燃える真珠湾
第二波攻撃隊は、真珠湾に向けて飛行中である。
早朝というともあり、空には薄っすらと海の地平線から太陽の光が散りだしている。
二波ということもあり、かなり多くの迎撃戦闘機が予想されるらしい。先鋭の零戦部隊がどうにかしてくれていると良いが。
操縦桿を握る手が更に震える。死ぬかもしれないのだ。しかしそれは同時に銃後にいる家族や国民にを多くの危険にさらすことになる。
そういえばこんなことを思い出した。
「生きてこその人生だ。決して国のため死のうと思うな。生きて国のために尽くすことこそが、人間の尊厳を守り、国への孝行を成せる」
父親から海軍入隊前にもらった言葉だ。
なんというか、うん、その時は深くは考えなかったが、今になって重さを実感する。
絶対、生きて帰る。そして、一人でも多くの国民を敵国、すなわちアメリカから守る。そう決めた。
ハワイ二迎撃戦闘機アリ──
中央部からの電報だ。。
窓から外を覗く。まだハワイは見えてこない。
ハワイが見えてきた。ついにこのときがやってきたのだ。
操縦桿を握る手は、より一層強く、そして操縦桿を前へと押し出す。
ハワイが見えるやいなや、第二波攻撃隊は上げしい対空砲火に包まれる。
第一波だったらこんなことはなかったのか、それに比べこちらはハードゲームだ。
多くの弾幕が私達を襲う。初陣の仲間の日の丸が次々と落とされていく。
艦攻隊の目標は敵飛行場。どうやら一派が破壊し損なったらしい。そして爆弾が余っていれば敵艦隊を攻撃、ということらしい。
しかしこの弾幕と黒煙では正確に戦艦などの大型船は疎か駆逐艦など狙えるわけがない。しかも第一波により殆ほとんど大型船は破壊し尽くされ、海には大量の重油で溢れている。
飛行場はほぼ被弾がなく健在で、攻撃しようとしている今この瞬間にも発進準備が行われていた。そこに容赦なく爆弾を落としてゆく味方機。飛行場は炎につつまれ、当然多数の戦闘機郡を破壊、そしてそこにいた人も──
眼の前で一機、また一機と味方機が落とされていく。
初めて”戦争”というものを目の当たりにした。敵味方関係なく被害が出る。なにも生まれない。そこにあるのは破壊だけだ。
かといって戦うのはやめない。人々を守るために戦う。決して破壊を目的とはしていないのだ。と自分に言い聞かせる。
そうでもしないと頭がおかしくなりそうだ。
しかも今は艦攻という”攻撃”に特化した機体に乗っている。そしてそれを守るのは艦戦。我々を敵防空部隊から”防御”するという役割だ。このときのこの考えは後のキャリアに影響する、、、、と思う。
飛行場を爆撃し、滑走路を破壊、これが私の初戦果となる。
喜んだのもつかの間、後方からの機銃射撃に襲われる。激しい弾幕が97艦攻へ猛攻を加える。幸い途中で味方戦闘機がやってきて救われたが、後方への命中により小破、急降下は難しくなってしまった。
私はその戦闘機の番号を確認し、帰艦したらお礼を言おうと決意した。
そして帰路につく。激しい。あまりにも激しかった。幾重にも重なる対空弾幕、燃え上がる戦艦ノースカロライナ、ネバダ。
無事着艦に成功すると、水兵さんが出迎えてくれた。
「おまえらよくやったな!敵戦艦多数撃沈か!米帝も腰を抜かしているだろう!」
「どうもありがとうございます」
眼の前であんな惨事をみてきた手前、そこまで喜べない。肝心の空母もいなかったのだ。
そして戦果報告をしに艦長室へ向かう。
「川内であります」
「入れ」
柳本大佐と話すのはこれくらいの時しかない。
「敵飛行場を破壊、多数の戦闘機を破壊しました」
「そうか、、、やはり空母はいなかったか?」
「影もありませんでした」
そう答えると艦長は、すこし暗い表情をしていた。