夜明け
気持ちの良い朝だ。朝日が美しい。
一人の帝国海軍軍人川内 仁。いまは空母飛龍での艦上攻撃機乗りである。
いまは来る大規模作戦に向けて猛訓練中である。お陰で体が持たない。
今はしばし休暇をとり実家である東京に帰省中だ。なかなかに給料もよく、食べるには困らない。
余ったお金で両親に孝行したい。そう考えている。
新聞を取りにポストへ向かう。毎日の新聞は欠かさず読んでいる。
新聞を取り終わったあとにふとポストも見るとなにやら厚い冊子らしきものが入っている。
回覧板か??いやそれはない。毎回人の手によって届けられているらしい。
ふと中に持ち込み中身を覗いてみることにした。表紙からは「告」と読み取れる。にしても色彩が豊かだ。ぼろぼろなのは気になるが。
パラパラとページを捲るに連れ、このような時が目に入ってきた。「敗戦」「占領」「日本国」
、、、なにをいっているんだ。いまは大日本帝国だし、占領されたことも、戦争に負けたこともない。まあ唯一白村江の戦いというものがあるが。
いまは米英との関係悪化で軍部がピリついている。
こんなものを高等警察や憲兵隊に見られたらそれこそ親孝行どころの話ではなくなる。即お縄の大惨事だ。
捨てようかとも考えたが、神のお告げという考えもできなくはない。その可能性を感じだ私はこの冊子を密かに内ポケットに忍ばせる。
休暇を終え、同じ艦攻の航空兵とともにどういうわけか鹿児島湾に向かった。
恐らくは次の作戦の地形に似せているはずだ。支那前線か?しかし中華は海軍がほとんどいないときく。
陸軍さんに任せているはずだ。
しかしこの地形どこかで目にしたことがある。水深が10mもない。そんな事を考えながら訓練をする。
「川内!何だその投下は!!」
上官が言う。そもそも10mでの魚雷攻撃なんて無理に近い。あの艦攻の神様、江草さんでさえ失敗する。
しかし海軍上層部のこの謎の作戦に対する熱意はすごいらしい。全員が魚雷投下を成功できるようにさせたいらしい。
厳しい訓練を経て、なんとか魚雷を投下できるようになった。成功率はまちまちだ。
先輩から聞いた話だが、今度の作戦は赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の日本機動部隊6隻によって行われるらしい。大規模すぎる。まさか米英に宣戦布告するわけじゃなかろうな。もしそうなったら我々が死力を尽くして銃後を守り抜かなければならない。
その晩、択捉島に移動することになった。恐らく北方での演習だろう。
そこから数日後、択捉島につくと、機動部隊旗艦の赤城甲板に集められた。どうやら機動部隊司令の南雲閣下からの激励の言葉があるらしい。
蒼龍から赤城へ向かう途中に上官たちの話が聞こえてきた。
「にしてもこの作戦、ほんとに成功するのですか?」
「成功するしないじゃなく、やるんだよ!彼らにこのことが聞こえてたらどうするんだ!」
その瞬間、なにか鈍い音が聞こえた。恐らく海軍お得意の鉄拳制裁だろう。何度もやられてきた。
ソ連への奇襲???日ソ中立条約を破るなんてなかなか破天荒だ。大陸の真反対のナチスと連携でもとるのか?
「よお川内。調子は?」
「まあまあかな。昨日は少し寝すぎた。」
「相変わらずだな。こりゃ海軍の維新も落ちたなあ」
そういうのは私の同期、竹末 正憲だ。彼も同じく航空兵だが、彼は爆撃機乗りだ。
小さい頃から海軍の士官であった父から海軍話を聞いていたらしい。彼のおじいさんも元海軍で、あの日本海海戦にも参加した。彼の家は生粋の海軍家計だ。
「にしても今度はなんなんだろうな。突然の択捉移動だぜ?」彼が言う。
「さあ?北方演習でもするんじゃない?」私が続く。
甲板に到着し、南雲司令を拍手で迎える。司令がマイクの前に立つ。そして長い話が始まる。
竹末ともども聞き流していたが、司令のこの言葉ですべてが一変する。
「米に対し攻撃を敢行する!場所は真珠湾!」
すべての点がつながる。真珠湾の水深はおよそ12m。鹿児島湾と酷似する。
それから話は続く。
「アメリカ太平洋艦隊を全力を持ってこれを撃滅す、、、」と。
あの世界の工業大国に戦争を仕掛けるのか。一瞬たじろいだが、今までの猛訓練からして、負けるはずがない。今の大日本帝国海軍の練度は最高だ。米とは格が違う。
甲板には緊張感が走る。このあとすぐに出港するらしい。
11月26日の朝。6隻の日本海軍機動部隊郡が、択捉島を出港した。
歴史物です。ifが若干混ざっていますのでご容赦ください。