表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/83

第十八話 探偵は死なない(10)

視点が色々変わってすみません。リィゼ視点です。

 あたしは、イリスの小さな背中を見つめていた。

金色の髪を編み込み、まっすぐな瞳でこちらを見返す 少女――信じられないくらい幼いその顔に、誰よりも覚悟が宿っていた。

「イリス。あたしも行くよ。冴島の敵討ちなら、尚更ね」

「ああ、俺もだ。女の子ふたりに任せておけるかってんだ」

 バルドとガロが、あたしの声に続くように声を上げる。まったく、気が合うのか合わないのか、分からないふたりだ。

 イリスは静かに首を振った。

「私とシュロットだけで充分です。冴島さんと、そう決めました」

 イリスの声は静かだったが、断固としていた。

 その横に立つシュロットは、機械仕掛けの身体を軋ませながら無言で立ち尽くしている。いや、彼にとってはこれが“イリスに同意”の意思表示だ。

「――って、あんた、それ本気で言ってんの?」

 あたしは眉をひそめた。こっちは仲間をひとり失って怒りが収まらない状態だってのに。

「冴島さんの敵を討ちに行くのよね? だったら、あたし達の力が必要でしょう?」

「冴島がいねぇからって、てめえらで突っ走るのは、ガキのやることだ。イリス、お前は頭はいいが、判断が冷たすぎる」

 バルドの咆哮にイリスの肩がわずかに震えた。

 だが、それでも彼女は視線を逸らさなかった。

「それでも……冴島さんとの約束なんです」

 かすかな声が、呟きのように漏れる。

 その横で、シュロットが小さく――だがはっきりと声を発した。

「du……ja」

 イリスがシュロットに何かを小声で告げる。その内容は聞き取れなかったが、彼のくすんだレンズの光が、わずかに揺れた。

「なにブツブツやってんだか知らねぇが、もう決めたことだ。俺も行く。邪魔するならお前ごと殴り倒す」

「お前、脳筋にもほどがあるぞ。リィゼもだが、まずは頭を冷やせ」

「はあ? お前にだけは言われたくねえさ、ガロ!」

「……はあ。ほんとに、あんたらってやつは……」

 あたしは嘆息しながら、イリスの肩に手を置いた。彼女の身体がぴくりと震える。

「イリス。……冴島のこと、あたし達だって大事なんだよ。だから、置いていかないで」

 しばらくの沈黙の後、イリスは小さく息を吐いた。

「……分かりました。では、皆さんも一緒に」

 それは、渋々ではあったが、妥協の言葉だった。けれど、それで充分だった。

 あたし達は、共に戦う覚悟を持っていた。

 イリスの案内で辿り着いたのは、街の裏手にある山肌の陰――誰も寄りつかない湿った崖地だった。見た目にはただの岩場。しかし、イリスの指が空間をなぞると、そこに歪みが現れた。

「……幻影魔法。よく隠したもんだな」

 バルドがうなる。

 隠された扉の奥に広がっていたのは、まるで廃坑のようなじめじめした通路。空気が重く、魔力の澱んだ匂いが鼻を突く。

「おそらく、この先です。しばらく行けば、神堂に通じるはずです」

 イリスの言葉に、皆が頷いた。

 奥へ進むと、光が差し込むようにして、人工的な壁、扉が見えた。

「行くぞ!」

 バルドが吼え、蹴りで扉をこじ開ける。

 次の瞬間、あたしの魔法が火花を散らした。

「《爆炎奔流ブレイズ・ラッシュ》!」

 紅蓮の奔流が扉の向こうへと流れ込み、向こう側にいた何人かの邪教徒が炎に包まれる悲鳴が聞こえる。

「突入!」

 叫ぶ間もなく、全員が駆け込む。

 数は、ざっと二十人。

 剣を構えた使徒たちに混じって、四足の影――ヘルハウンドだ。目の前で、牙を剥いて火炎を吐いた。

「うわっと、危ない……ッ!」

 反射的に飛び退き、真横にいたイリスが詠唱もなく光を生む。

「《聖盾障壁セイクリッド・ウォール》!」

 光の盾がブレスを遮る。ブレスが止んだ瞬間、ガロが斧を振りかざして突っ込んでいった。

「おらあああッ!!」

 返す刀でバルドがフォローに入る。

「てめぇは突っ込みすぎなんだよ、ガロ!」

「うるさい! おまえが遅いだけだろうが!」

 お互い罵声を飛ばしながらも、動きはまるで長年のコンビのようだった。

 背中合わせに敵を払っていく様子には、思わず感嘆してしまう。

 一方、イリスとシュロットの動きも異様だった。

まるで、事前に打ち合わせたかのように――いや、もしかすると本当にそうだったのかもしれない。イリスが後方から冷静に指示し魔法で援護し、シュロットがそれを実行する。斧を持った男が飛びかかると、彼の拳が鈍い音を立てて炸裂した。

「ich」

 鉄拳ひとつで、魔獣を床に叩き伏せる。まるで、あの巨体が舞うようにすら見える。

 あたしも負けてはいられない。

「……《疾火連刃スウィフト・フレア》!」

 炎の刃を纏い、敵の間を駆ける。刃の輝きが残像を残すたびに、敵の数が減っていく。

 炎の魔法と剣術を組み合わせた、あたしの十八番――どこぞの神官も逃げ出す威力だ。

「くっ、強い……!」

 誰かがそう漏らした。そりゃそうだ、こっちは即席とはいえ、エース級の連中ばかりだ。

「リィゼさん、右にヘルハウンドが!」

 イリスの声に反応して、瞬時に反転、火炎をかわしながら剣を突き出す。

「悪いけど、吠えすぎる犬は嫌いだ!」

 剣先が火花を散らし、ヘルハウンドが崩れ落ちた。

 ふと視線を上げると、バルドとガロが、教団の魔導師相手に前線を維持していた。互いに罵り合いながらも、背中を預け合うその姿は、まるで長年の戦友のようだ。

「誰が援護しろっつった! そこどけ、てめえが邪魔だ!」

「そっちこそ目ぇ開けろ! 鈍ってるんじゃねぇか!」

「……あんたら、最高にうるさいけど、最高に頼もしいわ」

 あたしは微笑んだ。

 冴島、あんたのいない戦いだけど――あんたの友だち、すごいよ。誰もが命を懸けて、あんたの敵を倒しに来てる。

 そして――この先に、あんたが残した“鍵”がある。

 あたしは剣を握り直し、奥の神殿の扉を見据えた。

「さあ、行こう。終わらせるために」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