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夜が明けて

 互いの手を取り合いながら夜の空を泳ぐさゆと友和が向かった先は、全く見知らぬ高層マンションの一室のベランダだった。

 およそ三十階はあろうかというマンションの住民達は、もう遅い時間のせいもあってか、窓の明かりが殆ど灯ってはいなかった。

 さゆと友和が着いたその一室も、窓に明かりはない。

「このマンションがどうかしたのか?」

 友和も横にいるさゆと同じように宙で立ち泳ぎをしながら、訊ねる。

「黙って。今、呼んでいるから」

 さゆが暗い窓を凝視したまま言った。

 友和は言われた通り、口を閉じた。代わりに、さゆの横顔を見詰めた。

 腫れていた頬は、冷たい夜の空気に晒されたせいか、最初見た時よりも幾分引いたみたいだ。しかし、髪の方が深刻だった。

 初めは気付かなかったが、さゆの衣服同様に髪も火に炙られたかのように、ちりちりになっているのだ。

 さゆの奇麗な長い黒髪を知っている友和は、今夜彼女の身に何が起こったのかを想像して、心が暗くなった。

「大丈夫よ。宇木君が思ってる程、酷い目に合ってないから」

 振り返らずにさゆは言った。

「……そうか」

「宇木君の方は、どうなの?」

「俺か? ……俺は……」

 友和は思わず腹部を撫でる。真伏の蹴りを食らって悶絶しかけたが、それ以上に手傷を負った訳ではない。

 だが、もしもあの時に真伏の拳を真正面から受けていたのならば、確実に病院送りかもしくは死んでいた事は十分理解している。

 偶然さゆの姿を夜空に捉えて、懐中電灯の明りで居場所を伝えるのが遅かったらと、思い出すだけでも背筋が震えてくる。

 しかし、あの時友和はどんな事があろうとも背中を見せたくはなかったのだ。

 その時、厚いカーテン越しに人の姿が映った。

 思わず警戒する友和に、

「平気よ。彼女は、私の味方だから」

 そう告げるさゆ。

 ざっ、とカーテンが開けられて窓一枚越しに現れた人物の姿が明らかになる。

 友和は思わず声を出していた。

 そこに現れたのは、ソフトボールの打球を右眼の上に受けて昏倒した時に、保健室で世話になった咲倉高校の女性保険医だった。


 保険医は薄手のネグリジェにカーディガンという格好だったが、突然の友和達の空からの来訪にも驚いた様子なく、二人を自宅に招き入れた。

 さゆが慣れたように靴をベランダで脱ぐと、先に部屋の中へと入って行く。慌てて友和も後に続く。

 保険医はワンルームのマンションに一人暮らしなのか、他に誰かがいるような雰囲気はなかった。

 さゆは玄関まで行き下駄箱に自分の靴を置く。友和も後に続くので、調度二人は狭い廊下で行き違う形になった。

「館林、これってどういう事なんだ?」

「説明は後にしてもらえる? いい加減、縮れた自分の髪に我慢がならないのよ」

 そう言うと、保険医に案内されながら浴室の方へと入って行った。流石にこれ以上は付いて行く訳にもいかない。

 何となく手持ち無沙汰な状況で、友和は居間にあるソファに落ち着きなく腰をかけた。

 座り心地は悪くはなかった。

 女性の一人暮らしにしては実用的なものばかりで調度品の少ない居間を見回していたが、これからの事が気になった。

 さゆの様子からここは安全なのだろうが、銀髪連中がどういう手段を講じてくるか分からない。

 氏名を突き止めてあの自動販売機で半ば待ち伏せをしていたのならば、まず間違いなく友和の家の住所も調べ上げてる筈だ。

 一瞬、家で寝ている筈の亜紀子と由季奈の身を案じて、すぐにでも戻りたい気持ちになったが、どうにか押さえ込んだ。

 今下手に動く事がどれだけ危険なのか、十分に理解している。狛達は恐らく、この咲倉市全体に網を張っているはずだ。そして、友和の家やさゆの住まいにも、連中の手の者が待ち受けているに違いない。

 亜紀子達の事を考えると胸が張り裂けそうな思いがしたが、友和は必死で堪えた。連中の狙いは、あくまで館林さゆ一人のはずだ。直接的な接触を受けた友和はともかく、亜紀子や由季奈にまで連中の手が及ぶとは考え難い。

