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03 魔法と魔術

異世界召喚2日目の朝、ベッドから起き上がり顔を洗いに部屋に備え付けの洗面所に向かう。


(昨日、サルバスさんが言ってた俺を手伝いたいっていうのは本気なんだろうか・・・。会ったばかりの人だし本を借りて独学で試そうと思ってたんだけど)


「ま、何もなしの独学でやるよりかは少しでも知識のある人に教えてもらうほうが早く作れるようになるかもしれないしそれでいっか」


顔を洗った界人は学校の制服に着替え朝食を食べに食堂へ向かった。食堂の席は自由だが、毎朝決まった時間には全員で食事をするルールがクラスで決まったらしい。書庫から部屋に帰った後、呼び出されて『蒼天の間』にクラス全員と吉田先生が集まり話し合って決めた。だが、界人は魔道具作りのことで思考が上の空だったので話し合いの場にいても参加していないようなものだった。


「よかった、おはよう四津谷君。ちゃんと食堂に来てくれたみたいね」

「おはよう有本さん。だって君が昨日しつこく「朝食は全員集まってとるから、食堂には毎朝来るように」っていうからちゃんと起きてきたんだよ」

「しつこいって何よ!私は、委員長としてみんなで決めたルールに和を乱しそうな人がいたから注意しただけよ。」

「もぉー朝から喧嘩ばっかりして二人共仲良しだね。おはよう!小夜ちゃんそれに四津谷君」

「あぁ、おはよう牧野さん。それと・・・」


界人は月石の後ろにいつも通りH4メンバーがいることと朝からこの濃い連中に絡まれることを考えて見知らぬフリをしようとした。


「おいっ!今、めんどくさいと思って俺たちに挨拶せず無視しようとしただろ!いくら君とはそこまで親しくないと言っても何度も顔を合わせてるんだし、挨拶ぐらいしてくれてもいいだろ!」

「そうだよ。僕だって一応、君とクラスメイトなんだし無視されると悲しいなぁ・・・」

「挨拶は人として当然の礼儀です。四津谷君これからは気をつけるように」

「翼の言う通りだぜ四津谷、シカトは寂しいじゃねぇか!これから一緒に食事をとるんだしな」


(は?この喧しい連中と一緒に食事だと?ダメだ、朝から気分がだだ下がりだ・・・)


「小夜ちゃんと四津谷君も一緒の席で食事しようよ♪」

「・・・・・へ?よよよよ四津谷君と一緒に食事⁉そそそそんなこと許されるの⁉」


月石はテンパる親友の様子を微笑ましく思いつつ、声を落として小夜にしか聞き取れない声で宥める。


「落ち着いて小夜ちゃん。実はね、道明寺君たちに小夜ちゃんが四津谷君に食事を誘ってもまた断られたら可哀想って話したら俺たちに任せてくれって」

「可哀想って、余計なお世話よ!だいたいつっきーが誘ったってまた断られるに決まってるじゃない」

「そこは・・・ほら見てて」


月石に促されて小夜は界人の方を見た。


「牧野さん悪いけど、俺は一人で―――」

「そう固ぇこと言うなよ。あそこの席確保してるから早くいこうぜ!じゃないと朝食の時間がなくなっちまう」

「相変わらず君は声がデカくて品がないですね。ですが、時間は有限です。さっさと食べましょう」

「僕が席を確保しておいたんだよほむら!君の手柄みたいに言ってるけど~」


ほむらが界人の肩に腕を回し信次郎がほむらの言葉遣いに嘆息した。そのまま怜が確保したという席に界人を問答無用で連れていき、信次郎と怜が二人の後ろを追うようについて行った。


「こんな感じでいいかい牧野さん。少々強引だったけどなんとか四津谷君と一緒に食事が出来そうだよ」

「ありがとう道明寺君。すごく助かったよ!」

「いや、いいんだ。俺たちも君の力になれて嬉しいから」

「じゃあ、一緒にいこっか♪」

「あぁ!」

「ええ、そうね・・・」

 

(つっきーが自分に好意を寄せてる道明寺君たちを誑かすように仕向けるなんてなんだか小悪魔みたいね)


小夜は親友の行動に複雑な思いになりながらもついて行った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 


「はぁぁやっと自由時間だー。朝から散々な目にあったし、俺があいつらになんか悪いことしたかよぉ」


昨日と同じように午前中に座学が終わり、午後からは自由時間となった。昼食まで付き合わされてはかなわないと思い、座学が終わるとそそくさと逃げてきた。


「とりあえず、書庫に行ってサルバスさんに会ってくるか」


界人は急ぎ足で書庫まで向かい、大きな扉を開け中に入った。するとカウンター付近に二人いるのが見えた。一人はサルバスでもう一人は背格好が低く寸胴な体型で何かの職人のような服を着ていた。


