2章 陽だまり
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午後の昼下がり。桃色の花びらを咲かせていた桜の花が散り、葉桜に代わりかけている。
庭先で小鳥たちがさえずる中、『チリン』と鈴の音を響かせ栗色の髪を一つに束ねた少年が足早に縁側を歩いている。少年はそのまま縁側を進み一番奥の部屋の戸を開けた。
「.......___生きて、いてくれた」
そして少年___.......もとい夏彦は自室の戸を閉める。
「また、会えた___........」
ずるずると座り込んで大きく息を吐く。夏彦は戸に背中を預け、天井を仰ぎ見た。
思い出されるのは黒焦げた街並みと押し寄せる人々の波。
探せど探せど探し求めた姿はなく、周りに充満しているのはむせ返る様な灰のにおい。
瓦礫の山を掻き分けても搔き分けても、探し求めた《《彼女》》の姿はどこにもなかった。
(ずっと、ずっと探していた娘__.......)
火事のあと何度彼女がいた町を訪れただろうか。瓦礫の山になった街に建物が立ち並びはじめても、ついに彼女を見つけることができなかった。
(もう二度と会えないのだと思っていた)
だからあの洞窟の近くを通りかかったとき香った彼女の匂いは、気のせいだと思った。そんなまさか、と思いながらも、けれどどうしても気になって、自然と足は洞窟へ向いていた。洞窟の奥へ近づくにつれ、心臓が高鳴るのを感じずにはいれなかった。
(まさか本当にキミだった、とは)
目の前にいる彼女を見たとき心臓が止まるかと思った。
(夢をみているのかと思った。俺の都合のいい夢を____.......)
けれどそれは紛れもない現実で____........。
「8年、か____.......」
胡蝶の町が燃えている、との知らせを聞いて、全力で駆けたあの日。
どれだけ探してもどれだけ走り回っても、彼女の姿はどこにもなく煙に巻かれたかのように忽然と消えていた。
「胡蝶の大火事で父と母を亡くして、人攫いに合っていたのか」
だからどれほど胡蝶付近の町を探し回っても見つからなかった。
彼女の姿を追い求め、何度胡蝶に足を踏み入れたことか。
「どおりで暗い瞳をしていたわけだ」
あの日から探し求めていた娘は、全てを諦めた瞳をしていた。
父と母を亡くした時の痛みは___.......。
火事の混乱に乗じ連れ去られた恐怖は___.......。
住んでいた村人達に生贄として差し出され、妖たちに囲まれたとき彼女の絶望は___.......。
.......___一体、どれほどだっただろう。
彼女の境遇を思うと胸が痛む。夏彦はゆっくりと息を吐いて独り言ちる。
「........____《《今度は》》、俺がキミを護るよ。
俺の、命に代えても」
そういって髪を縛っている髪紐についている古びた2つの鈴を愛おしそうに撫でた。