 そう判断してどうにか心を落ち着かせた友和は、壁掛け時計に目を遣った。

 大きなアナログの時計で、二本の針が既に深夜の二時を告げていた。

 途端に疲労と眠気が襲って来て、友和は猛烈なまでに瞼の重さを覚えた。

 何とか起きていようとするが、睡魔はどうしようもないぐらいに友和を翻弄し、数分後には静かな寝息を立てていた。


 束の間の夢の中で、友和は父親の(つとむ)と再会していた。

 あの日、長らく続いていた仲違(なかたが)いに決着を付けるべく、ドライブに出掛けた友和と努。

 現実では気まずい空気が車内を満たしていた筈なのに、夢の中では友和と努の会話は不思議と打ち解けたものだった。

 父親に対しては普段から仏頂面の友和も、何故かこの時は子どもの頃に戻ったかのように、次から次へと言葉を発していた。自分でも何を言っているのか分からないのだが、夢の中特有の整合性があってまるで気にならない。

 それを横で聞きながら、努は鷹揚に頷き、時には笑いを返す。

 二人を乗せた車は、秋の紅葉に燃える山中を気持ち良いぐらいに走り抜けて行く。

 空は何処までも青い。

 ふと、言葉を止めて車外の風景に目を奪われていた友和に、努が落ち着きのある声で、

「……友和、新しい母さんは嫌いか?」

 と、訊ねた。

 一瞬、返答に窮した友和だったが、

「……そんな事ないよ。亜紀子さんは俺に良くしてくれるし、由季奈も本当の妹みたいに俺に懐いてくれてる。母さんが死んで一年もしない内に、全然知らない子連れの女と再婚だなんて聞かされた時、最初は許せなかったけど、……俺も、もういい加減に子どもじゃいられないしさ」

 夢の中の友和は、亜紀子の配慮で咲倉市に引越しをして以来、二人がずっと友和の事を気に掛けてくれていたのを思い出しながら応えた。当然、その時には努はもうこの世にはいないのだが、友和の目の前にいる父親は、そんな事を全く感じさせないぐらいの存在感があった。

「そうか……。二人を受け入れてくれて、ありがとう。それとな、友和。――どんな事があろうとも、お前は強く生きるんだぞ」

 努がハンドルを切りながらさり気無くそう言った時、前方から来た車がカーブを曲がり切れずにセンターラインを大きくはみ出してこちらに迫って来た。

 突然、全てが静止画像になってしまったかのように、世界が凍り付いた。

 いや、極々僅かに、まるで蝸牛(かたつむり)の歩みのようにゆっくりと、ひどく緩慢に動いていた。

 友和は悲鳴を上げてその場から逃げようとするが、呪いが施されたかのように身体が少しずつしか動かない。

 その中で、友和は見た。

 父親の努が、迫り来る死の塊を目の当たりにしながらも懸命なハンドル捌きで、運転席側を盾にし、助手席側を、己の息子を守ろうとしていたのを――。

 頼もしく凛としてさえ見えた父の横顔に、友和は声にならない声で叫ぶ。

 今まで言いたくて言いたくて、それでも言えずにいた言葉を――。


「――んっ!」

 友和は飛び起きた。

 眼の辺りが異様に熱くて、手で触れてみたら濡れた感触が返ってきた。

 それで漸く、友和は自分が泣いていたのだと知った。頬に熱い水滴が伝った感触があって、途端に気恥ずかしくなって袖で乱暴に拭った。

「男の人が泣くと、凄いのね。びっくりしたわ……」

 突然の声にびっくりした友和は、涙でぼうっとする視界から声の主を探した。

 目の前にいた。

 父親と再会する夢を見たものだから、気が動転して全く分からなかった。

 そこには、見知らぬショートヘアーの少女が立っていた。両の頬に貼られている湿布薬が痛々しい。見れば、衣服から覗いている手足には、所々に包帯が巻かれている。特に、右手はまるで大火傷を負ったかのようにぐるぐる巻きだった。

「え? ええと、君は、誰?」

 友和が訊ねた途端、少女はとても可愛らしい顔を(しか)めて、

「もう、やっぱり! 絶対似合ってないわよこれ!」

 と、憤慨(ふんがい)した。

 すると、保険医が現れて、

「もう遅い時間ですので、大声は慎みなさって下さいませ」

 と、口許に人差し指を立てて慇懃(いんぎん)に言った。

 その(かしこ)まった口調に友和が眼を白黒させていると、保険医がこちらにやって来て、

「さゆ様にございますよ。館林さゆ様。どうか、新しいヘアースタイルを褒めて上げて下さいませんか?」

 と、囁いた。

「え?」

 思わず声を上げる友和。

 さゆは更に渋面になった。

「さゆ様、私に髪をお切りになられている間、貴方にどう思われるか、それを頻りに気になさっていましたの。自分の身体の事もそっちのけで。どうか、一言二言褒めてあげていただけませんか?」