「おや、お早いですねカイト様。まだ正午になったばかりですよ。」

「いやぁ、ちょっとめんどくさいことになりそうだったので、逃げてきたといいますか。なんといいますか・・・はは」

「ん?まぁ深く聞かない方がいいのでしょうね。ですが、この者と顔合わせするにはちょうど良いタイミングでした。彼はこの国お抱えの宮廷鍛冶師です」

「鍛冶師のハミルトンって言います。カイト様のことはサルバス様から聞きましたぜ。あっしは上品な言葉遣いが苦手なモンで許して下せぇ」

「いえ、言葉遣いはそんなに気にしないので普段通り話してください」


それよりも界人の内心は目の前の人物を見たときからワクワクした気持ちが抑えられず、ニヤケそうになる顔の表情筋を抑えるのに必死になっていた。そう、なにせ目の前にいるのは身長が150センチぐらいで樽のような体型でありながら太ってるというよりは胸板は分厚い筋肉に覆われている。腕は剛腕と呼ぶにふさわしい太さで顎を覆い隠すように長く立派な髭を生やしている。


「いきなり失礼ですけど、もしかしてドワーフですか?」


興奮した界人はそう聞かずにはいられなかった。


「へい、そうですが。あっしらのことをご存知で?」

「もちろん!元居た世界にも色んな本やゲームにも出てきましたから!」


それから界人達は書庫の奥にあるサルバスの書斎に移り、界人の知識にあるドワーフという種族についてサルバスとハミルトンに語った。


「なるほど、カイト様の世界にはドワーフについて描かれた創作物などはあるが実在はしていないと・・・興味深いですねぇ」

「あっしは変な気分ですぜ。ドワーフが違う世界でも知られているってことに」


二人とも不思議な顔をして考え込んでしまった。たしかに界人が元居た世界の地球にはファンタジーの定番であるドワーフなどの種族について描かれた二次創作は多いが実在はしない。にもかかわらず、外見の特徴は一致していることから界人も二人と同様に考え込んだ。


(実在しないのに確かに変だよなぁー。異世界なんだから人間以外の他種族がいるのが当たり前だと思ってたけど、じゃあどうして地球では知られてるんだ?)


「はっ!申し訳ございませんカイト様。つい考え込んでしまったようです」

「あ、いえ俺も考え込んじゃったんで」


界人は考えても分からないことだったので思考を放棄し、サルバスの呼びかけに意識を戻した。


「それでカイト様にハミルトンを紹介した理由ですが、彼のもとで鍛冶師としての知識と経験を学んでもらいたいと思います。恐らくカイト様は鉄仕事などの経験はないのではないかと思いましたので」

「はい、確かにそうです。実際、鍛冶師としてどういう風に武器や道具を作るのか分らないので紹介してもらえて助かりました」

「いえいえ近いうちに勇者様方の方にもご自分の職業に見合った指導者がつくと思いますので少し早まっただけのことです。それから魔術については稚拙ながら私の方でご指導させていただきます」

「えっ?サルバスさんが教えてくれるんですか?」

「はい。適任者は私の方がいいと思いましたので」


それまで二人の会話を黙って聞いていたハミルトンが説明するように口を開いた。


「サルバス様は元々、宮廷魔法師団の団長だったんですぜ。しかし、魔法を扱える人ってのが100人に1人と言われるぐらいに少ねぇんでさぁ。そこで魔法師としての素質がなくても扱える魔術について研究し、この国の魔術分野を二十年推進したとまで言われてるんでさぁ」

「この国がある南大陸ではあまり魔術について研究されていませんでしたから。若い頃に遠征で行った西大陸の帝国の魔術技術と比べると私の知識などまだまだ児戯にも等しいものです」


その後、界人は明後日から午後の時間にハミルトンのもとで鍛冶師として修業を行うことが決定しハミルトンは自分の工房に戻っていった。界人も礼をしてから部屋に戻ろうと思ったらサルバスが魔術の講義を今からでも始められると言ったためその場に残った。


「ではカイト様、魔術についてどのようなものかご存知でしょうか?」

「えーと、この世界ではどうか分らないですけど、イメージとしては魔法陣とか呪文を唱えて不思議な現象を起こすものって認識なんですけど・・・」


確信はないが、日本のアニメ・ラノベではそうだったんだから可能性は高いんじゃないかと界人は考えている。何故なら彼がオタクだから、そしてそれを裏付けるように―――


「はい。カイト様の認識されているものとほとんど変わりありません」

「やっぱり!そうですか。いやぁなんとなくそうなんじゃないかなと思ってたんですけど当たってよかったです」

「確かに魔法陣による魔術と呪文などの詠唱して効果を発揮する魔術はございます。しかし詠唱する魔術は魔法師が放つ魔法よりも威力と精度が格段に劣ります」

「それは何故なんですか?」

「理由はいくつかございますが、まず一つ魔法師が魔法を行使する際に体内に保有する魔力を使います。魔術も同様に魔力を使うのですが、魔力孔まりょくこうと呼ばれる魔力を噴出するための穴の数が魔法師の方が圧倒的に多いのです。魔力孔の数が多いということは体外に放出する魔力の量が多く威力も比例するように増します」

