07 ダンジョン1層
ついにこの日がやって来た。
まだ日が昇り始める前の時間、ダンジョンの入り口前に遠征メンバーが集合していた。
こんなに朝早くから向かうのは混雑を避けるためであるらしい。ダンジョンは世界中から冒険者が富や己の強さを試す場所を求めて大量に押し寄せる場所で1日あたり2000人近く潜るそうだ。
「これよりダンジョンに入ります。事前に分けた班ごとに別れて下さい」
全員が集合し、よく通る声で皆に指示を出し始めたのはこの遠征を指揮することになった騎士団副団長のメディナだ。今日も金糸のように美しい金髪をポニーテールにまとめ上げている。
界人は綺麗な人がいるなというぐらいの感想しか思い浮かばないが、この遠征のために訓練を続けてきたクラスメイト(男子)たちはメディナに惚れている奴らが多数見受けられる。
スタイルが良く出る所は出て引き締まる所は締まり、凛々しく高潔な少し年上のお姉さんが人気
の理由なのだそうだ―――と都市に向かう馬車の中でH4から教えられた。別に知りたくは無かったが。
班分けは生徒たち5人で1班とし騎士団員2名が補助に就く形で5班に分かれた。残りの騎士団員たちは何かあった時のために、連絡・支援・回復の交代要員として後方とダンジョン外で分かれて控えている。
今回の界人の目的はミスリル鉱石の採掘なのだが、ミスリル鉱石は9層以降から採掘できるため途中まで他の班に混ぜてもらうことになった。
混ぜてもらう肝心のメンバーはというと―――
「四津谷君もしばらくは一緒によろしくね」
はい、なんとなく有本さんの班になると思ってました。
「いやー良かったぁ。この班の人たちでよく話したことがある人って居なかったから。それに渡辺君たちってちょっとなんというか・・・」
有本さんがそう言うのも無理はないと思った。何故ならこのクラスにはH4と並び変な呼び名が付いている奴らが他にもいるからだ。
基本的に小夜たち以外のクラスメイトとあまり会話をしてこなかった界人でもそいつらのことは知っていた。何故なら入学当初に執拗に部活勧誘されたからである。
名前は、渡辺清志(柔道部)・坂田敦(ボクシング部)・碓井光良(ラグビー部)・卜部武司(剣道部)だったはずだ。
全員この前まで中坊だった癖にやたらとガタイがよくほぼ体が完成されていた。休み時間にはよく4人で集まりマッスル談議に花を咲かせていたため、Muscle4《マッスル4兄弟》でM4と呼ばれるようになった。
「「「「「よろしくっ!!!!」」」」
4人ともマスキュラーポーズである。
うん、ただ挨拶されただけなのに暑苦しいな。もしかして、有本さんはこのM4どもの相手を俺にしてほしくてこの班に入れたのかもしれない。
「えっとよろしくねぇー・・・」
見ろ、あのコミュ障お化けの有本さんまであまりの暑苦しさにちょっと引いてるぞ
そして軽く?挨拶を交わし俺たちは順番にダンジョンに入っていった。
ダンジョン内に入ってまず感じたことは意外にも中が明るいなと思ったことだ。たしかに薄暗くはあるが壁から所々、緑色に淡く光っている場所がある。
光っている場所を[眼識]を使って視てみると―――
『緑灯石』《りょくとうせき》(粗悪)
蓄光石の一種。魔力を貯蓄し発光する。
スキルで視たものがこんな感じで頭の中に情報が流れ込んでくる。スキルのレベルを上げればもう少し詳しく知ることが出来るみたいだが、今はこんなものである。
補助として就いている騎士団員に聞いてみたら、どうやらダンジョン内ではどの階層の壁にも緑灯石が埋まっているらしく視界の確保には困難しないようだ。おまけにカンテラも持ってきているため不安もない。
今日の目標は2層の入り口までなのでモンスターもあまり出現せず、落ち着いてダンジョンに体を慣らすことが出来るだろう。