 保険医が懇願するように言ってきた。その横で、さゆが眼を剥いていた。

 しかし、保険医のさゆに対する接し方がまるで従者のそれのようで、保健室での彼女を見知っている友和は少し気後れした。

 不意に悲迦留の言っていた妖術という単語が脳裏を過ぎった。

 今の状態の保険医は、さゆに妖術を掛けられているのだろうか。それとも何か別の理由があって。

「宇木君、何時までも女の子を待たすものじゃないわよ」

 その時、いきなり保険医が砕けた口調になった。

 それは保健室で初めて会った時と同じ、とても気さくだが馴れ馴れしさのないもので、友和の疑念を一瞬和らげた。

 今はそれだけで十分だった。

 友和は妙な緊張感を意識しながらも、ぷいっと横を向いているさゆに向かって、

「あの、その……似合ってるよ。……似合い過ぎて、一瞬誰だか分からなかったぐらいだ」

 と、言った。

 さゆは眼だけをこちらに向けて、

「本当?」

 と疑わしげに訊ねた。

「あ、ああ、本当だって。可愛い可愛い」

「何だか、子どもをあやしているみたいな言い方ね。……まあ、良いわ。あの犬女の結界をごり押しで抜け出たんだし、この程度で済んで良かったわ」

 さゆは随分と短くなった髪に手櫛を通しながら、呟くように言った。

「犬女? 悲迦留の事か! 結界って何だ?」

 友和が驚き慌てたように聞いてきた。

 さゆは公園での出来事を掻い摘んで話した。

 悲迦留が公園全体に展開していた結界――アニメやゲームの中にしか存在しないと思っていた――を無理やり擦り抜けたという(くだり)になった時、友和は驚愕を通り越してただ(あき)れた。

「それで、宇木君はあの大男と何をしていた訳? まさか、夜中に自動販売機の前でダンスをしていたとか言わないでしょうね」

「その冗談は笑えないな……」

 友和はそう言って苦笑する。蹴られた腹部には(いま)だ疼くような痛みがあったし、衣服を捲れば地図上のアメリカ大陸のような青痣が浮き上がっている事だろう。

 友和も、病院に行った帰りに悲迦留の接触を受けた事を簡潔にさゆに伝えた。そして、夜にあの公園にいるだろうさゆに会いに行こうとして、真伏という大男に邪魔をされた事も口にした。

「無茶するわね……でも、まあ、無事で何よりだわ」

 そう言ってさゆは小さく鼻を鳴らすと、ちらりと友和を一瞥してから話を続けた。

「狛という組織はね、私が一度徹底的に叩いた事があるのよ。その時の怨みつらみがあるものだから、あの犬女、しつこく食い付いて来て離れない訳。……宇木君の様子からして、随分と連中から話を聞かされたみたいね。私の事とかも色々言われたんじゃない?」

 友和は表情を暗くした。

急に喉の奥がつまったような感じになって、一言一言をやっとの思いで口にする。

「……言っていたよ。お前が、天魔だって。人の心を操る、悪魔だって言っていた」

「そう……。ねえ、宇木君。もし、狛達が言っている事が本当だったらどうするの? 私が、本当に悪魔だったら」

 友和は目を白黒させた。まさか、さゆ本人からそんな言われ方をするとは思ってもみなかったのだ。

 さゆはじっと友和を凝視している。

 気まずさを覚えた友和は、思わずさゆから顔を逸らすと、ぴたりと保険医と眼が合った。

 そもそも、この保険医は何なのだろう。

 さゆは味方だと言っていたが、一体どういう意味なのか。

 答えがそこにあるかのように、友和が保険医の顔を見詰めていると、

「さゆ様は、本当に悪魔なのですよ」

 保険医が屈託なく言った。

 途端にさゆが噴き出した。友和も「えっ?」と声を上げてしまう。

「ちょ、ちょっと! いきなり何言い出してるのよお前は!」

 さゆが驚いて保険医を睨むが、彼女は涼しい顔でぴしりと人差し指を立てて、

「悪魔……。その名の通りにある者からすれば、さゆ様の存在は、心の在り方を根底から覆してしまう悪魔そのものなんです」

 と、言った。

 友和は暫く黙ったまま、保険医の口にした事を考えながら「悪魔」という単語を呟いていたが、やがて、

「そう……か。その力が、悪魔なのか。人を操りたいという欲望を、誘惑する悪魔……」

 重いものをはき出すように、友和は呟いた。

「人は、悪魔に弱い者です。例え清廉潔白な人格者であっても、他人を思いのままに操れる力があると知ったのならば、どう思うでしょうか。それが、政治の世界にも通じている者だったら」

「まさに、悪魔の力だ……。狛達の裏に、そんなでかいのがいるとはな」

「狛は、時の朝廷に山神の地位を失墜させられてからずっと、とある裏社会の重鎮に飼われて生きて来た一族なのよ。お陰で権力者との繋がりも太いわ。さながら飼い犬のリーダーみたいにね」

