「来るぞ!」

 俺はリングに魔力を込め、叫んだ。戦闘だ。ここは、狭い通路とは違う。広大な洞窟空間を、どう使うかが重要になる。

 四方から迫る「死者」たち。イリスが素早く魔法を展開する。彼女の指先から放たれる光が、洞窟の暗がりを照らし、隠れた敵の位置を暴く。

 光の玉が放たれ、敵が密集している場所で炸裂した。『ファイアボルト』だ。爆炎と共に、複数の「死者」が弾け飛ぶ。別の方向には、『アイスボルト』が放たれ、敵の群れの一部を凍り付かせ、出現を妨害する。イリスの魔法は、単なる攻撃じゃねぇ。この暗闇の洞窟で、視界を確保し、敵の動きを封じ、妨害する。彼女の魔法がなければ、ここでは戦いようがない。

 シュロットが、俺たちの前に立ちはだかる。彼は向かってくる「死者」を、容赦のない『パンチ』や『キック』で文字通り粉砕していく。その巨体が、洞窟の狭い通路や、敵がまとめて押し寄せてくる場所に陣取る。岩のように硬い体が、迫る波を食い止める防波堤であり、突破口だ。

 俺は、マグナムパンチで主要な脅威を排除する。洞窟の地形を利用する。大きな岩の陰に身を隠しながら魔力をチャージし、障害物の向こうから攻撃を放つ。「死者」がまとめて押し寄せてくる狭い通路にシュロットが陣取り、俺が遠距離からマグナムパンチで吹き飛ばす。イリスが、出現しそうな場所を魔法で塞ぐ。

「冴島さん、右の通路から!」

 イリスの声に、すぐに奥の壁の亀裂から這い出てくる「死者」に『マグナムパンチ』を放つ。

「Ja!」

 シュロットが、洞窟の狭い入口で体を張り、迫る群れを食い止める。俺がその間に、遠距離から支援する。

 戦いは、波状攻撃のように続く。一体を倒しても、次がすぐに現れる。キリがないように見える。ここで立ち止まるわけにはいかねぇ。

 洞窟は迷宮のように広がり、明確な道標はない。しかし、イリスの探知魔法が、進むべき方向を示してくれる。港の方角、強い魔力の源へ。地下の奥深くへ進むにつれて、空気はさらに重く、魔力が濃くなっていくのを感じる。まるで、何かに引きずり込まれているようだ。

「冴島さん、この方向は」

 イリスが、探知魔法を使いながら尋ねてきた。

「おそらく、港へ向かう方向……」

 俺は答える。港。街の「境」と深く関わる場所。儀式場がそこにあるという可能性は、高い。

 洞窟の奥へ進むにつれて、壁面の岩肌が、少しずつ、しかし確実に変化してきていることに気づいた。ただの自然の岩ではなく、意図的に削られたような、滑らかな面。うっすらと、何かの模様のようなものが見え隠れする。自然の洞窟が、人工的な構造物と混じり合っているようだ。これは……単なる洞窟じゃねぇ。レクスヴィントの街ができるよりも古いかもしれない。もしかして、ここの先が……フローリアが言っていた”門”なのか。戦いながら、そんな考えが脳裏をよぎる。この場所が持つ歴史と、今ここで起きていることの繋がり。

 洞窟の奥から、さらに強力な魔力の波動を感じ始めた。

 イリスの探知魔法が示す、港の方角にある強い魔力。儀式場は近い。それに比例するように、「死者」たちの抵抗も激しくなっていく。波状攻撃が、さらに密になってくる。

「シュロット、突っ込め!」

 俺は叫んだ。シュロットが、文字通り「死者」の壁に突っ込んでいく。俺はリングに魔力を込め、シュロットが開けてくれた通路に追従する。イリスが、その道を魔法で援護する。

 洞窟の出口らしきものが見えてきた。しかし、そこも「死者」たちが最後の抵抗とばかりに塞いでいる。最後の波だ。

 俺たちは力を合わせ、その出口を目指して突き進む。マグナムパンチ、ファイアボール、アイススピア、そしてシュロットの鉄拳。全てを叩き込む。

「Ja!」

 シュロットの叫び声と共に、最後の「死者」を薙ぎ倒す。

 洞窟の出口に立つ。そこから先は、空気が違う。魔力がさらに濃く、人工的な、冷たい感触が混じっている。壁には、より明確な、古く不気味なシンボルが刻まれているのが見えた。

 まるで、参道だ。

「行くぞ」

 俺は、息を整え、イリスとシュロットと共に、その先へと足を踏み出した。

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