ジャコウネコ問題の解決定義
うんち議論があったので投稿しました。
この物語は、うんちの定義に終止符を打とうとした、ある若き官僚の記録である。
「……つまり君は、ジャコウネコの排泄物に含まれる未消化のコーヒー豆が、うんちに該当するかどうかを決める会議に出るのか?」
国家行政庁新設部署、定義省。新人官僚の吉住湊は、そこでうんちの定義を決める国家的任務を背負わされていた。
世界的に人気を博する高級コーヒー、コピ・ルアク。しかしその起源がジャコウネコの排泄物であることが広く知られ、「うんちを飲むなんてあり得ない!」という市民団体の抗議と、「いや、未消化の豆であり食品だ!」という専門家の反論が炎上を巻き起こしていた。
「このままでは食品基準法、貿易協定、学校教育指導要領、すべてがグラつきかねない……!」
政府はやむなく、「うんちの定義を明確化するための特別審議会」を開催するに至ったのである。
第一回審議会。
法学者:「排泄物とは、身体から不要とされたものである。従って、ジャコウネコが排泄した時点でうんちである。」
生物学者:「彼らはコーヒー豆を完全には消化していない。短絡的にうんちと断定するのは過剰だ。」
バリスタ:「あの芳醇な香りと味わいは、まさに奇跡。うんちとは言わせない!」
倫理学者:「重要なのはどう呼ばれるべきかではなく、なぜそう呼びたくなるのかではないか?」
湊は混乱の渦中にいた。
「なぜ、ジャコウネコの豆とうんちがここまで議論を混乱させるんだ……」
だがふと、彼の脳裏に師の言葉が蘇る。
『定義とは、ただの線引きではない。人間が、世界をどう扱いたいかという意志の表明なのだ』
最終日。
湊は発言の場に立ち、こう述べた。
「うんちとは、身体にとって不要なものとして排泄された物質と定義されるべきです。しかし、排泄物の中に再利用可能な要素が含まれていた場合、それは『うんちに含まれていた別の構成物』であり、うんちとは異なるものとして取り扱うべきです」
「よって、コピ・ルアクの豆はうんちから出てきたが、うんちではない。これが論理的妥当性のある線引きです」
会場に静寂が降りた。
そして……
「……一理あるな」 「納得できる」 「分かりやすい!」
拍手が起こり、定義省の結論は、国際定義機構へと提出された。
後日。
湊はコーヒーショップでコピ・ルアクを飲みながら、ふと思った。
「こんなに香り高いのに、うんちって思ってたら勿体ないよな」
隣に座った少女が、くすっと笑った。
「じゃあ、うんちって何?」
湊は微笑んで答えた。
「それは……定義されたけど、君がどう思うかが一番大事さ」
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