 吐き捨てるようにさゆが言う。

「時の朝廷って……その頃から狛がいるのなら、それに追われている館林って、一体歳幾つ」

 瞬間、世界が凍り付いた。

「……私の一族は、長命なの……。ただ、それだけよ」

 どすの利いた声を響かせるさゆに、ただ友和は自分の失言を悔いる他なかった。

「……こほん。ともかく、これからどうするつもり? まあ、宇木君は巻き込まれた形だし、狛は私だけが狙いだから、何もしないで家に帰ればそれで終わる話だけれどね」

「そうは行かないんじゃないか? 現に、俺は真伏とかいう大男に襲われたしな」

「狛も馬鹿じゃないから、自分達から事を大きくしようだなんて思ってない筈よ。警告だったんじゃないかしら? 私から手を引けって」

「それにしては、殺す気満々だったぞ」

 真伏との死闘を思い出して、友和の額に冷や汗が滲む。

「それでも、宇木君はもう、この事は忘れた方が良いと思うわ。幾ら私でも、宇木君を二度も助けられる自信がないから」

「俺がいても邪魔になるって事か?」

 辛そうに、さゆが俯く。

「……端的に言えばその通りよ。宇木君は、家に帰った方が良いわ。お母様と妹さんがあなたの帰りを待って――」

「父さんに言われたんだ。――どんな事があっても、強く生きろって」

 友和の眼が、強い力の光を帯びる。

 さゆも友和の眼を見詰めながら、震える口先から言葉を紡いだ。

「強く生きるという意味がどういう事なのか、一旦棚の上に置いて言うけど、……今から、とても酷い事を宇木君に言うわよ」

「ああ」

 さゆは少し言葉を詰まらせた後、口を開いた。

「……あなたの死んだお父様は、あなたが折角助かった命を無駄にするなんて、決して望んではいない筈よ」

 友和の表情が凍り付いた。

「館林……どうして父さんの事を」

「あの銀髪女に言われたのよ。……事故の事を。それと、宇木君の右眼の事も……」

 友和は右眼に手を遣りそうになって、静かに下ろした。

 今度はさゆが、気まずい思いをしているかのように俯く。

 と、友和を伺うように視線を上げたさゆの眼が大きく見開かれた。

 友和が、穏やかな微笑を浮かべているからだ。

「でも、館林は戦うんだろ?」

 友和の言葉に、さゆは両の手を拳にした。きつく、きつく。

「うん。もう、逃げないって決めたから。ちょっとずるしたけど、高校にも入った。私、学校行きたかったし、友達も欲しかったから。上辺だけの友達じゃなくて、心の底から笑い合える本当の友達が」

「――俺は、会えたんだ」

 突然の友和の言葉に、さゆは戸惑う。

「俺は、あの事故から半分死んでた。ずっと半分の世界で生きて行くんだと思うと、何度も死にたくなって。――だけど、館林に会えた。俺の中身を(さら)け出せる、本当の友達に会えた」

 視界の端で、保険医が口許を手で隠しているのが見えた。動揺か歓喜か嘲笑か。

 構うものかと友和は言葉を続ける。

「俺も、戦う。どんな事があっても、お前を連中の悪魔になんかさせない」

「宇木君……さっきも言ったけど、あなたの存在は私にとって邪魔になるだけなのよ」

「それなら、悲迦留が俺の事を相当警戒していた意味が分からない。第一、あんな大男が何故俺なんかを待ち伏せしていた? つまりそれは、館林の力がとても怖いって事だ。館林のもう一つの力によって、何かが起きた協力者が」

 そう言って、友和は保険医の方を向いた。今になって気付く。彼女の瞳も、さゆと同じように紅くなっている事に。

 保険医がにっこりと笑うのとは対照的に、さゆは困惑したように下唇を噛んだ。

「どういう風に解釈しているのか知らないけれど、私は宇木君をスーパーマンにしてあげる事は出来ないわよ。それに、あの犬女にも仕組みが殆どばれたから、戦い方を変えなければいけないし」

「ばれたから変えなければいけない? どういう事だ?」

 聞き返した友和に、さゆは言い難そうにしながら、悲迦留が公園で取った行動を説明する。

 悲迦留はさゆのもう一つの力である人を操る能力を、眼と眼のコンタクトによるものと看破(かんぱ)していた。そして、その証明は友和によってなされたと言っていた。

 つまり、隻眼の自分にさゆの異能は効力を発揮しない――と、友和は認識した。

 その事を実際に口にしないのは、さゆの気遣いなのだろう。

 確かに落胆はあったが、心の中に転がったそれは意外に小さな物で、自分の胸に誓った決意があっさりと蹴り飛ばしていた。

 友和の眼に宿る力が衰えないのを見て、さゆは短くなった髪の先をいじりながら、一息ついた。

 それから、

「……そうね、宇木君の状態だと、精々、痛みの鈍化を促進するぐらいね。それと、筋力もちょっとだけなら上げる事が出来るわ」

 と、言った。

「本当か? だけど、俺には効かないんじゃないのか?」

「それは、人によるのよ。本当に意志の強い人間が頑強に抵抗するのならあまり効かないし、その逆もあるって事」

「つまり、俺から進んで催眠術にかかろうとすれば」

「催眠術って言われると複雑ね。……ともかく、宇木君の心次第な訳。ただし!」

 さゆはきっ、と友和を睨むように見据えると、

「絶対に無茶をしないと私に誓いなさいよ。人間は、些細な事で死んじゃうんだから。それから、格好付けて私を助けようだなんて思わない事! 危ないと思ったら、私に構わず絶対に逃げなさいよ」