30分程ダンジョンを進んでいると先の方でモンスターの鳴き声のようなものと誰かが戦っているような音が聞こえてきた。
音が止み、何人かが話している方に近づいていくとどうやら先に入っていた違う班のH4と牧野さんのパーティーだったらしい。
「あっ、小夜ちゃんだ!おーい!」
向こうも近づくこちらに気づいたようで声を掛けてきた。
彼女らの傍には先程まで戦っていたと思われるモンスターの死骸が転がっていた。
「よっ!渡辺達じゃないか!」
「オウ、美作か!早速モンスターを倒したらしいな」
どうやらM4と美作は仲が良いらしく固い握手を交わしながら話し始めている。
「ほむらも筋トレが好きでね、俺たちといる時以外は彼らとよく話しているんだよ」
俺が不思議そうに見ていたのが気になったのか翼が話しかけてきた。
「たしかに暑苦しい所は似ているしな」
「おいおい・・・少しはクラスメイトに対して言葉を選べよ。全くキミは」
翼も多少はそう思っているのか苦笑しながら抗議してきた。
「ちなみにこのレッサーマウスは誰が倒したんだ?」
俺は死骸の近くにしゃがみ込み指さしながら尋ねた。
「あぁそいつはーーー」
「私です」
そう言いながら眼鏡のフレームの真ん中をクイッと押しながら会話に入ってきたのは信次郎だった。
「そうか、メガネ君。綺麗に倒したな」
「メっ、メガネ君だと!訂正しろ!私には西門信次郎という名前があってだなーーー」
メガネ君が何か言っているがそんなことよりも俺はレッサーマウスの死骸を視る。
『レッサーマウス』(死骸:良)
齧歯類の一種。マウス系モンスターの最低種。
スキルじゃ少ししかわからないので補足すると、地球のドブネズミよりも少し大きく尻尾の長さは体長の2倍もある大きなネズミである。体色は赤褐色や灰褐色などの個体がいる。
噛みつき攻撃をしてくるが動きが遅く簡単に躱せる。ただし、複数回嚙まれると全身に痒みと発疹が出るようになるので要注意。弱点は尻尾。
こんな所だろう。この情報は昨日冒険者ギルドで貰った冊子に書いてあった。冊子の内容もちゃんと頭に入っているようで安心した。
「この死骸はどうするんだ?」
俺はレッサーマウスの死骸を回収するのかどうかの確認の意味を込めて聞いてみる。
「はぁ・・・人の話を聞かないのに自分の話は聞いてもらえると思ってるなんて・・・。まぁ、いいです。その程度のモンスターであれば回収する必要はないので放棄でいいでしょう。荷物が嵩張りますから」
「じゃあ、こいつは俺が貰っていいか?」
「・・・ええ、お好きにどうぞ」
信次郎が同意したので界人は背負っていたカバンからナイフと布を取り出し、手際よくレッサーマウスの死骸を解体して体内に埋まっているビー玉程の魔石を取り出し肉と皮に分けていった。
「随分と手際がいいな」
「ええ、流石は鍛冶師といったところでしょうか」
翼と信次郎は界人がモンスターの解体作業をする所を関心しながら見ていると界人は剥いだ皮を取り出した布に包みカバンにしまった。そして魔石を信次郎に放った。
「それは譲ってくれた駄賃だ。それ一つじゃ売っても大した金にはならないと思うけど、小さいから邪魔にはならないだろ?」
界人の見立てでは渡した魔石は銅貨で5枚ぐらい(約500円)だろうと思っている。
「分かりました。これは報酬と思って受け取っておきましょう。肉の方は回収しないのですか?」
「ああ。レッサーマウスの肉は食えたもんじゃないし、骨は加工するには細すぎて柔らかいから向いてないんだよ」
「モンスターについて詳しいんですね」
「まあな、一応鍛冶師だぞ。素材を扱ううえで必要な知識は身につけてるし、ダンジョンに潜るにあたって勉強もしてきた。俺はお前らのようには戦えないからな」
本職じゃない俺が戦っても時間がかかりすぎるし、何より戦闘訓練すら受けてないからな。