「威力が変わるのは分かりました。でも魔術が精度も劣るのは何故なんですか?」

「それが二つ目になります。魔法師の適性がある者は副次的に[魔力操作]のスキルも持っていることが多いのです。このスキルは始めから体内にある魔力の流れを感じ取る事ができ、手足を動かすのと同じように魔力を自在に扱えます。例えば、第一階梯だいいちかいてい魔法のファイヤーボールは使用者の力量次第で数と射程、狙った箇所に正確に当てる事が出来るようになります」

「じゃあ詠唱する魔術じゃなくて魔法陣の魔術の方が優れているとうことですか?」

「一概にそうとは言えませんが、汎用性の面で優れているのは魔法陣の方だと私は考えています。そもそも詠唱する魔術は戦場で魔法に対抗するために生み出されたものだと言われています。魔法は強力な戦力ですが、それを使う魔法師の数は一般の兵士より圧倒的に少ないのです。魔力自体は誰もが持っている物なので複数の集団規模で詠唱する魔術は戦場でよく使われています」


そこでサルバスは一旦言葉を切り、界人が理解出来ているの確認した。


一方、界人はサルバスが話した内容を一言一句聞き逃すまいと必死になって聞きメモを取っていた。その様子に問題なく界人がついてこられそうだと判断したサルバスは説明を続ける。


「戦場では移り変わる戦況で迅速な対応とどんな物でも物資は貴重になるため魔法陣はあまり使われません。しかし、それ以外の場合には魔法陣は大いに役立っています。例えば・・・」


サルバスが席を立ち、棚から丸められた紙束のうちの一つを持って戻って来た。それを界人が不思議そうに見る。


「これはスクロールと呼ばれる簡易的な魔道具の一種です。武器や道具に魔術を付与する魔道具を作ることは出来ませんが、このスクロールは市場にも出回っているぐらいに安価に買えるもので魔術の心得があれば誰でも作ることができます」


そう言いながらサルバスはスクロールと呼んだ紙を机の上に広げて更に上にコップを載せた。広げられた紙には大きさの違ういくつかの円と四角形などの図形が複雑に重なり、この世界の言語と思われる文字が図形の隙間や周りに規則正しく等間隔で書かれている。


「これが魔法陣ってものですか?」


界人はサルバスに質問したが、そうだろうと確信していた。界人がオタク的な知識を持っているからではなく、つい最近にもこの世界に来る直前に教室で見たからだ。


サルバスが魔法陣の縁に軽く触れると薄く魔法陣がひかり、コップの中に水が溜まっていた。 


「ええ、これは水を召喚する魔術の魔法陣です。この円の中に入る器の水を呼び出すことが出来ます」


その光景を見て、界人は歓喜した。この世界に来て、有り得ないことはもう何度も体験しているがそれでも驚かずにはいられない。だって男の子だから。


「この水はちゃんと飲める物ですよ。カイト様もやってみますか?」


サルバスも界人がうずうずしているのが分かったので提案した。


「勿論!やらせて下さい!」


それから界人は何度も水をコップに召喚しては飲んで召喚しては飲んでと繰り返した。


「うっ・・・もう無理。さすがに腹がちゃぽんちゃぽんで苦しい・・・」


自業自得なのでサルバスも苦笑している。


「では本日はこれをお見せして最後にいたしましょうか」


サルバスはそう言うと、界人が召喚してコップに入ったままの水に向けて手を翳し一言―――


「ファイヤーボール」


サルバスの手のひらからビー玉ぐらいのサイズの火球が飛び出し、ゆっくりとコップの中に入った。すると水はたちまち水蒸気をあげながら消えた。


「今のが魔法というものですか?サルバスさん!」


界人は目を丸くし、魔法陣の時以上に初めて見た魔法に興奮していた。


だがこの場にサルバス以外にもファイヤーボールが使える魔法師がいた場合、絶句ししばらく動くことも出来ず己の技量を恥じたことだろう。


本来ファイヤーボールとは20~50センチぐらいの大きさで標的に当たると火が燃え広がり熱ダメージを与える魔法である。それをビー玉サイズまで圧縮しコップを割らずに水をあっという間に蒸発させる技量は一介の魔法師ではとても真似が出来ないだろう。


(恐らくファイヤーボールって魔法は普通の攻撃魔法だよな?それをこんな使い方、普通はしないよな。魔法ってのはこんな事もできるのか、やっぱすげー!)


そんなことを知らない界人であるが、魔法が魔術よりも精度が上だと言ったサルバスの発言の意味をなんとなく理解していた。



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