表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空のうねり  作者: farowa
2/4

空に舞う日の丸

 艦長によると、アメリカの見張り線を警戒し、過去に渡航したアメリカ艦船がいない北方を航海することになった。

 空気がひんやりする。時期も11月末であり、初冬である。

 しかしそんなことは一度中に入ると忘れることができる。

「米帝なんか敵じゃない!」

「真珠湾を火の海にしてやる!!」

「アメリカ恐るるにたらず!」

 などと乗組員や航空兵が騒ぐ。艦内は極寒の海とは対照的に歓喜の声とやる気で満ち溢れ、熱気に包まれていた。

 よく考えれば前兆があったかもしれない。支那事変から始まる一連の経済制裁、ABCD包囲網、インドシナ進駐へのハル・ノート。

 しかし勝てるのだろうか??

 いや、勝てる。絶対に。戦争に負けたことがない我が国。こんどもそうにきまってる。

 私達の任務は敵太平洋艦隊にダメージを与えることと聞いている。空母があれば積極的に破壊しろとの命令だ。 

 真珠湾はアメリカの一大拠点であり多数の石油や艦隊のドックがある。ここの破壊は戦略的に重要であるのだ。上層部は短期決戦で早期講話、が目的らしい。最も、現場にはその声は届いていないが。

 この作戦は秘密裏故に友人は疎か家族にもこのことを伝えられない。

「よお。そっちの調子は?」

 振り返ると、竹末がいた。

 竹末は同じ同期ではあるがいわゆる出世コースである。航空隊の隊長とまではいかないが先の重慶爆撃護衛での戦果もあって、それに拍車をかけている。

「まあまあじゃないか?あんまり暑苦しいのは嫌だけどね」

「あはは、そうか」

「ところでこの戦争、勝てると思うか?ココだけの話でいい」と竹末が言う。

「もちろん」

即答する。たとえできなくともそう信じなければならない。わたしたちは軍人だ。

「川内もそう思うか、俺もだ」

 後で聞いた話になるが、勝てない、負けるなどといったやつは上官に突き出して"教育"されたらしい。

 友が末恐ろしくなってきた。 


 そんなこんなであっという間に航海期間がすぎる。

 結局日本はハル・ノートを拒否。真珠湾への攻撃が確定する。

 「以後、艦内では規律を守り攻撃に備えるように」

 艦長の声が響く。

「ほんとに始まるのか。。。」思わず声を漏らす。

 実感が湧いてきて、今になって不安になってきた。

「なに心配してんだ!だいじょぶだって!」

 そう声をかけてきたのは所属している航空隊隊長、入野隊長であった。

 隊長は部下に優しく、信頼も厚い。おまけにイケメンで飛行技術も高い。何も勝る部分がない私は劣等感さえ覚える。

 「キミはあの訓練を受けたんだろう、大丈夫だ」

 そう自信をつけられ、寝床につく。


 新高山登レ一二〇八──

 12月2日。大本営から電報を受け取る。それまさしく、出撃命令だ。

 艦内はさらにピリつく。日本機動部隊がハワイへ舵を切った瞬間である。

 そこからの5日間は作戦を頭に叩き込まれた。どうやら現地日本領事館が諜報活動をしていたらしく、空母の有無、そして戦艦の数までもが知らされていた。

 私達艦攻の目標は海上艦隊の破壊、撃滅だ。艦戦は迎撃戦闘機の処理や地上への機銃掃射、艦爆は地上軍事施設、石油タンカー、小型船の破壊が目標だ。

 

 そしてきたる12月8日午前1時30分──第一波攻撃隊が攻撃ヘ向かう。

 眼の前で空へ羽ばたいていく零戦、97艦攻、99艦爆。この内何機が生還するかはわからない。もしかしたら事前に米が暗号解読に成功し、大量の迎撃戦闘機が待っているのかもしれない。

 恐怖だ。一機も帰ってこなかったら死にに行くようなものだ。

 私と竹内、入野さんは第二波として攻撃へ向かう算段になっている。祈るような気持ちで電報を待つ。

 ──米艦隊に多大なる損害を与えたり。空母は発見されず。

 帰還した人物によると、真珠湾は奇襲を受けた形となり、大損害を被ったらしい。

「第二波攻撃隊、艦攻部隊は兵装転換!目標、敵航空基地!」

 兵装転換を終え、いよいよ艦攻に乗り込む。初の実践が大舞台だ。

 乗り込む前に隊長が言った、

「一発かましてこい」

 という言葉で正気を取り戻した。

 まずは竹内ら艦戦が発艦する。きっと敵戦闘機を迎撃してくれるはずだ。そうしないとぽっくり逝ってしまう。

 続いて私達艦攻隊。前に続いて飛び立つ。

 操縦桿を握る手は、意識とは別に震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