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クリュスタロス公爵の同情を誘う事に成功したミレイア。

王都から離れ、馬車で公爵邸へと向かった彼女は、とうとうカーミラ夫人と対面することとなる。


まだ残酷描写はありません。

「旦那様、馬車の準備が出来ました」

「すまないが買い物をする事になった、御者に待機しているよう伝えてくれ」

「買い物、ですか?」

「ああ、ミレイアにケープを与えないと、我が家はとても寒い場所に建っているからね」


クリュスタロス公爵様の領地は、我が国と隣国を隔てる山脈の麓だ。

山脈は国境の役割も担っていて、クリュスタロス家は国王直々に指名された、国境の警備隊の最高責任者を務める一族である。


広大な土地の地主であり、警備隊のトップでもある公爵様。

事業がたまたま成功した成金伯爵のお父様とは違う、完璧な貴族だわ。


私は公爵様にファーの付いた厚手の布のケープと、手袋を買ってもらった。

それを身に付け、執事が用意した馬車に乗り込む。

馬車には窓と扉、屋根が付いていて防寒対策がしっかりされている。

座席に使われている布も一級品で、手触りと座った時に感じた柔らかさに驚いた。

リスティン家も場所を持っているが座席が硬くて、毎回お尻が痛くなってしまっていたから。


「此処から私の領地までは時間がかかる、眠くなったら寝ても構わないよ」

「そんな、殿方の目の前で居眠りなど…はしたないですわ」


しかし公爵様が言った通り、王都から公爵領まで体感2時間以上もかかった気がした。

馬車の揺れが心地よくて睡魔が襲ってきたが、私は公爵様に見られぬよう手の甲を強くつねったり、馬車の窓から外を眺めて眠らないようにした。

流石に、会って間もない男性2人に寝顔を見られるのは恥ずかしいでしょう?


「………あ」


気が付くと、外の景色が一変していた。

雑草の生えた小麦畑が淡々と続いていたが、丘を超えた途端、雪景色が広がっている。

王都でも雪は降り積もってはいたが、地平線まで雪しかないと言う光景は初めて見た。


「此処が、公爵様の領地ですか?」

「そうだよ、雪だらけでつまらない場所だろう?」

「いいえ、どこまでも広がる白一色の世界…とても美しいですわ」


これは心から思った事ではあるが、自身の納める土地を美しいと言われて喜ばない者はいないだろう。

こういうちょっとした所で『ミレイア・リスティンの感性は素晴らしい』という印象を相手に植え付けるのは大事なのである。


「……そう言ってもらえて嬉しいよ」


ほらね、早速公爵様に気に入られたわ。


「旦那様、ミレイア様、そろそろ到着しますので降りる準備を」


執事の言葉にハッとする。

もうすぐ着くのだ、私の新しい家となる公爵邸に。


小高い坂を登って少しした場所で馬車が止まった。

先に執事が降りて、次いで公爵様が降りる。


「どうぞ、ミレイア」


公爵様に差し出された手を取って、私も馬車を降りる。

瞬間、唯一素肌が晒されていた顔に痛いほどの冷気が当たり、思わず顔が引き攣った。

王都も寒かったが、山脈の麓は王都以上に寒い……いや、最早痛みを感じる。

その痛みに耐えながら、私は顔を上げ、新しい我が家をその目に入れた。


私の身長の2倍はあると思われる塀と門、リスティン家よりも広い庭がまず私を出迎えた。

庭の奥には大きなお屋敷がある、あそこがクリュスタロス公爵邸……。


公爵様に手を引かれ、門を潜り、雪が積もる庭へ足を踏み入れた。


サクサクと雪を踏み締めながら屋敷へと歩みを進め、至近距離で見た屋敷の大きさに改めて驚いた。


外壁は赤煉瓦、三角の屋根には雪が積もっていて、その下に黒い木の板が見える。

3階建ての大きな屋敷に見えるが、1階部分は窓がなく、玄関は2階部分にあって、階段が設置されていることから、高床式の建物だと分かる。

屋敷にくるまで見えた市民の家も同じように、2階の部分に玄関と階段があったから、雪が多く積もるこの土地ではこういった家の作りが当たり前なのだろう。


(大きさもだけど広さもかなりありそうね、流石公爵様といったところ……)


公爵様が屋敷のある方向に向かって手を振っていた。

その方向に目を向けると、3階の一際大きな窓に人がいるのに気付く。


薄い水色の長い髪に、陶器のように真っ白な肌、まるでガラスを嵌め込んだかのように透き通った青い瞳。

ゾッとするほど美しい女が、無表情で私を見下ろしていた。


(あれが…カーミラ夫人……)


本当にこの世の者とは思えない程美しい人だ。

けど私には『氷の妖精』と言うより、『氷』そのものだと思った。

彼女が無表情だからか、冷たい印象を強く感じる。


(と、とりあえず挨拶しないと)


これから蹴落とす相手だが礼儀は必要。

私はドレスの裾を摘み、カーミラ夫人に向かってお辞儀をした。

少し顔を上げて夫人を見上げてみたが、夫人は先程と変わらず、私を見下ろしている。


(伯爵の娘程度に挨拶する必要はないってこと?なめてくれるじゃないの)

「すまないねミレイア、カーミラは人と関わるのを嫌ってしまっているから…」

「……大丈夫です、王都の宿でお聞きしましたから」


ええ、今は我慢してあげるわ。

彼女が今いる場所は、すぐに私のモノにしてやるんだから。

ここまで読んでくださりありがとうございます、やっとタイトルのカーミラ夫人を登場させられました。

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