 そう言うなり、頭の両側をさゆに掴まれた。目の前にさゆの顔があって、友和は戸惑う。

「ああもう! 眼を泳がせないで、私の眼を見てしっかり見て。真っ直ぐに……そう、そのまま……そのまま……」

 鼻同士が触れ合う程の距離にあるさゆの顔に友和はどぎまぎするのを覚えながら、紅と黒が混沌としているさゆの瞳に見入られる内に、一瞬気が遠くなった。

 不意に自分が落下していくような感覚に襲われ、ぶるり、と全身が震えて眼をぱちくりさせる。

 さゆが手を放して立ち上がった。

「終わったわ。もう、夜も遅いし寝て良いわよ。それと宇木君が寝るのはそこのソファの上だけど、我慢して。上にかける毛布とかは用意させるから」

 そう告げると、自分はすたすたと居間を出て行った。

 その後を保険医が、

「今夜はさゆ様と同じベッドなんですよ」

 うふふ、と笑いながら後を追った。

 一人居間に取り残された形の友和。

 いきなりの事で状況の整理が上手く出来なかったが、どうやらさゆの妖術が効いているらしい。しかし、何よりも自分のしたい事が出来るという喜びの方が大きかった。

 今はともかく、眠って体力を回復させよう。

 保険医が暖房を入れてくれたようで、居間の中は比較的温かい。これなら毛布とかもいらないな、と思っていたらストンと落ちるように眠りに就いた。


 友和が再び目を覚ますと、既に日が出ており、室内は陽光のお陰で明るくなっていた。

 保険医が用意してくれたのだろう身体に掛けられていた温かい毛布と暖房のお陰で、真冬だったが寒い思いをせずに済んだ。

 壁時計に目を遣ると、時刻は朝の七時半を差していた。

 一瞬、遅刻すると思って友和の頭はパニックに陥りかけたが、今日が土曜日である事を思い出して安堵し、そして漸くこれまでの事を振り返る事が出来た。

 考えてみれば、さゆと出会ってまだ一週間も経っていないのだ。それなのに、あの夜に館林さゆを夜の公園の虚空に見掛けたあの時から、友和の世界は変わった。根本から。

 最初はぶれていた物が直ったのだと思った。

 存在そのものがファンタジックなさゆを受け入れる事で、自分もそちら側に行けると思っていた。

 でも、それは違うのだと友和は気付いた。

 夜に空を泳ぐ少女が、死んだ父を甦らせる事はない。

 父は死んだのだ――。

 その現実を受け入れる事で、友和の足は大地に立った。館林さゆが存在するこの現実の世界の地に。

 その時、居間の扉が開かれて、普段着姿の保険医が現れた。

「おはよう。ソファのベッドだったけど寝心地はどうだったかしら?」

 屈託なく笑いかける保険医に、友和の方が戸惑う。

 気さくな性格は、元々なのかそれともさゆの力によるものだろうか。

 その事を聞きたくもあったが、気後れする分の方が大きくて、友和はただ頭を下げた。

「いえ、こちらこそ急に押し掛けて申し訳ありません」

「良いのよ。女の一人住まいだし。ちょっと待っててね。すぐに朝ご飯作っちゃうから」

 そう言って保険医がキッチンの方へと姿を消す。

 その時、友和は亜紀子と由季奈が家で自分の帰りを待ち侘びている姿を幻視した。二人は、友和がいない事をどう思うだろうか。

 そう考えていた矢先、友和の携帯電話が勢い良く鳴った。

 びくりと身体を震わせてから、ズボンのポケットに仕舞っていた携帯電話を取り出す。

 折り畳み式のシンプルなデザインのそれは、まるで友和を叱責するかのようにアップテンポな曲調の着メロを鳴らしまくっている。

 折り畳んだ表面側の小さなディスプレイには、『ユキナ』の文字が表示されていた。

 二つ折りになっていたのを開けて、通話ボタンを押す。

「もしもし?」

 友和が電話に出た途端、

『友兄の馬鹿! 今何処にいるのよ!』

 第一声から怒られた。由季奈だった。相当怒っている。

「……いや、まあ、元気だよ」

 お茶を濁すように友和が言うと、更なる怒声が返って来た。

『馬鹿馬鹿! 何処にいるか聞いてるのよ! 朝起きたら友兄いないってお母さん言うし、書置きも何もないからどうしたんだろうって凄い心配したんだよっ! ああ、お母さん大丈夫だから! 友兄電話に出たから! え? ちょ、ちょっとお鍋噴いてる! 弱火弱火って、きゃー! な、何で強火にするのよ!』

