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王都の伯爵家、リスティン家の2番目の令嬢であるミレイアは、実姉の婚約者の略奪に失敗し、悪行を晒された後に家族との縁を切られ、家を追い出された。
まだ残酷な描写はなく、タイトルのカーミラも出てきません。
「これまで見てきたお前の涙も言葉も、全て嘘だったのか……っ!」
「実の姉の婚約者を陥れ、その姉の婚約者を奪おうとしたなんて!」
「出て行けミレイア!お前はもう私の娘でも、リスティン家の人間でもない!!」
数着の衣類が入ったトランクと、最後の慈悲としてお金を持たされ、私は生家から追い出された。
私は『ミレイア・リスティン』、リスティン伯爵の『元』娘。
私には実姉がいたが、私よりも冴えない、可愛くない女だった。
それなのにお父様とお母様は私とお姉様を同等に扱っていて、それが面白くなかった。
だから、お姉様には似合わない物は全部私が貰ってあげた。
ぬいぐるみ、ドレス、アクセサリー。
そして、お姉様の婚約者のあの男。
侯爵の長男で、なかなかの美男子だったから私にこそ相応しいと思って近づき、私が侯爵夫人になってあげようとしたのだ。
けど、それが私の破滅の入り口だった。
あの男はよりにもよってお姉様を愛し、私の事など微塵も気に留めないどころか、私がお姉様にしてきた事を裏で調べ上げ、両親や召使い達の前で私を晒し上げた。
ずっとずっと小さい頃からお姉様にイジメられたフリをして、家の物や学校の物を壊したり盗んだりしたのを全部お姉様のせいにして、お父様もお母様も召使い達も、学校の先生や同級生達にお姉様はとても悪い子で、私は天使のように清らかな子だと思わせてきたのに。
私が築き上げてきた物を全部壊され、勘当されてしまった。
家を追い出され私には行く当てなんかなく、ただトランクを持ちながら王都の石畳の道を歩き回っていた。
「……っ…!」
追い出される時に見た、憎悪を向けるお父様の顔、汚物を見るようなお母様の顔……哀れみを向けるお姉様の顔、思い出すだけで腹が立つ。
そして、すれ違う人々が向ける不審な物を見る目が更に苛立ちを増させるから、下を向きながら歩いた。
そのせいで目の前に人が現れたのに気付かず、強い衝撃を受けたと共に尻餅をついてしまった。
「旦那様!お怪我は!?」
「いや、私は何ともない、それより……すまないレディ、怪我をしていないかい?」
真っ白な手袋をはめた手を差し出される。
私は顔を上げ、その手の先にいる人の顔を見た。
薄紫色の髪に、ラベンダー色の瞳をした男性。
たった一度、王家主催のパーティーに出席した時に見かけた事がある方で、彼の羽織っているマントの留め具に使われているボタンの紋章を見て、私は確信した。
「……クリュスタロス…公爵様……?」
王家ともっとも親しい一族の、我が国で一、二を争うほど地位と名誉のある貴族、『クリュスタロス家』の公爵、その人だ。
「おや、私の事を知っているのかい?」
「旦那様、この女性はリスティン家の令嬢では……」
「っ助けてください!」
私は悲鳴に近い声を上げ、公爵様の腕にしがみつき、泣いて見せた。
「只事ではないようだ、セルジオ、宿に連れて行く、彼女の荷物を持ってやれ」
「………かしこまりました」
まだ神様には見放されていないと思った。
お父様に、お母様に、お姉様に。
私を捨てた奴らに、復讐できるチャンスだと。
はじめまして、ここまで読んでくださりありがとうございます。
拙い文章で誤字もあると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。