表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/83

挿話 探偵の休日

 窓から差し込む陽の光が、事務所の埃を金色に浮かび上がらせていた。

 表の通りから聞こえる鳥たちの声だけが、妙によく聞こえる午後。こんな日に限って、電話……じゃなかった、呼び鈴のひとつも鳴りゃしない。

「……まあ、男は暇でも慌てないもんだ」

 口に出してみたが、虚しく響くだけだ。

 俺はくたびれたソファに身を預け、足を投げ出した。いつものように、イリスにベッドを譲ったままだから、もうソファの形が俺の体に沿って沈んでやがる。

 キィ……と扉が軋んだ音がした。小さな影がそろりと顔を出す。

「冴島さん……おやつ、食べる?」

 イリスが、皿に乗ったクッキーを差し出してきた。焼き加減は上々、香ばしい香り。たぶん、シュロットのやつが焼いたんだろう……いや、イリスが習っていたな。

「ああ、ありがとな」

 俺がクッキーを一枚取ると、イリスはにこりと笑って、俺の隣にちょこんと座った。子どものくせに、妙に静かで落ち着いてるんだよな、こいつは。

「今日は依頼、ないのね」

「ああ。たまには、こういう日もあるさ。――シュロットは?」

「裏庭で、干してた洗濯物にアイロンかけてる。あと、モーリのブラッシング」

 冴えた金色の目が、いたずらっぽく笑う。

「この前、シュロットに“探偵は昼寝も仕事のうち”って教えてたよね?」

 ……げ。どこで聞いてたんだ、あれ。

「言ったっけか?」

「うん。だから、寝てていいよ」

 イリスはそう言って、俺の上にふわりと毛布をかけた。……いつの間に用意してたんだ、まったく。

 しょうがねぇな。

 男はやせ我慢するもんだ――が、今日は特別ってことで。

「……じゃあ少しだけ、目ぇ閉じさせてもらうか」

 目をつぶると、イリスの鼻歌が微かに聞こえてきた。

 事件もなく、誰も傷つかず、平穏無事な午後。

 俺は、眠りに落ちるギリギリのところで、こう思っていた。

(――たまには、こういうのも悪くない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