 由季奈の声が一旦遠ざかったと思ったら、向こうの携帯電話を置く音がして、それから由季奈と亜紀子がきゃあきゃあと揉めている声が聞こえてきた。

 友和は思わず頭を掻いた。

 それから少しして、

『友君、私よ』

 耳に馴染む亜紀子の声がした。同時に、心の底から安堵の気持ちが湧いてきた。昨夜は二人の身には何もなかったのだ。

「あ、亜紀子さん……」

『今何処にいるの?』

「え、えっと、咲倉市には、います……」

『市内にはいるのね。分かったわ。ご飯の用意はしておくから、用事が終わったらちゃんと帰って来なさいね』

「はい……。亜紀子さん、心配かけてすいませんでした」

『男の子ですものね。そういう事もあるわ。じゃあ、お家で待ってるから』

 携帯電話の向こうにいる亜紀子がそう言って、通話を切った。

 友和は通話時間と発信者名の『ユキナ』が表示されている液晶画面を暫し見詰めた後、携帯電話をズボンのポケットに仕舞った。

 その時、さゆが居間に姿を現した。

 流石に昨日着ていた衣類はぼろぼろのようで、裾を相当折り曲げたデニムとぶかぶかのトレーナーを着ていた。

 一晩経過しただけだが、よくよく見るとさゆの怪我は大分良くなっているようだ。その証拠に、手足に見えている絆創膏の数や包帯の量が減っている。

「凄いな。傷とか、もう治ってるんじゃないのか?」

「まあね。私は、人間とはちょっと違うから。怪我の治りも早いのよ」

 少しばつが悪そうに髪の毛の先をいじりながら、さゆは言った。

「気になるのか、髪?」

「当たり前でしょ。自分の髪なんだから。こればかりはどうしようもないわ」

 幾分強い語気で言われ、友和は居心地の悪さを覚えた。さゆが悲迦留の結界を無理やり突破したのは、友和のせいでもあるのだ。

「気にしなくて良いわ。私が自分でやった事だし。ねえ、さっきの電話、家の方からのでしょう? 一旦帰った方が良いと思うわよ。まさか白昼に堂々と狛達が襲って来るような事はないだろうし」

「でも、保健室の先生が朝ごはん作ってくれてるみたいだから」

「そうなの? うーん、私もお腹減ってるし、サクラジョイワールドの事もあるから食べておこうかな」

「サクラジョイワールド?」

 友和が聞き返した途端、さゆが突然凄い剣幕になってこちらを睨んだ。

「な、何だよ?」

「そうよ。宇木君、どうしてサクラジョイワールドの誘いを断ったりしたの?」

「え? まあ、予定が」

 そう応えながら、実際は予定なんてまるでない事に気付く友和。

 じぃーとこちらを見ているさゆ。何だか、急に機嫌が悪くなったようだ。そう言えば、今日がサクラジョイワールドに行く日だったのか。

「その、今日だったのか? サクラジョイワールドに行く日にちって」

「そうだけど、何か?」

「何かって……狛達がいるだろ? 危なくないのか?」

「人が多い方が返って安全よ。それに戦い方を変えるって言ったでしょう。手は早い内に打たないと」

「それとテーマパークに行く事とどう関係があるんだ?」

「つべこべうるさいわね! 行かない人には別に関係ないわよ!」

 急に声を張り上げるさゆ。

「な、何で怒り出すんだよ」

 だが、さゆは答えずにふん、と鼻を鳴らすとリビングの方に行ってしまった。

「サクラジョイワールドか……どうするかな、今日は」

 実際、友和は今日一日をどうするかまるで決めていない。

 江藤達がテーマパークの事で色々話し合っていた時、友和は誰かとわいわい遊ぶ気にはならなかった。

 そうする事がまるで自分の罪を喚起するかのように……その時、友和は大切な事を忘れているのに唐突に気が付いた。

 ずっと前から、自分がしなければならなかった事を。

 真伏に言い放った言葉が、友和の脳裏に甦る。そして、今朝の夢から醒める直前の友和が、父の努に伝えなければならなかった言葉を。

 友和は勢い良く立ち上がると、尻のポケットから半ばはみ出しかけていた財布を取り出し、中身を確認した。

 札の数と小銭の額を目で確かめた後、携帯電話を取り出して、アドレス帳から自宅のナンバーを選択。通話ボタンを押す。

 数回の呼び出し音の後、

『はい。もしもし、宇木でございますが』

 丁寧な口調で亜紀子が出た。

「亜紀子さん? 俺です。友和です」

 思わず、携帯電話を握る手に力が篭る。

『あら、友君どうしたのかしら?』

「俺……今日父さんに会いに行きます」

 携帯電話の向こう側にいて受話器を握る亜紀子が、静かだが揺るぎのない喜びの情を溢れさせているのが気配で分かった。

『……そう、良く決心したわね。とても偉いわ。本当に頑張ったわ』

 普段からおっとりしていて何事にも動じないように見える亜紀子の声が、少し震えていた。

 それから友和は、携帯電話を握る手に力を込めながら、一字一句紡ぐように言葉を続けた。

「それと、亜紀子さん。俺の机の一番下の引き出しに、分厚い辞書があります。そこに俺の――父さんの生命保険のお金が全部入った銀行の通帳があります。判子も、その近くにあります。……父さんの、命の値段です。受け取って下さい」

『友君……』

「あの時の俺は自分の事しか、いや自分の事さえも分からなくなってて……自棄になって俺を引き取ってくれた亜紀子さんに酷い事言って……」

『引き取ってだなんて言わないで。あなたは、努さんから託された大切な息子ですもの。どんな事があっても守ってみせるわ。それに友君が気に病む事なんて一つもないの。だって、愛する息子の反抗期と思えば何だって許せたし、夜泣きが凄くて一睡もさせてくれなかった由季奈に比べれば、全然可愛らしいものだったわ」

「……凄いな。本当に凄いよ。父さんが、好きになったのも分かる」

 何時しか、友和の左眼から一条の涙が零れ始めていた。

『そう言ってもらえると、とても嬉しいわ』

 溌剌(はつらつ)としている亜紀子の声。

 まるで快晴の空を渡る風のようなその声に友和は背中を押され、

「これからは亜紀子さんを、『(かあ)さん』って呼んでいいですか?」

 そう、口にした。

 一瞬の間が空いた後に、亜紀子の息を呑む声が聞こえた。

「もちろん……もちろんよ友君。ああ、本当に嬉しいわ。私、本当に男の子と女の子の兄妹が欲しかったの。……友君、由季奈の、本当のお兄ちゃんになってくれてありがとうね」

「はい……」

「それと、その銀行通帳は受け取れないわ」

「え、どうして?」

『私は、友和という最高の贈り物を努さんから頂いたもの。これ以上貰ったら、強欲な女だなって言われて努さんに離婚されちゃう』

「亜紀子さん……」

『母さん、でしょ。友和』

「……うん、母さん」

 嬉しさと恥ずかしさが混じった何とも言えない幸福感に満たされながら、友和は携帯電話を切った。

 友和はそのまま居間を出ようと歩き出して、廊下のすぐ近くでさゆが棒立ちでいるのが眼に入った。

「……何してるんだ?」

「ななな、何でもないわよ!」

 やたらと動揺しているさゆ。

「もしかして、俺の声聞こえてたか?」

 友和が訊ねた途端、凄い速さでさゆの眼が泳いだ。友和が眉間にしわを寄せて暫く見ていると、

「ご、ごめんなさい。立ち聞きするつもりは、なかったんだけど……」

 先ほどまでの苛々は何処に行ったのかというぐらいに恐縮した態度でさゆが白状した。

「いや、いつかは話そうと思っていた事だから、そんなに気にする必要ないさ。元々、亜紀子さんと由季奈とは、血は繋がってないんだ。再婚同士の連れ子同士って事なんだけど、父さんが死んだ後、ちょっと大変だったんだよ」

「それって、私が聞いて良い話なのかな……」

「ああ、そうだな……館林がナイトフィッシュの秘密を教えてくれたから、チャラになるかな?」

「それ、もう貰ってる。缶コーヒー」

 そう言われた途端、友和は吹き出してしまった。

「ああ、そうだったな。……何だ、俺が後生大事に抱えてた秘密って、缶コーヒー一本と同じだったのかよ。今まで勝手に悩んでたのが本当に馬鹿みたいだ」

 自嘲するように言うと、友和は自分の過去を語り始めた。

 友和の父の努が事故死し、友和自身も右眼を失明する大怪我を負った後、莫大な保険金が友和の銀行口座に振り込まれた。

 その事を嗅ぎ付けた親族が、友和の養育権を巡って随分と生臭い言い争いをしたのだ。この時の友和は病院のベッドの上で、生死の境を彷徨っていたのだから、酷い話だ。

 葬儀の喪主は、既に婚姻届が出されていたので妻である亜紀子が務めた。

 喪主を代わろうと言い出した努の兄弟達がいたが、それを亜紀子は頑なに拒み、再婚したばかりで夫に先立たれた妻としてではなく、宇木家の新たな家長として毅然と執り行った。

 葬儀で涙一つ見せなかった亜紀子に、親族達が「血も涙もない鬼女」「大金が入って内心ほくそ笑んでいる」「友和もその内怖ろしい目に会うんじゃないのか」と、散々に陰口を叩いたという。

 この事は、退院して間も無く由季奈から聞かされた。

 由季奈の悲憤は凄まじく、自分の母が血の繋がりもない者達にこうも言われなければならない事が本当に我慢ならなかったようだ。

 しかし、亜紀子は言ったという。

 もし、少しでも気が挫ける事があれば、今も病院のベッドの上にいる友和を守る事が出来ないと。

 亜紀子は、やましい気持ちを抱いて友和に会おうとする者を誰一人として許さなかった。病院側に自分と由季奈以外の人間が友和と絶対面会する事がないように徹底させた他、由季奈も毎日学校が終わる頃には病院に行って友和の看病をした。

 友和が病院を退院するまでの二ヶ月間それが続き、ようやく親族達も胴欲な舌で友和を絡め取る事を諦めた。

 亜紀子と由季奈の母子(おやこ)が宇木の姓となって最初にしなければならなかった事は友和を守る事だったが、戻って来た当の本人は心身共に深刻なダメージを負ったままだった。

 父の死と、右眼の失明。

 特に、友和は数年前に病死した努の前妻の印象を強く引き摺っており、亜紀子に対しては冷たかった。

 必死の思いで守ろうとした友和が、自分に対して時には攻撃的な態度を取る事を亜紀子は半ば予想していただろうが、それでも胸を抉られる気持ちだった事は間違いない。

 友和がぽつりと呟いた「亜紀子さんも、俺が親父と一緒に死ねば良かったと思ってるんだろ」と言った時、その顔は穏やかだったが心は無残にも引き裂かれたのを見て取った。すぐそばにいた由季奈は眼に一杯の涙を溜めて、今にも殴り掛かりそうになるのを必死で抑えていた。

 亜紀子は穏やかな母の表情のまま、咲倉市への引越しを提案した。

 友和は、行く当てもないし自分自身がどうしたいのかという目的もなく、ただ状況に流されるままに頷いた。

 こうして、宇木家の三人は咲倉市へと移り住んだ。

 時間が経つに連れて、亜紀子と由季奈の労わりと気遣いを素直に受け入れられるようになり、友和は自分の足で立つという実感を得た。

 しかし、友和は心の何処かで亜紀子と由季奈の母子と自分との間に明確な一線を引いていた。

 それを今、友和は亜紀子を自分の「母」と認める事で、その一線を消し去ったのだ。

「……何だか、物凄い心の成長に立ち会ったのかしら、私……」

「成長したかどうかは分からないけど、今の俺にはすべき事とやらなければならない事の二つがある。それを強く感じている」

「お父様に会う事と、もう一つは、何なの?」

 すると、友和はじっとさゆを見詰める。

 真摯(しんし)とも思えるその眼差しに、さゆは緊張感を募らせる。

 友和は不意に笑んで見せると、

「狛と決着を付ける時は、必ず呼んでくれよ。それじゃ、俺は行くから」

 そう言って、玄関口へと向かった。

「ちょ、ちょっと何よ! 気になるじゃないの!」

 慌てるさゆの声が背中にかかる。

 だが、友和は振り返らずにさっさと靴を履き終えると、ドアを開けた。

 途端に冷たい風が頬を撫でて、淡い日の光が目の前に広がった。

 急激に頭の芯が覚める。全身の血流を感じ、力が指の先にまで満ちているのが分かった。

「――またな」

 振り向いてさゆにそう言うと、友和は歩き出した。


 友和が外に出たのを見届けたさゆは、キッチンに向かった。

 そこではエプロン姿の保険医が、鼻歌まじりで朝食を作っている。その背中にさゆは言う。

「宇木君の分はいらないわ。出掛ける所があるみたい」

「そうなんですか?」

 保険医は振り返らず、フライパンの中身を巧みにひっくり返している。どうやらオムレツを作っているようだ。

 ジャグリングの玉を扱うようにオムレツが宙を舞う光景を見詰めながら、

「……凄いな、あいつ……。それに比べて、私は今まで」

「何ですって? 何か言いましたか?」

 さゆの呟きを耳聡く聞いていた保険医が、わざわざ振り返って訊ねる。

「な、何でもないわよ! お腹ぺこぺこなんだから、さっさと作りなさいよ!」

「何ですかもー。さゆ様怒ってばっかりですー。そんなに宇木君とお出かけ出来なかったのが悔しかったんですか?」

 途端に、さゆは自分の頬に血が昇るのが分かった。

 つかつかと歩み寄ると、無言のまま保険医の脛にローキックを見舞った。

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